第31話 なによりも強い思い
アニカと2人、庭に出る。
他にはフブキしか居ない。
……フブキはいいのか?
「それで、話ってなんだ?」
「待って、もう少し向こうに行こう」
「フブキが居るからか?」
「わふん?!」
「違うよ。距離が大事なんだ」
「距離?」
「後で話すよ」
距離って、なんの距離だ?
アニカは手のひらを上に向けながら歩いている。
なにかを確かめながら歩いている感じだ。
距離を確かめている?
それが手のひらで分かるのか?
って、このままだと本家の庭に出ちまうぞ。
「アニカ、そっちに行きすぎると」
「分かってるけど……んー、ギリギリなんとかなるかな」
「ギリギリ?」
「ほら、これ」
そう言って見せられたのは、手のひらでうごめく光の粒だった。
消えては現れ、現れては消えを繰り返している小さな小さな光の粒だ。
「これは?」
「微精霊だよ」
「喚べるようになったのか!」
「うーん。それはちょっと解釈が違うんだ」
「解釈が違う?」
「元々喚べなくなってなんかなかったんだ」
「なってなかったって、実際召喚できてなかっただろ」
「思い出してよ。鎌鼬たちは僕の召喚に応じて出てきていたかい?」
「まーあいつらは喚びもしないのにいつも居たな」
契約していない精霊も遊びに来るのは日常茶飯事だった。
普通はあり得ないことだとフレッドも言っていたっけ。
「そう。僕は普段召喚なんてしてないんだ。そんな彼らが現れなくなったんだ」
「んー、分かり易く説明してくれないか?」
「兄さんが言ってたことを覚えてるかい?」
「えーと……すまん」
正直よく覚えていないし、そもそもどれのことだ?
「つまり、彼らが来たいという意思より来たくない……還りたいって意思が強いから来られなくなったんだ。呼べなくなったわけじゃない。だからその〝還りたい〟を取り除けば……」
「精霊の方からやってくる!」
「そういうこと」
そういえばそんなことを言っていたな。
確か妨害者が居る居ないみたいな話だったはず。
「じゃあ妨害者が分かったんだな」
「モナカくん、妨害者なんて居なかったよ」
「でもフレッドがそんなことを言っていなかったか?」
「兄さんが言ってたことは半分当たりで半分間違いなんだ」
「半分?」
「うん。〝還りたい〟っていう思いがボクを通して他の精霊に伝わってたのは、兄さんの言うとおりだったんだ。でも妨害者は居ないんだよ」
「てことは、〝還りたい〟って強く思っている精霊が原因ってことでいいのか?」
そんな精霊が居るとは思えないけど。
「そう……だったらよかったんだけどね」
「違うのか?」
話を纏めるとそういうことだと思ったんだけど、なにが違うんだ?
アニカは黙ってうつむいたまま動かない。
「精霊……じゃない」
漸く重い口を動かして出てきた言葉がそれだった。
「精霊じゃないんだよ」
「妨害者じゃないんだろ? 精霊でもなければなんだっていうんだ」
「人間だよ」
人間?
妨害者でもなく精霊でもないけど、人間だ……
妨害者って、人間のことじゃないのか?
「話が見えないぞ」
「トキコさんだよ」
「時子? なにがだ?」
「だから〝還りたい〟って強く思ってる人がトキコさんなんだ」
「時子が妨害者だって言いたいのか?」
「そうじゃないよ。ほら、前にも精霊が喚べるようになったって言ったことあったよね」
「ああ、ここに来る前だったな」
「あのとき、トキコさんはボクの側に居なかった」
「偶然だろ」
「さっきもボクの側に居なかった」
「喚べたのか!」
「みんなが帰ってくるまではね。鈴ちゃんに聞いてごらん。お魚さんと遊んでたって言うはずだよ」
「俺だって居なかったぞ」
「今は側に居るよね」
「う……エイルの可能性は?」
「無いよ」
「どうして言いきれる!」
「ボクはエイルさんを召喚してないからね」
召喚!
確かに時子はアニカによって誤召喚されている。
「だから時子なのか……」
「他に該当する人物は居ないんだよ」
「なあ、それってつまり」
「うん。トキコさんは元の世界に還りたいって、強く願ってる」
そういうことになる。
でもなんで今になって?
還りたいけどその前に先輩を探さなきゃって、いつも言っていたじゃないか。
先輩はいいのかよ。
「だからトキコさんが近くに居なければ、前と同じように精霊たちが出てこれるんだ」
「時子が邪魔だって言いたいのか?」
「違うよ! そんなに還りたいのなら、なんとか還してあげられないかなって。ボクには召喚した責任がある。還してあげるのは義務なんだ」
「時子がそんなことを望んでいるなんて信じられない」
先輩を置いて還る時子なんて、想像できるわけないだろ。
次回は初期タイムです




