第23話 見ていない
「いい湯だな」
「そう……だね」
「なんだ、あんまりいい湯じゃないのか?」
「そんなことないよ」
「ならいいけど、なにモゾモゾしているんだ。ダメだぞ、風呂の中でしたら」
「しないよっ! タイムは……」
「あーそうだったな。悪い、忘れていた」
「ううん。気にしてないから、謝らないで」
そうだよ、タイムはそういったことをする必要が無いんだった。
だからホラー映画でちびることも無い。
「しかしいい湯だ。このままずっとつかっていたいくらいだ。はあー溶けるぅー」
「あはは、そうだね」
「なー。本当にここに居ると思うか?」
「エイルさんを信じてないの?」
「そういうわけじゃないけど、ナームコの言うことが正しいなら、ここでどうやって生き延びられるんだって話。それが分からないエイルじゃないだろ」
「そうだね。でもなにか方法があるんじゃないかな」
「なにかって?」
「タイムに分かるわけないよ」
「そうだよなー」
方法ねぇ。
それが事実なら尚のことここに留まっている理由がない。
その方法を持ち帰れば、毒素に苦しまなくて済むようになる。
結界なんて必要無くなる。
もっと広い世界で暮らせるようになるんだ。
なら何故ここに居る?
そもそもなんでここに居るって分かったんだ?
エイルは話してくれないし、タイムも知っているっぽいけど話してはくれないだろうし。
エイルが居ると言ったら俺は従うしかない。
立場は対等じゃない。
そんなことは分かっているんだよ。
「マスター?」
「なんでもないよ。俺たちにできることは探すことだけだ。居る居ないなんて些細な問題だってことさ」
「……」
「ところでルイエとは上手くやれそうか?」
「どうかなー。任せられるなら任せてもいいんだけど……」
「任せられないのか?」
「タイムじゃないとできないことが増えちゃったんだよね」
「エイルにもできないってことか?」
「んー、携帯関係はタイムが介入しないと無理なんだよ。イヤホンも……あー!」
急に立ち上がりやがった。
顔にお湯が掛かったじゃないかっ。
しょうがないヤツだな。
手で顔を拭ってタイムを見上げた。
「どうした?」
「イヤホンの調整にはタイムも行かなきゃなんだよ」
「なら行ってこい」
「圏外だから無理だよぅ」
そういえばそんなことを言っていたな。
こういうところは中央の有り難みが感じられる。
普段は厄介なだけなんだけどさ。
ガクッとうなだれて落ち込んでいる。
ふと、目が合った。
「あ……きゃっ!」
って、今度は急にしゃがみ込んだぞ。
また顔にお湯が掛かっちまった。
なにやってんだか。
「風呂場で暴れるな」
急に立ち上がったから立ちくらみした……なんてことはないか。
顔を半分お湯につけて俺を見上げている。
少し顔が赤い?
「うー、見た?」
「へ?」
〝見た?〟って、なにをだ?
なにかあったのか?
キョロキョロと辺りを見ても、変わったものは無さそうだけど……
「もー、知らないっ」
「あ、こら! 潜ったらダメだろ」
「ふんっだ」
「タイムにはなにが見えたんだ?」
「マスターが見えてないなら……よくないけど、いいから気にしないで」
「なんだそれは」
「マスターのバーカバーカ」
「あのなぁ」
「ぶーっ」
全く、いつまで潜っているんだか。
しかしそうか。
タイムは空気を吐き出して喋っているわけじゃないから、水の中で喋っても泡が出てこない。
その所為なのか、少しこもっている程度で結構クリアに聞こえる。
しかも呼吸もしていないから潜り続けても息が苦しくなることもない。
……あれ?
「なあタイム、お湯で隔たれても接続が切れてなくないか?」
「ん? あー、髪がマスターの身体に触れているからだよ」
なんだ、そういうことか。
「じゃあ髪を身体から離したら中に戻るのか?」
「多分。試してみる?」
「そうだな。調べられるうちに調べておこう」
「じゃ離すよ。3・2・1・ゼ――」
あ、消えた。
「――ロー……って、やっぱり接続切れちゃった」
と思ったら、隣に出てきた。
「迂闊に飛び込めないな」
「飛び込まないで」
「っはは! そもそもそんな場所無いか」
んー、俺が潜っても切れるってことでいいんだよな。
試すか?
いや、風呂に潜るのはダメだ。
ましてや余所様の風呂。
余計にダメだ。
切れると思っておいて問題ないだろう。
「上がるぞ」
「うん」
「身体、拭いてやるからな」
「勘弁してください」
「っはははは! じゃあ俺の身体は拭いてくれないんだな」
「あう……お願い……します」
「素直でよろしい」
「うきゅー」
照れるな照れるな、今更だぞ。
さて、なにが見えたのでしょうか
漸くお風呂シーンは終わりです
次回は……そういえばスマホだとPCもあんまり関係ないと今更思ったけど書き直さないでいこうと思う




