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第15話 営まない

 お手伝いさんに連れられて部屋へと案内された……のはいいんだけど。

 これは単純に気遣いなのだろう。

 そう振る舞ったからこうされても文句は言えない。

 今更違いますとも言えないしな。

 部屋はふたつ用意してくれた。

 勿論(もちろん)男女別……などという意味ではない。

 ひとつはエイルたちの部屋。

 もうひとつは俺と時子の部屋だ。

 しかも何故か離れ……


「中の物はご自由にお使いください」

「あ、はい」

「お夕飯は一刻ほどでご用意できます。そのときはお呼び致します」

「分かりました」

「それでは、失礼致します」


 ……さて、どうしたものか。

 といっても、普段とあまり変わらない。

 俺と時子と鈴ちゃんの3人、ひとつの部屋で一緒に寝るだけのこと。

 とりあえず時子が押し入れから出してくれた布団に鈴ちゃんを寝かせる。

 余程疲れたんだろう。全く起きる気配がない。


「フブキ、どうしているかな」

「船で大人しくしてるでしょ」

「やっぱり連れてきた方が――」

「連れてきて何処に寝かせるの? まさか部屋に入れるとか言わないわよね」

「まさか! 庭に置いてもらえないかなって」

「可哀想だけど、お留守番していてもらいましょう」

「うう、お腹空かせていないかな」

「エイルさんがなんとかするでしょ。飼い主なんだから」

「そうだけどさー」

『兄様、そちらへ行ってもよろしいでございましょうか』

『どうかしたか?』

『スズ様のお身体を洗わなくてはならないのでございます』

『今熟睡しているんだけど』

『起こしてでも洗うのでございます』

『分かった分かった。俺がやっとくからいいよ』

『わたくしでなければダメなのでございます。お忘れでございますか』


 そういえばそんなことを言っていたな。

 あ、でも。


『ここのお湯使って大丈夫なのか? お茶がダメならお湯もダメだろ』

『ご心配には及ばないのでございます。きちんと魔法杖(マジックワンド)を持ってきているのでございます』


 抜かりないな。

 それなら安心だ。


『分かった。洗ってやってくれ』

「兄様、入ってもよろしいでございますか」


 おい! 部屋の前まで来てたのかよっ。

 前にもこんなことなかったか?


「はあ……今起こすから、入って待っていろ」

「失礼するのでございます」

「鈴、鈴」

「うにゅ……」

「鈴、眠いところ、起こしてごめんな」

「うー、パパ? ここ何処?」

村長(むらおさ)さんの家の離れだ」

「うゆ……離()……にゅ? ひゃっ! ごめんなさい。鈴はまた居眠()をしてしまいました」

「いいんだよ。それだけ疲れていたんだろ。寝てていいんだ。でもごめんな。寝る前にシャワー浴びようか」

「はい、分か()ました」


 あー、また落ち込みモードに入っちゃった。

 別に罰なんかないからな。


「娘、行くぞ」

「あ……はい、お願いします」


 ん、なんだ?

 ナームコが話しかけると、また違う顔つきになったぞ。

 なにかに気付いた感じ?


「それでは兄様、スズ様はこのままわたくしと朝まで過ごすのでございます」

「えっ朝まで?」

「いいな」

「はい、分かっています」

「鈴……」


 分かっているって……なにを分かっているんだ?


「ナームコ、なにをするつもりだ?」

「いやでございますわ。折角家主のご厚意でこのような離れをご用意して頂いたのでございますよ。余計なお邪魔虫は居ない方がよろしいのでございます」

「鈴は余計なお邪魔虫じゃないぞ」

「ええっ?! まさか兄様はスズ様の居られる隣でトキコ様と営むのでございますか?」

「なにをだ!」

「それをわたくしに申させるのは、いささか酷なのでございます」

「意味が分からんぞ!」

「おほほほ、そこのシャコ……失礼したのでございます。トキコ様はご理解なさっておられるようでございますが」

「ふえ?! な、なななななんのことかな」

「くっ、いい気になるなよ。妻なのはあくまで設定。本気にしないことだな」


 血が出るほど歯を食いしばってまで言うようなことなんだ……

 めちゃくちゃ睨み付けているな。


「当たり前でしょ!」


 当たり前なのかっ!

 実際そうなんだけど……はっきり言われるとショックだ。

 その一言を言うのに一苦労していた自分がバカみたいじゃないか。

 ……実際バカなんだろうけど。


「分かっているよ。俺と時子は――」

『兄様、それ以上はいけません』

『へ?』

『何処でなにを聞かれているか分からないのでございます。わたくしが幾らなにを申そうとも理解されることはないのでございます。でございますが、兄様とトキコ様は別なのでございます』


 そういえばそうだ。


『わざわざ離れを用意してくれたのにか?』

『油断させて情報を話させるためなのだと存じるのでございます』

『考えすぎだろ』

『用心に越したことはないのでございます』

『なら会話は全て内線を使えと?』

『左様でございます。が、ひとつ分かったことがございます』

『なんだ?』

『わたくしたちの部屋と兄様の離れでは通信が届かないのでございます』

『届かない?!』

『エイル様が仰られるには、ここが結界の外で中央の圏外だからだそうでございます』


 圏外……身分証のサービスが使えなくなるということか。


『ん? でも今ナームコと話せているよな』

『身分証同士の近距離通信で繋がっているからとのことでございます』


 そんな機能があったのか。

 意外と便利じゃないか。

 でもそんなに離れられないな。


『タイム、お前はどうなんだ?』

『んー、ナームコさんの身分証には入れるけど、エイルさんのは無理だねー』


 ナームコの身分証に入れるんだ……


『でも今までどおりマスターと繋がっていられれば入れると思うよ』


 ああ、今は離れの中に居るから無理なだけなのか。


『ルイエが邪魔しなければ』

『おいおい、負けるのかよ』

『う……仕方ないよ。幾らタイムが優れていても』


 自分で言うか。


『タイムの本拠地はマスターだからね。やっぱり制限が少し掛かるんだよ』


 なるほど。

 そういうことにしておこう。


『そういうことじゃなくて!』

『え?』

『な、なんでもないよ』


 なんでもないなら何故目を逸らす。

 おい、こっちを見ろ!

 どうせ聞こえているんだろ。


『ったく。ルイエの本拠地は勇者の(ほこら)じゃなかったか?』

『あいつは引っ越してきたんだよ。だから今はエイルさんの携帯端末が本拠地なの』


 引っ越しねぇ。


「それでは兄様、おやすみなさいなのでございます」

「パパ、ママ、おやすみなさい」

「ああ。おやすみ」

「おやすみなさい」

「兄様、ひとつだけよろしいでございますか?」

「なんだ?」

嬌声(営みの声)は言語が違えど大差はないのでございます」

「やかましいわっ! さっさと寝ろ!」


 なにを考えているんだ、あいつは。


「モナカ様、時子様、お夕飯の仕度ができました」


 っと。

 ナームコと入れ違いでお手伝いさんが呼びに来たぞ。


「今行きます。時子、行こうか」

「ええ、行きましょう」


 さて、どんな夕飯かな。

次回は謎は謎のままだから謎なんだよね

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