第12話 また魔力
かなりの距離を歩き、垣根に囲われた大きな家が見えてきた。
恐らくそこが村長の家だろう。
予想どおり庭へ入っていく。
なんか、日本の旧民家っぽい作りだな。
藁葺き屋根は初めて見たかも。
村長の家というより、庄屋さんの家みたいだ。
そして庭には2羽ニワトリが放し飼いになっていた。
「ニワトリだ!」
「ホントだ」
「コケー!」
うわっ、いきなり襲いかかってきたぞ。
羽を大きく広げて靴をゲシゲシつついてくる程度だけどね。
「こら、止めなさい! しっしっ」
「珍しいわね。毒素は大丈夫なの?」
「え?! あ、えっと……毒素、なにです?」
ん? 何故に急に片言に?
『エイルさん、船から離れてますから翻訳は機能してません。イヤホンも渡してませんから携帯を通した翻訳もされてませんよ』
ああ、そういうことか。
俺と時子は携帯のお陰で関係ないけど、エイルたちには言葉の壁があるんだった。
聞き取る分には問題ないけど、相手には通じないんだよな。
「そういえばそうでした。ありがとうございます」
「あ……はい」
「モナカくん、これ渡してくれる?」
なにをだ?
渡されたのはイヤホンだった。
「スペアはこれひとつしか無いの」
「分かった」
「また作らなきゃ……」
渡すにしても、言葉が通じなきゃ説明もできないからな。
なのでエイルに代わって説明をして渡した……んだけど。
「どう? 私の言っていることが分かりますか?」
「あ……その、えっと……モナカさん、翻訳されていないみたいなのですが」
「え? エイル」
「聞こえているわ。おかしいわね。動作確認はしてあるんだけど……」
「エイル様、恐らくその方が魔力を有していらっしゃらないからではないかと存じるのでございます」
え、この人たちも俺と同じ魔力無しなのか。
じゃああの魔法みたいな攻撃って……化学兵器?!
船のレーダーに映らなかったのと関係があるのかな。
「そうなの?! モナカくん、聞いてみて」
「……なんて?」
「魔力はご存じですか……って」
まんまだな。
答えとしては単純明快……だとよかったんだけど。
「ダメですね。私たちには使えないみたいです」
魔力はある。
勿論自己申告だから真偽は分からない。
少なくともこの世界の魔力とは性質が異なるようだ。
となれば選択はひとつ。
「ナームコ、なんとかならないか?」
「わたくしが……でございますか? 少々お時間を頂くことになると存じるのでございます」
「頼んだ」
「頼まれたのでございますっ!」
テンション高いな。
とにかく、彼らの持つ魔力でも動くように改造をしてもらう。
一旦イヤホンを返してもらい、ナームコに渡す。
これで無理なら通訳しなきゃならなくなる。
それまでは俺が話さないとダメなのか。
「ただいま帰りました」
ん?
「ただいまー。お客人を連れてきたよー」
中も古民家そのもの。
昔の日本にでも来たか?
でも町中の家はテレビで見たような長屋じゃなかった。
ここだけちょっと異質だ。
「2人とも、お帰りなさい。まぁー遠いところ、よく来なさったねぇ。ささ、狭いところですけど、ゆっくりしていってくださいねぇ」
「僕の母です」
「初めまして」
「父さんは奥かな」
「ええ。お茶、入れてきますね」
「あ、お構いなく」
って、なんか呑気な挨拶だな。
玄関……土間? から靴を脱いで上がる。
あれは囲炉裏ってやつか?
ヤカンが吊して火に掛けられているぞ。
あの2本の細長い鉄の棒はなんだろう。
あれ、あのヤカンでお茶を入れるんじゃないのか。
土間へ降りていったぞ。
「こちらです」
案内されて、部屋の前まで来た。
といってもふたつ隣だっただけだけど。
「少々お待ちください」
そういうと、2人は扉……ふすま? の前で正座した。
え、俺らも正座しなきゃいけない流れか?
と思って正座しようとしたら、止められた。
立ったままでいいのか。
鈴ちゃんを背負ったまま座るのは難しいし、助かる。
そして2人はふすまに向かって両手をついて頭を下げた。
「失礼します。村長、お客人をお連れしました」
なんだなんだ。
この先に居るのって、自分のお父さんなんだろ。
心琴さんが頭を下げるのは分かるけど……というか、完全に借りてきた猫だぞ。
暫くすると、中から男の声が聞こえてきた。
「入れ」
「はっ」
さっきのがお父さん、村長かな。
一さんが返事をすると、ふすまが両側に開いた。
2人は漸く頭を上げると立ち上がり、中へと入った。
えっと……入っていいんだよな。
「失礼します」
一応軽く会釈しながら中へと入る。
部屋の奥には男が正座していた。
次回はまさかの日本?! です