第33話 招かれざる客
午後は農業区を回ることにした。
居住区と比べて家と家の距離が遠い。
歩いて回るのは骨が折れそうだ。
その代わり、納屋だ馬小屋だ牛小屋だと、隠れるところは沢山ある。
……馬や牛が居るのか。
となるとおかずの肉は牛か豚ってところか。
こいつらも毒素で汚染されているってこと?
ここで生きている以上、ナームコの言うとおりならそういうことだ。
魔獣化しないのか?
魔獣とは全然違うな。
ベースとなる動物が違うからか?
エイルも驚きを隠せないようだ。
それもそうか。
結界の中でオオネズミ以外の肉なんて見たことがない。
あるにはあるらしいが、かなりの高級品だって聞いたことがある。
こっちは先日の魔物の被害が少ないらしく、壊れた建物は見かけなかった。
『エイル、どうだ?』
『こっちはなにも感じないわ。やっぱりあの先に居る可能性が高いみたい』
『そうか……』
こりゃ本当に心琴さんと手合わせしなきゃならないかも。
なんとか戦わずに済む方法は無いかな。
「しかし、のどかな風景だな。町中と違って静かだし。なにより広々している。これ、トウモロコシ畑か?」
「そうですね。あちらには小麦畑もありますよ。この先には稲畑もあります」
「稲畑?」
「お米を作っている畑です」
「ああ、田んぼのことか」
稲畑なんて、変わった言い方するな。
と思ったんだけど……なんか田んぼっぽくない?
「ここが田んぼですか?」
「はい、ここが稲畑です」
青々と育った稲? が生えている……のか?
テレビで見た田んぼみたいに水がない。
「日照りが続いたんですか?」
「最近雨は降っていませんが、今の時期ならこんなものですね。特におかしなことにはなっていません」
「水は張らなくていいんですか?」
「張る? えーと、何処にでしょうか」
「モナカくん、ここは水稲じゃなくて陸稲なのだと思うわ」
「……え?」
スイトウ? リクトウ?
なんだそれは。
「水稲と陸稲。モナカくんが言っているのは水稲のことね。水を張ってそこで育てるんでしょ」
「ああ。そういうもんだろ」
「陸稲は水を張らずに育てる稲のことよ」
「そんな方法があるのか!」
「一さん、そうですよね」
「えーと、水を張って育てるって、なんですか?」
「知らないの?!」
なんてこった。
稲は田んぼに水を張って育てるのだとばかり思っていたけど、畑みたいに育てる稲もあるのか。
異世界独特の育て方かな。
一さんは田んぼを知らないみたいだし。
エイルはどうせ勇者小説で知ったんだろうし。
勇者小説、万能過ぎるぞ。
様々な畑を見た。
どれもこれも家庭菜園のようにこじんまりとしたものではなく、一面に同じ野菜が植えられている。
知っている野菜によく似たものが多いが、時々よく分からないものも植えられている。
俺が知らないだけかも知れないけど。
そんな景色を眺めながら散歩をする。
エイルは相変わらず上の空で、特に探している感じもしない。
痕跡とやらが感じられないんだろう。
完全に畑作の見学会だ。
しかしそれも1時間ほどで強制終了となった。
心琴さんの携帯に連絡が入った。
携帯電話、あるんだ。
「……分かった。警戒を怠るな。すぐ戻る」
「来たんだね」
「ああ、急いで戻るぞ」
「なにかあったんですか?」
「はい。済みませんが、今日はここまでです。戻りましょう」
なにがあったのかは教えてくれないのか。
心琴さんに連絡が入ったってことは、防衛隊が出動するようななにかってことだよな。
『タイム、もしかして魔物か?』
『うん、見て』
ドローンに離れを見守ってもらっていたが、思わぬことで役に立ったな。
場所は離れではなく、村と森の境か。
船が置いてある場所とも違う。
映像には羽で飛んでいる……あれはなんだ?
少なくとも鳥ではない。
ヘビ? ミミズ?
細長いクネクネしたものに羽が生えている。
かと思えば、凸凹な球状のものに幾つも羽が不規則に生えているものも居る。
なんであれで飛べるんだよ。
地面には不定形に薄く広がった液状? のなにかが這いずり回っている。
時折触手のようなものを伸ばして村人――防衛隊員かな――を襲っている。
『戦況は?』
『トラップで殆ど撃退できたけど、突破してきた一部が暴れてるみたい。さっき始まったばかりだからよく分かんないよ』
『サムライは出られるか?』
『ここからだと遠すぎるし、あんな大飯食らいは出せないよ』
『大飯食らいは言いすぎなのでありんす!』
『だから出てくるなっ!』
『むぎゅっ! ひ、酷いのであり――』
……えーと。サムライ、ごめん。
はあー、戻るまでなにもできなさそうだ。
次回は時子とエイル、どっちが重い?




