第18話 一緒に入る? 入らない?
『マスター』
『ん?』
『なんで一緒に入らなかったの?』
『……え?』
なんでわざわざ。
そもそも俺が〝一緒に入ろうか〟って言って時子が〝うん、一緒に入ろ!〟とか言うわけないだろ。
『時子だってそのつもりだったのにさ』
『…………は?』
そんなわけないだろ。
鈴ちゃんが居るならまだしも。
俺と一緒に入る理由がない。
『はぁ……これだからいつまで経っても時子が吹っ切れないんだよ』
『なんの話だ』
『こっちの話』
『はあ?!』
『じゃあさ、タイムと一緒に入ろうか』
『なんでそうなる』
『いいじゃない、たまにはさ』
『たまにはって、アニカと3人で散々入っていただろ』
『2人っきりは一度も無いよ』
そういえばそうか。
んーそうだな。
『じゃあ入ろうか』
『えっ、いいの?』
『なんだよ、自分から言い出したんだろ』
『そうだけど……』
『なら止めておくか。1人でノンビリもしたいし』
『ヤダ、一緒に入る』
『ふっ。分かった分かった。一緒に入ろう』
『うんっ』
なんか、流れでタイムと一緒に入ることになってしまったな。
まいっか。
どうせ1人で入ったとしても、表に出てこないだけでずっと一緒に居るんだし。
「モナカー」
ん? 時子が呼んでいるぞ。
「なんだ? 一緒に入りたいのか?」
「……」
おい、なんでそこで否定しないんだよ。
冗談が冗談にならなくなるだろうが。
「要件はなんだ?」
「あ、えっと。着替えを持ってきてほしいの」
あー、流れで入ることにしたからなにも用意してなかったな。
「分かった」
えーと、時子の荷物は……っていっても、全部船にあるんじゃないのか?
仕方ない、持ってくるか。
自分の分もあるし、戻ってくる頃には時子も身体を洗い終わっているだろう。
『マスター、これでいいんじゃない?』
『これ?』
『ほら、衣桁に服が掛かってるよ』
『いこう?』
『和服用ハンガー?』
『へー』
あ、時代劇とかで見たことある。
これは……浴衣かな。
『勝手に使っていいのか?』
『ご自由にお使いくださいって言ってたよ』
『そうだけど……』
『ほら、時子の浴衣姿、見たくないの?』
『見たくなくはないけど……』
『お風呂使ってる時点で考えても無駄でしょ』
それもそうか。
まー勝手に出歩くよりは借りた方がいいだろう。
それに多分ニワトリに襲われて外出が即バレる。
優秀な番犬じゃないか。
ハンガー……衣桁だっけ……から浴衣を外して、脱衣所に入る。
「ここに置いておくぞ」
「うん、ありがとう」
そのまま脱衣所を出ようとしたとき、「ねぇ」と呼び止められた。
「ん?」
「一緒に入りたいの?」
「は?!」
「な、なんでもない。ありがとう」
全く、なにを急に言い出すんだ。
……先に言い出したのは俺か。
そんなこと言われたら、タイムが言うように時子も一緒に入りたかったって勘違いするだろうが。
とにかく部屋に戻って大人しくしていよう。
「覗かないでね」
「覗かないよっ!」
「時子……」
ここなら覗こうと思えば覗くことができる。
でもそんなことはしない。
そんなことができるくらいなら、裸になって堂々と一緒に風呂に入るっての。
次回はもう一つの方の定番です
知らない子も増えたんじゃないかな