第19話 非水洗式トイレ
時子が風呂に入っている間にトイレでも済ませておくか。
久しぶりに1人でするトイレ。
……久しぶりってほどでもないか。
キャンプしていたときにしてたっけ。
簡易トイレだったから、きちんとしたものじゃなかったけど。
んー、なんか逆に落ち着かないかも。
和式でするのは初めてかも知れない。
消されたのかも知れないけど、記憶に無いからな。
仕方だけは知っている。
でもそれは水を流すレバーが付いていた。
これは付いていない。
洋式みたいなレバーもボタンもない。
し終わって暫く待ってみたが一向に流れない。
蓋をすれば流れるのか?
……流れない。
本当にどうすりゃ良いんだ。
「上がったわよ……どうしたの?」
いつの間にか時子が風呂から上がっていたらしい。
「いや、トイレを使ったんだけど、やっぱり水が流れなくてさ」
「そうなの? 故障してるのかな」
「どうなんだろう。とりあえず断水した時みたいに風呂の水でも流しておくか」
「そうね」
よし、風呂にあった桶に汲んで持って……こない……と……
「な、なに?」
「いや、可愛……じゃなくて、なんだ。火照ったうなじが色っぽいなって」
思わず触れてみるところだった。
「な……なによ……それ」
「え? だって〝可愛い〟は禁止だろ」
「あー」
「なんだよ。忘れていたのかよ」
「あははは、じゃなくて……なんで浴衣なの? 私の服は?」
そう文句を言う割には、きっちり着てくれている。
「自由に使っていいって言ったから、勝手に出歩くよりはいいかなって」
「そうだけど……うー」
なんかモゾモゾと浴衣を抑えているぞ。
「なんだ、時子もトイレを使いたいのか?」
「違うわよっ」
「あ、時子……もしかして」
タイムは分かっているのか?
「言わないでっ」
「もしかしてってなんだ?」
「マスター、今時子はね」
「言わないでってば!」
「あはははは! どうしよっかなー」
「もー、いじわるっ」
なんだなんだ。
2人だけで盛り上がっちゃって。
とにかく、流すだけ流しておこうか。
「あ、待ってマスター」
「ん?」
「えっとね、そのままでいいみたい」
「そのまま?!」
「うん。そういうトイレみたいだよ」
どういうトイレだ。
ずっとこのまま?
それって臭くないのか?
「えっと……そうやって溜めておいて、ある程度溜まったらくみ取るみたい」
「くみ取るってなんだ。下水に流さないのか?」
「肥料として畑にまいたりもするんだって」
「そんなことするのか!」
牛の糞が肥料になるのは知っていたけど、人のまで?!
「もしかして今日食べた野菜もそうやって育ったヤツなのか」
「昔はそうやって育ててたから、変なことじゃないみたいだよ」
「そ、そっか……」
まあ別に直接食べているわけじゃないし、そもそも牛の糞で育てた野菜は普通に食べていた……と思うし。
変に思うのも変か。
「とにかく故障じゃないってことだな、うん」
「そう……だ、ね」
「じゃあ風呂に入ってくるよ」
「うん。いいお湯だよ」
「楽しみだな」
次回はタイムとお風呂です




