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第35話 言語学者

 ああ、愛しの兄様っ。

 またわたくしを置いて、シャコと出掛けられてしまったのでございますね。

 退屈な時間に支配されてしまうのでございます。


「きゃははは!」


 スズ様は無邪気に精霊様とお(たわむ)れになっておられるのでございます。

 精霊様がいらっしゃるというのに、アニカ様は浮かない顔をしてらっしゃられるのでございます。

 原因は一体なんだったのでございましょう。

 おや、どちら様でございましょう。

 離れに来られる方がおられるようでございます。

 隠れながら周囲を伺っておられるのでございます。

 フブキ様に驚かれているのでございます。

 あまり番犬としては優秀ではございませんね。

 追い払うどころか、喜んでいるのでございます。

 それでもめげずにこちらへ来ようとしていらっしゃるのは感心致すのでございます。

 村のゲスどもよりは肝が据わっていらっしゃるようでございますね。

 やはり容姿だけでは限界があるということでございましょうか。

 あら、目が合ったらお隠れになられたのでございます。

 ふふっ、アレでお隠れになっていらっしゃられるつもりなのでございますか。

 はぁ……仕方ございませんね。


「なにかご用でございますか?」

「ひっ。あ、え?」


 ああ、わたくしとしたことが、忘れていたのでございます。


「あははは、冷たーい!」

「娘、通訳しろ」

「あ、はい。分かりました」


 いちいち通訳しないと通じないのが面倒なのでございます。


「なにかご用でございますか?」

「お嬢ちゃんは私たちの言葉が話せるのですか?」

「はい、話せます。通訳しますので、お話しください」

「はい。それでは……あの、こちらに古代語が話せる方がいらっしゃると聞いたのですが」

「エイ()様のことでございますね。生憎席を外してい()のでございます。なにかご用でございますか?」

「いらっしゃらないのですか。できれば古代語をお教え頂ければと思ったのですが、残念です」


 ああ、そういえばそのような方がいらっしゃると仰っていたのでございます。

 この方がその方なのでございますね。


「古代語でございますか……娘、古代語は分か()な」

「いや、これは訳さなくていい」

「はい、申し訳あ()ません」

「構わない。お前が古代語……つまり母国語を教えてやれ」

彼ら(かえや)の言う古代語と11260いちまんいっせんにひゃくよくじゅう号の母国語は少し違います」

「古代語は分からんのか?」

「分か()ます」

「なら教えてやれ。読み書きもできるんだろ」

「可能です。分か()ました」

「古代語でございました()、こち()の娘が存じてい()のでございます」

「本当ですか?! まだお若いのに……素晴らしい。それで、あの……」

「鈴でよ()しけ()ば、お教えいたします」

「是非お願いします!」


 中々向上心があってよろしいのでございます。

 学者とはかく在るべきなのでございます。

 わたくしももっと錬金術について、お父様にご教授願いたかったのでございます。

 お兄様亡き後、もう戻ることも叶わないのでございますね。

 しかし、船以外でも娘が役に立つことがあるのでございますね。

 あの娘にとっても、よいことでございます。

 決して厄介払いができたとかではないのでございます。

 それにしても、精霊とは不思議なものでございます。

 わたくしの錬金術では、如何様にもできぬ存在なのでございます。

 さすがは異界の者なのでございます。

 如何様にできぬ存在といえば、タイム様に勝る存在はございません。

 精霊様はまだ理解できるのでございますが、タイム様は常識の範囲外なのでございます。

 一体どのような存在なのでございましょう。

 あのドローン(トンボ)も目視でないと存在を認識できないのでございます。

 まだまだ未熟、ということなのでございましょうか。

 あら? ドローン(トンボ)が飛び去ってしまったのでございます。

 なにかあったのでございましょうか。


「アニカ様」

ドローン(トンボ)が居なくなりましたね」

「お気づきでございましたか」

龍魚(リューギョ)ドローン(トンボ)を追えるかい?」

〝トンボ?〟

〝どこどこ?〟

〝あっちかな〟

〝そっちじゃないよ、こっちだよ〟

〝いくぞー〟

〝追うぞー!〟


 プカプカと騒いだかと思ったら、何処かへ行ってしまわれたのでございます。

 アニカ様にしか理解できないようでございますが……スズ様も理解なされるのでございましょうか。

次回はチョロインしかいない

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