第28話 もう誤魔化されない
「あっちは行けないの？」
心琴さんが行こうとした方を、エイルが指をさして聞いている。
「すみません。あちらは立入禁止なんです」
「なにがあるんですか？」
「すみません。それはちょっと」
「〝あいつら〟と関係があるんですか？」
そういえばそんな話をしていたな。
「っはは。ま、そんなところです」
一さんも誤魔化せなかったかーみたいな感じだ。
……誤魔化されるところだった。
「〝あいつら〟って、さっき話していた魔物のことよね」
「あー、それは、その……」
「いいじゃねぇか。話しちまえよ」
「心琴ちゃんか判断することじゃないよ」
「チッ、わぁーったわぁーた。好きにしろぃ」
へぇー、言うときは言うんだ。
迫力はないけど。
「まぁ、でもそうですね。魔物が村の何処かに潜んでいるから心琴ちゃんを……護衛を付けられたんです」
「そうなんですか？ てっきり私たちから一さんを守るために居るのだと思いました」
はっきり言うなー。
でもエイルもそう思っていたのか。
「っはははは。否定はしませんが、肯定もしませんよ。でも、武器も持たずに心琴ちゃんに勝てるとも思えませんけどね」
「はっ！」
「信用しているんですね」
「心琴ちゃんは強いですから」
「私の用心棒も強いわよ」
それは俺のことか？
嬉しいことを言ってくれる。
「試してみる？」
一言余計だ！
「お、やんのか？」
「やりませんやりません！ 無駄な争いは止めましょう」
「あーん？ 弱っちぃ女と戦うのは無駄だって言いてぇのか」
「そういう意味じゃありません！ 戦う理由がありません」
「あるぞ」
あるのかよ。
「どっちが上か、はっきりさせようじゃねぇか！」
「はいはい降参です降参！ 俺の負けです。顔怖い！」
「モナカくん、女の子の顔を怖いなんて言うもんじゃないよ」
「そうですよ。こんなにも可愛い心琴ちゃんを捕まえて怖いだなんて。あり得ません！」
「てめぇはだーってろっ！」
「ならエイルはこの顔で迫られて直視できるのか？」
「……私は、その……戦闘は専門外だから」
このヤロウ！
せめて俺の顔を見て言え。
「ったくなさけねぇヤロウだな。キンタマ付いてんのかよ」
「心琴ちゃん、失礼だよ。付いているからお子さんが居るんだからね」
「じゃあタマナシは一か。っはははははは！」
「ちゃんと付いているよぅ」
「使わねぇなら無ぇのと一緒だバァーカ」
「うー」
「悔しかったら使ってみろぃ、ああ？」
「そんな理由で使えないよ。使わせてくれる女も居ないし」
「んあーっ！ さっさと行くぞっ」
だから俺たちは一体なにを見せられているんだって話！
なんだかんだでイチャついているなぁ。
って、それでさっき誤魔化されそうになったんだっけ。
「魔物が村に潜んでいるんですか？」
「あー、っははは。ええ、まぁ」
「もしかして、家が壊されていたのって……」
「はい……魔物の仕業です」
「よくあることなんですか？」
「あると言えばありますが、村にまで侵入されたのは数年ぶりですね」
「魔物って、空を飛ぶんですか？」
トラップは空中に仕掛けられていたからな。
そういうことなんだろう。
「飛ばない魔物って居るんですか？」
こっちだと魔物が飛ぶのは当たり前らしい。
……だから魔物と間違えられたのか。
「飛行タイプはまだ確認されていないわ」
「そうなんですか。ここでは飛んでいるのが当たり前なんです」
「つまりだ。今回の――」
「心琴ちゃん」
「おっと、こっから先は有料だぜ」
「有料でもダメだよ」
「けちくせぇなぁ。給料やしぃんだから稼がせろや」
「ダメだよ」
「チッ」
個人的な立場は心琴さんの方が上でも、仕事となると一さんの方が上なのをきちんと守っているのか。
よく切り替えられるな。
「そもそも彼らがここのお金を持ってると思うかい？」
「そうだったー。貧乏人め」
そういう理由で貧乏人と言われるのは心外だ。
否定はできないけど。
『なあエイル。どう考えても今回来たっていう魔物は、空を飛んでいなかったってことだよな』
『モナカくんにしては、頭が回るわね』
『そりゃどうも』
「村のことは村で対処します。これ以上詮索されるなら、案内ができなくなります」
「私たちも襲われる可能性があるのにですか？」
「その為の心琴ちゃんです」
「おう、任せときな！ 不本意だが仕事だ。てめぇらも守ってやる」
「……分かりました」
うわ、マジで聞き分けがいいぞ。
気味が悪いくらいだ。
でもこの調子なら俺の出番は無さそうだ。
全て心琴さんに任せてもいいだろう。
というか、俺が出ると武器を持っていたことがバレて面倒くさいからな。
とはいえ、これでこれ以上魔物のことについて知ることができなくなってしまった。
本音を言えば、根掘り葉掘り聞きたいんだけど。
いざというときは俺が必ず守る。
そう決めたんだ。
次回は心琴vsモナカです
