第38話 還りたい
あら、地を這っている魔物は行き先を見失っているのかしら。
無秩序に動き回ってるようね。
足止め役が居ない所為か、魔法が当たりにくいみたい。
動きが読めない分、苦戦してるんだわ。
さっきの剣士は飛んでいるヤツで手一杯みたいだし、他に足止めできそうなヤツは居ないの?
仕方ないわね。
こっちに来られても困るし、先手を打ちましょう。
先攻防衛っていうし。
とはいえ、あたしの鎌だと斬り刻むだけなのよね。
あの魔物には大して効果が無さそうだし……そうだ!
「火蜥蜴、あんたの力を借りるわよ」
「ぐるるる」
火蜥蜴は龍魚と違って素直だからいいわ。
相性もいいし。
じゃ、行くわよ。
火蜥蜴の力を借りて、今のあたしは鎌鼬よ!
ただの鎌だとバカにしないことね!
やあー!
「なんだあれは!」
「新手か? なんで村の奥から……」
新手とは失礼ね。
魔物より先にあなたたちを狩り取ってやろうかしら。
主様の呼びかけに答えなかった恨み、忘れたわけじゃないのよ!
でもあたしも大人だから、そこは不問にしてあげる。
さあ、主様の僕の力、特と拝みなさい。
「魔物を攻撃している?」
「味方……なのか」
「おい、あれは誰の術だ」
「切り裂きながら燃やしているのか」
この程度の魔物、なんてことないわ。
なんて鈍足なのかしら。
あたしの足に全然追いつけてないじゃないの。
所詮地を這う虫ね。
空を掛けるあたしに敵うわけがないのよ!
さっさと片付けて、還るわよ。
「何事だ」
「隊長!」
「正体不明の援軍です」
「正体不明? 誰かの術ではないのか」
「あのような炎の獣を使える者は居りません」
「では一体……」
ふふん、恐れ敬い讃えなさい!
でも1匹1匹だと面倒ね。
空の魔物も一斉に片付けて、精霊界に還るわよ。
火嵐!
「うおお、なんだ!」
「物凄い熱気だ」
「見ろ! 魔物が一瞬で灰になったぞ」
「こんな火力、見たことがない」
「何者なんだ……」
よしよし、これで見える範囲はあらかた片付いたわね。
後は任せてもう還っても……え?
なにいってるの、まだ還らないわよ。
主様のところに戻――
〝……りたい〟
――ってる暇があるなら還りたいわ。
嫌よ、まだ褒めてもらってないもの。
なんで還りたい……じゃなくて!
〝還りたい〟
あたしは還りたくなんかないわ。
いい加減にしてよ。
〝還りたいよ〟
やっと主様のところに戻ってこれたのよ。
なんでまたすぐ還りたい……早く還し……嫌よ!
〝こんなとこ、嫌! 還りたいの〟
あたしを巻き込まないで!
1人で還りなさい。
「どうした?」
「急に苦しみだしたように見えるぞ」
「隊長! 魔物が……」
「体勢を立て直せ! あと少しのはずだ」
「はい!」
〝独りは嫌。一緒に還ろうよ。何処に行ったの? 何処に居るの?〟
あたしには関係ないの!
還りたいなんて……還りたいなんて……
〝一緒に還ろう!〟
うん、還ろう。
独りは嫌だよね。
居るべき場所に……
〝元の世界に〟
共に還ろう。
次回は2人目の犠牲者です




