第27話 お邪魔虫
「それでは皆さん、行きましょう」
一さんの案内で探しに出発だ。
まずは居住区から行くそうだ。
ただの観光で終わらなければいいけど。
「エイル、どうやって探すつもりだ? お父さんの顔写真とかあるのか?」
俺自身、そういったものを1度も見せてもらったことがない。
「近づけば分かるわ」
「近づけば?」
「ええ。痕跡はもう見つけたの。必ず居るわ」
「痕跡?!」
「古めの痕跡だから、何処に行ったかまでは分からないけど」
「そんなことが分かるのか」
「ここだからできるのよ。大勢の人が行き交うところだと区別できないの」
「ここにも大勢人は居るだろ」
「彼らは魔力を持っていないから痕跡が混ざらないの」
そういう理屈か。
「でも、父さん以外の痕跡もあるみたい。多分一緒に探索に出た仲間も一緒に居ると思うわ」
「お父さん以外にも居るのか」
「ええ」
驚きだ。
お父さんだけでなく、他にも生存者が居るとは考えてもいなかった。
エイルはいつも〝父さん父さん〟だったからな。
「ここから先が居住区です。といっても、ここを通ってきたから知っていますよね」
船から村長の家までの通り道だったからな。
通っただけだけど。
人捜しといっても住民は非協力的だ。
俺たちとは一切会話をしてくれないから、当然まともな情報なんか得られない。
悲鳴を上げて逃げていく人ばかりだ。
近づけば避けられる。
一さんが扉を開けてもらえても、すぐに閉められる。
開けてすらもらえず、一方的に〝帰ってくれ〟は当たり前。
逃げなかった人も俺たちを見ず、一さんに〝知らん!〟の一言だけ。
こういう反応を見ると、一さんたちの方が異常に思えてくる。
村の代表とはいえ、損な役回りだ。
逃げることも許されないんだから。
だというのに。
「すみません」
「分かっていたことよ。それにこの辺りに父さんは居ないわ」
「そうです……なんか。どうして、分かる、ですよ?」
「無理に古代語を使わなくていいわ。ここの言葉は話せなくても聞き取りはできるから」
「あははは、僕の古代語はダメですか」
「喋る方は及第点に届いていないわ」
「そうですか。もっと勉強しないと! あ、いえ。エイルさんはお父さんが何処に居るのか分かるんですか?」
「何処に居るかは分からないけれど、ここに居ないことは確かだわ」
「そうですか。では場所を変えましょう」
「住人に話しかける必要は無いわ。どうせ情報は得られないもの」
「はは、すみません」
「気にしていないわ。ここにはどのくらいの人が住んでいるのかしら」
「昔と比べて人口は減ったとしか聞きませんね。かなり前に1万人を割ったという話です」
となると今はもっと少ないのか。
それで成り立っていけるのか?
「どうして減っているの?」
「独り者が増えているから……ですかね。親元を離れず働きもせず引き籠もっている者も増えています。ですから子供の数も少なくなりました。村としては子育て支援もしてはいるのですが、2人目を作る家庭も少なく……」
「そんで俺たちがこんな感じだ。おやっさんは俺たちをくっつけて子供を沢山産ませて矢面に立たせたいんだろうけどさ」
「まだそんなこと言ってるの?」
「へっ、くっだらねー理由で婚約させられちゃたまんねーよ」
うわ、村長の前と今とでは態度が全然違うな。
というか、おやっさんって村長のことか?
「そうなんですか?」
「何度も違うって言ってはいるんですが、信じてもらえなくて、はは」
「お前のなにを信じろってんだ。この腰抜けが。そもそもベラベラ喋りすぎだ。あんま情報与えんなって言われてっだろ」
それを本人たちを目の前にして言うのかよ。
「心琴ちゃん、それこそ喋ったらダメなことでしょ」
「はっ、コソコソしたってしゃーねーだろ。みんなの方がよく分かってんじゃねーか。一がおかしんだよ」
「そうかな。僕は協力してあげたいよ」
「狂ってるぜ」
「心琴ちゃんだって協力してくれてるじゃないか」
「村長の命令だからだ。さもなきゃとっくに殺してる」
「心琴ちゃん、物騒だよ」
「船は魔物より強ぇみてぇだが、生身はどうかな」
「魔物? ここにも魔物が来るんですか」
「ったりめぇだ。その為に俺たちが居んだぜ。お前らみたいな侵略者を排除するためにな。っははははは!」
侵略者……ね。
「心琴ちゃん、言いすぎ!」
「はっ! てかよ、さっきから心琴ちゃん心琴ちゃんうっせぇんだよ。いい加減にしねぇとその口塞ぐぞ!」
「うわぁ! 唇で塞いでくれるの?」
「はったーすぞ!」
一体なにを見せられているんだ、俺たちは。
「私たちを攻撃したトラップは対魔物用のものなんですね」
「あー……ははっ、全然役に立たなかったみたいですけど。ああ、役に立ってたらあなた方を殺してしまうところでしたね。役に立たなくてよかったです」
「よかねぇだろ! こいつらがあいつらと同じだったら今度こそ全滅してたんだぞ」
「あいつら?」
「僕より心琴ちゃんの方が漏洩激しくない?」
「っせー! こいつらが誘導尋問するからだ!」
していないと思うけど。
「ってか、また言ったな」
「ヤだなぁ、顔が近いよ心琴ちゃん。本当に唇で塞いでくれるの?」
「ざけんのもいい加減に――」
「チュッ」
あ、一さんがキスした。
「人前でなにしやがる……」
胸ぐら掴んでおいて怒るとこ、そこなんだ。
「子供の頃は気にせずしてたじゃないか」
そうなんだ……変わっちゃったのかな?
「図に乗るなよ。家ん中ならともかく、外で馴れ馴れしくすんじゃねえ」
家の中ならいいのか?!
あれ? 許嫁なの、嫌なんじゃなかったっけ。
村長の前ではってことかな。
「ふんっ」
一さんを突き放すと、1人でさっさと歩いて行ってしまった。
「あ、待ってよ。護衛なんだから、離れちゃダメだよ」
「っせー! さっさと来いっ」
「そっちじゃなくて、こっちだよ」
「……ふんっ」
もしかしなくても、俺たちデートの邪魔しているだけじゃないか。
次回はその一言は余計だ!




