第16話 謎の習慣
どんな夕飯を用意してくれたのか、楽しみだなーなんて思っていたときもありました。
どうしてこうなった。
確かにここは村長の家だ。
そして一さんの家でもある。
まさか同席して食べることになるとは……ね。
そして何故か心琴さんまで居る。
許嫁だからか?
一さんと並んで、今度はちゃんと座布団に座っている。
囲炉裏を囲うように、村長・一さんと心琴さん・俺と時子という感じだ。
1つ空いている席は……お母さんの席かな。
座布団はあるけど、ご飯がまだ無い。
「さあさあ、遠慮せずお召し上がりくださいね」
「ありがとうございます。いただきます」
「いただきます」
俺たちに勧めるだけ勧めて、自分は土間へ降りていった。
台所に行ったのかな。
でもこういうのって、最初に家主が食べてからとかじゃないの?
いいのかなー。
村長は食べずに俺たちをジッと見つめている。
た、食べにくい。
しかし凄いな。
1人分が足の付いた四角いお盆に乗って用意されている。
これぞ和食って感じのメニューだ。
ご飯に味噌汁。
そして嬉しいことに焼き魚がある!
魚、居るんだ。
もしかしなくても結界の中より食糧事情が良いのではないか?
こっちはおひたしかな。
……この肉? はなんだろう。
鳥ではなさそうだ。
うーん、とりあえず味噌汁を一口。
あー、懐かしい味だ。
ちゃんと味噌の味がするし、具もいろいろ入っているぞ。
味噌汁というよりけんちん汁っぽい?
ご飯も一口。
いい香りだ。
鼻に抜けるお米の香りが凄い。
トレイシーさんには申し訳ないけど、これは圧倒的にこっちの方が美味い。
噛むほどに甘みが増し、香りが鼻をくすぐる。
もうひと……うー、まだ見てる。
「あの……なにか」
「なにか……とは?」
「いえ、その。む、村長は食べないのですか?」
そういえば一さんも心琴さんも食べずに待っているぞ。
もしかして食べるのはダメだったか?
「気にせずともよい。これは我らの習慣だ。お客人には無縁なこと」
「そ、そうですか」
と言われても、やっぱり食べづらいなぁ。
「口に合わなかったかの?」
「いえ、そんなことありません。とても美味しいです」
「ふむ、そうか」
習慣って、一体なんなんだろう。
気になる。
人が食べている姿を見ること? なわけないよな。
思わず時子と顔を見合わせてしまう。
ちょっと困ったような顔をしている。
俺も似たような顔をしているんだろう。
それを察してくれたのか。
「私らも食うとするか」
「父上、よろしいのですか?」
「よい」
「分かりました。心琴」
「はい」
習慣を破って俺らに合わせてくれたのか。
それはそれで余計気まずいかも。
とはいえ、折角合わせてくれたんだ。
時子と頷き合って、再び食べ始めた。
しっかし心琴さん、大人しいな。
本当に別人のようだ。
さっきまで毒づいていた人と同一人物とは思えないぞ。
一さんは……大差ないな。
それでも姿勢が良い分だけ立派に見える……といったら失礼か。
「あらあら、もうお召し上がりになっていたんですね」
お母さんが足つきお盆を持って入ってきた。
「うむ」
「仕方ありませんね。あなたたちも下がって食事になさい」
「「「はい。失礼します」」」
姿は見えないが、声だけが聞こえてくる。
見張られていた?
それとも普段どおり?
分からないけど、どうして天井からも聞こえてきたのかは、気にしたらダメだろうか。
次回は比べちゃいけないところと比べちゃった