第20話 綺麗に洗いましょう
俺の分の浴衣もあるから、それを持って脱衣所に入る。
扉の開け閉めが普通にできるって素晴らしい。
俺、ここでなら普通に生活できるんじゃないか?
……無理か。
何処で暮らそうと、時子からは離れられないんだよ。
「それじゃマスター、入ろっか」
そういえばタイムと一緒に入る約束をしていたっけ。
「ああ……って!」
肩から飛び降りると、大きくなりやがった。
「なんで大きくなっているの?!」
「なんでって、お風呂に入るんだから当たり前でしょ」
「てっきり……」
「〝てっきり〟……なに」
「なんでもない」
小っちゃいままだとばかり思っていたのに。
これは想定外だ。
確かにアニカと入っているときも大きかったけど。
「バッテリーは大丈夫なのか? 3頭身が限界とか言ってなかったか?」
「今はタイムしか出てないし、鈴ちゃんのお陰で短時間なら大丈夫だよ。戦闘もしないし」
「そ、そっか」
気を取り直して風呂に入ろう。
なぁに、タイムとは散々裸の付き合いをしてきたんだ。
問題ない! さっさと風呂に入ろう。
扉を開ける音にエコーが掛かる。
風呂場はやっぱりこうでなきゃ。
「おおぁ!」
時子が使った後だからか、さっきより湯気が凄い。
肌がじんわり濡れてきた。
「広いね」
「そうだな。シャワー室とは大違いだ」
そもそも風呂自体がエイルの部屋より広いぞ。
洗い場まで含めたら大部屋と言っても遜色ない。
2人で入っても身体が触れ合うなんてことがない。
……そう、手を伸ばせばお互いの身体に触れる……なんてことがないくらいに離れている。
「マスター?」
「な、なんでもない」
くっ、こんなトラップがあるとは思わなかったぜ。
そういう意味ではシャワー室の狭さはありがたかったということか。
とにかく、まずは風呂に入る前に身体を洗わなきゃ。
蛇口はこれか。
……あれ?! 出ないぞ。
というかひねるところがない。
まさかまたこれもタッチ式?
しかも魔力感知式なのか。
触っても叩いても出てこない。
仕方ない。風呂の水を使うか。
んー、かけ湯なんていつ振りだろう。
「タイムがやるよ」
「え、自分でできるよ」
「やりたいの!」
「分かった分かった。頼んだ」
「うんっ」
しょうがないヤツだな。
「じゃ、掛けるねー」
「おう」
って、手を捕まれて持ち上げられたぞ。
なにをするのかと思ったら、手から肩に向かってお湯を掛け始めた。
逆の手も同じようにしたぞ……お、おおぅ。
今度は足だ。
足もつま先から太ももへ順にお湯を掛けていあひゃっ、ちょっ。
てっきり背中からザバッて掛けられると思っていたのに。
どういう意図だ?。
そして今度は腰とかお腹周りぃぃぃぃぃっひひぃっだ、はぁ。
それからやっと肩から背にゃはんっか、最後に胸に掛けていっうひひっ。
「マスター、最後に頭から掛けるからねー」
「あ、ああ……随分……丁寧だな」
「え? 普通だよ」
普通なのか。
「いくよ」
「あいよ」
1回、2回、3回、4回……おいおい、何回掛けるんだ。
シャワーの時とは大違いだ。
髪をワシワシと擦りながらお湯を掛けまくる。
「はい、終わり! じゃ、身体洗うね」
「それもしてくれるのか」
「当たり前だよ」
当たり前なのか。
セッケンを濡らしてタオルで擦ると、泡がモコモコと立った。
蛇口と違ってこっちは使えるようだ。
肩から手に向かって洗ってくれている。
うん、泡が消えることなく普通に立ったままだ。
魔力は要らないということだ。
でも蛇口には必要なのか。
お湯が張ってあってよかった。
じゃないと時子に携帯でお湯を出してもらう羽目になっていたところだ。
背中を洗うと、足も洗ってくれた。
「えっと……前は自分で洗ってね」
「ああ」
エイルたちは気にせず全身洗うんだよね。
タイムはその一線を越えてはこない。
正直、それだけでホッとする。
「あれ? シャンプーが無いよ」
「無いのか?」
「うん。見当たらないよ」
「ならセッケンでよくないか。時子もそうしたんだろ」
「時子は……そうだね。でもセッケンかー」
「気になるのか?」
「セッケンだと普通の人は傷むんだよ」
時子も普通の人だろ。
「時子は気にしていないんだろ」
「気にしてないというか……するだけ無意味なだけだから」
「はあ?」
「今日はセッケンで我慢するか。明日は船から持ってきて使おう。うん」
「明日も居るつもりなのか?」
「1日で見つかるのかな」
「見つからないのか?」
「タイムに分かるわけないよ」
「それもそうか」
「じゃマスター、流すよー」
「おう、頼んだ」
ふーサッパリした。
風呂回はまだまだ続きますよ
モナカを洗った……となると次は……っふふふー




