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第30話 離したくない

「フブキー、たっだいまー! 元気だったか?」

「わふっ!」

「んー、それはよかった」


 昼飯の前に離れの庭に戻ってきた。


「パパー、ママー!」


 フブキと戯れ付いていると、後ろから鈴ちゃんが抱き付いてきた。


「おー鈴! ただいま。鈴も元気か?」

「うんっ!」

「そうか、よしよし」

「えへへー」

「兄様っ!」


 あー、面倒なのが来た。


「おう、生きていたのか」

「当然でございます」

「そうかー」


 しぶといヤツだ。

 ていうか抱き付いてくるな!

 足蹴にしても離れないことだけは評価してやる。

 評価はするが、はーなーれーろー。

 このっ、このっ、くのっ、くそっ。

 ったく。


「アニカ、ただいま」

「お帰りなさい。エイルさん、どうでしたか?」

「ただいま。見つからなかったけど、手がかりはあったわ」

「本当ですか!」

「なんだエイル、なにか見つけていたのか」

「ええ」

「なにを見つけたんだ?」

『モナカには話したわよね』

『なんだ、聞かれたら不味い話なのか?』

『そうよ』


 (はじめ)さんや心琴(みこと)さんが居るなら分かるが……

 一体なんだっていうんだ。


『確か痕跡がどうのって言っていたな』

『それが立入禁止って言っていた方から感じたのよ』

『立入禁止……どうするつもりだ?』

『どうもこうも、行くしかないでしょ』

『どうやって』

『歩いて』


 お前がボケてどうする!


『そういうことを聞いているんじゃない』

『うるさいわね。細かいことを気にする男は女にモテないわよ』

『細かくないぞ!』

『とにかく、どうにかして行くしかないの。行かないなんて話はないわ』

『どうしてもか』

『そうだ! モナカくん、心琴(みこと)さんと勝負しなさい』

『は?』


 どっからそういう話になるんだ。


『そして勝てたら通行を許可してもらうの』


 本気(マジ)か……


『そんな条件飲んでくれるか?』

(はじめ)さんは無理でしょうけど、心琴(みこと)さんなら丸め込めると思うわ』

『丸め込むのかよ』

『そこは任せて。だからモナカくんは勝って』

『大体そういうのはこっちが負けたときの条件だってないと勝負してくれないだろ』

『なんだっていいじゃない。勝てばいいんだから』


 お前なあ!


『勝負に絶対なんてないんだぞ』

『だから絶対に負けることなんてないのよ』


 それもそうか……ん? なんか変だぞ。


『……もし負けたら?』

『勝つのよ』


 負けは許されないってことか。

 あの人相手にどう勝つ?

 なんにしても、急いで格闘用のアプリを探して入れておかないと。


 お昼を食べた後、1時間ほどしてから出掛けることになった。

 その間に心琴(みこと)さんと一勝負させられるのか……と思ったが、2人一緒の用事らしい。

 なので離れでノンビリと待つことになった。


「モナカくん、ちょっといいかな」

「アニカ? どうかしたのか」

「うん。一緒に庭に出てくれないかい」

「なんだ、フブキと遊びたいのか?」

「違うよ」

「そうかー」

「それで、トキコさんは部屋で待っててほしいんだ」

「時子には内緒なのか」

「うーん、2人っきりで話がしたいんだよ」

「分かった。部屋で待っててくれ」

「うん」


 時子と手を離すのはここ最近無かった。

 勿論(もちろん)食事や風呂・トイレは別だ。

 終わればすぐに指を絡めて手を繋いでいる。

 それ以外で……という意味での話だ。

 普段ならパッと手を離して終わりなのだが……

 何故か離すのに時間が掛かってしまった。

 指の1本1本が張り付いているんじゃないかと言われても否定しづらい。

 絡み合った指がするすると滑り、それを嫌がるように指先を摘まんでしまう。

 そんな抵抗も虚しく、離ればなれになってしまった。

 時間にすれば数秒も掛からなかったのに、凄く長く感じてしまう。

 左手に残る時子の温もりが、徐々に冷めていく。

 それが凄く寂しい。

 今更解放されても、どう扱えばいいか分からないくらいだ。

 さっさと話を終わらせたい。


「すぐ戻る」

「あ、待ってよ」

次回は正体が判明しました

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