第24話 新着メール
あーいい湯だった。
タイムはまた小さい身体に戻って肩に座っている。
その方が自然か。
「長かったわね」
「そうか? 待たせちまったみたいだな」
って、なにをだ。
自分で言っていて分からないぞ。
いや、営まないからな!
「……随分と楽しかったようね」
「え?」
「……お姉ちゃんと一緒に入ってたんでしょ」
「いや、入っていないぞ」
「……ウソ」
「ウソじゃないさ。なあ!」
「え? あ、う、うん。小さいまま肩に乗ってただけだよ。大きくなんてなってないよ」
それはある意味自白したのと変わらなくないか?
「そうなんだよー。それで走り回るもんだから……その」
「ちょっと騒いじゃった……みたいな?」
「「あは、あはははは……は」」
「……そ」
信じた……のか?
いや、疑われるよりいいけど。
「時子はなにしていたんだ?」
風呂から出てきたとき、携帯を弄っていた。
「別に。先輩にメールを送ってただけだよ」
「え、ウソ! 着信なんて……」
「着信?」
「ううん、なんでもないよ。あは、ははは」
「着信するわけないよ。携帯じゃなくてパソコンの方に送ったんだから」
「そ、そうなんだ」
「お姉ちゃんも知ってるでしょ。パソコンのメアド」
「知ってるけど……送ったことなんか1度も無かったよね」
「だって携帯に送ったら……」
……ん?
なんか、見られている?
「送ったら?」
「……見てないの?」
「なにを?」
「魔獣を退治した後、メール受信してたよね」
魔獣……あれか。
やっぱり誤魔化せていなかったか。
仕方ない、話すか。
「ああ。でも読んでいない」
「どうして読んでないの?」
「フォルダに鍵が掛かっているんだよ」
「鍵?」
「そ。だから読めないんだ」
「自分で設定したのに?」
「それも分からない。思い出だから消されたのか、実は俺の携帯じゃないから知らないだけなのか、分からないんだよ。なにもかも。ただ1つだけはっきりしていることがある」
「なに?」
「あの日から1度もメールが届いていない」
「それ、本……当?」
「だよな、タイム」
「とっ……」
あれ、黙りこくっちゃったぞ。
どうしたんだ?
〝届いてないよ〟って言うだけだろ。
「タイム?」
「届いてたよ」
「……はあ?! いやいや、届いていないよな」
「届いてたよ。届いてないなんてウソ吐いたらダメだよ」
「いやいやいや、本当に届いていないって。見せても……って、鍵が掛かっているから見せられないんだっけ。あ、そうだ通知! 通知無いぞ」
「新着通知なんて簡単に消せるもん」
「そうだけど……どうしたんだよ、タイム」
「どうかしてるのはマスターだよ」
「あ、タイム!」
携帯の中に逃げやがった。
「ウソつき」
「へ?! いやいや、本当だって。俺よりタイムを信じるのか?」
「当たり前でしょ。ホントだっていうなら、メールを見せてよ」
「だから開けられないんだって」
「ウソつき」
「本当だって!」
「……どっちでもいいわ」
「よくない!」
「いいのよ。あなたがどっちかなんて。私はもう2度と……」
それっきりうつむいて黙りこくってしまった。
確かにメールなんか来ていないって嘘は吐いていたけど、あれから受信していないのは本当だ。
タイムはなんであんな嘘を吐いたんだ?
いや、そんなことより俺よりタイムの方を信じられたのがキツい。
そりゃお姉さんなんだからそっちを信用するのは分かるけど……
まだそこまでのレベルに到達していないってことだ。
ま、一時期避けられていたんだから信用は1度地に落ちたと考えて、また最初から築き上げるしかない。
ただ避けられていたときと違って、こんな時でも手を離さず握ってくれていることだ。
義務で握っているだけ……とか思っちゃダメだけど。
はぁぁぁぁぁっ、よし!
「寝よう。エイルのことだ。朝一から探しに行くだろ」
「モナカはフブキに会いに行きたいだけでしょ」
「……否定はしない」
「ふっ、あなたらしいわ。うん、ごめんね。信じるわ」
「えっ?」
「おやすみなさい」
「あ、ああ。おやすみ」
急にどうしたんだ?
評価が変わるようなこと言ったっけ。
女心って難しい。
タイムは……引きこもったままか。
『おやすみ』
しかし返事はなかった。
明日には機嫌を直してくれるといいけど。
次回は朝飯前です




