第11話 足並みを揃えて
村は城壁で囲われているとかは無かった。
柵さえ無い。
あれだけ物々しいトラップが仕掛けられているんだから村の守りはしっかりしているのかと思ったけど、そういうことは無いようだ。
トラップに自信があるからこそなのか?
そもそもなにに対する……って、対魔物用のトラップしかないよな。
空を飛ぶタイプも居るってことか。
厄介だ。
「暖かいわね」
「そういえばそうだな。この辺は気候が違うのか」
「ちょっと暑いくらいだわ」
「脱げばいいだろ」
冬の寒さを想定していたから、少し厚着している。
暑いなら防寒着を脱げばいい。
防寒着といえば、鈴は俺が選んだヤツを着ていないぞ。
もう飽きたのか?
あんなに喜んでいたのに……ちょっと悲しいかも。
村の中は木造の建物ばかりだ。
でも結構家が壊れているぞ。
補修用の木材が置いてある家もある。
置いてあるだけで、作業はしていないみたいだけど。
中には全壊している家もある。
……俺たち、攻撃していなかったよな。
まさか跳ね返したヤツの流れ弾か?
そして通りには人っ子1人居ない。
その代わり窓からこっちを覗き見ているのが見える。
完全に見世物だ。
きっと大工も作業を止めて隠れているんだろう。
なんか、邪魔してすみません。
しかし何処まで行くんだ。
結構歩いたと思うんだけど……鈴ちゃんにはキツくないか?
さっきまで船を動かしていたんだ。
疲れも溜まっているだろう。
「鈴、疲れただろ。おんぶしようか?」
「平気だよ。まだ歩けるよ」
そうは言うけど、結構しんどそうに見える。
そうか!
〝疲れている〟=〝使えないヤツ〟=〝要らない子〟=〝捨てられる〟って思っているんだ。
そっちがその気なら。
「パパがおんぶしたいんだ。それともイヤか?」
「ううん、イヤじゃないよ」
「だったらほら」
しゃがんで背中を向ける。
が、乗ってこないぞ。
「どうした、恥ずかしいのか?」
「えっと……どうやって乗るの?」
そこかよ。
背中に乗るってことは知っているけど、どうやって乗るのかは分からないのか。
踏み台のように乗られても困る。
「時子」
「ん?」
「見本を見せてやれ」
「うええ?!」
「ほら、早く!」
「別に見本を見せなくてもいいでしょ! 鈴、おいで。ほら、ここに手を掛けて。そう」
「ひゃあ!」
鈴ちゃんの足を抱えて立ち上がる。
軽いな。
って! く、首が絞まる!
「鈴……く、首を……」
「鈴! 首にしがみ付いたらパパが死んじゃうでしょ!」
「ひっ! ごめんなさいっ。パパは死んじゃダメなの!」
「ほら、首じゃなくて肩を掴んでなさい」
「はい、分かりました」
ふぅ、助かった。
「けっ! おかしな連中だぜ」
「心琴ちゃん」
っはは、否定はできない。
この歳でおんぶが分からないとか、変だよな。
回りからも冷ややかな目で見られているんだろう。
静けさが余計に異質さを強調しているかのようだ。
「すみません、時間を取ってしまって」
「ホントだぜ」
「心琴ちゃん! 大丈夫です。こちらこそ遠いのに足も用意せず、すみません」
「贅沢言ってんじゃねぇ。ノロノロ歩いてっからだろうがよぉ。ガキに合わせてっからいつまで経っても着かねぇんだ」
「ひうっ!」
合わせてくれていたのか。
それはありがたいけど、鈴ちゃんを睨まないでほしい。
「足が遅くてごめんなさい」
「ほら! あんなこと言わせちゃったじゃない」
「んあーもーうっせぇうっせぇ! 置いてくぞ」
うわ、相当イラついているな。
「てめぇら、なに笑ってやがる……ああ? ……見世物じゃねーぞ!」
彼女が辺りを睨み付けてそう叫ぶと、回りの家々の窓が一斉に閉まり、静寂が訪れた。
「ふんっ」
満足したのか、再び歩き始めた。
置いていくぞという割には、さっきとあまり変わらないような気がする。
もう少し早くてもいいんだけど。
町中……いや、村中? をゆっくりと歩く。
外には誰も出ていない。
窓すら開いていない。
物音も聞こえない。
最近廃村になったのかと思うほどだ。
住宅街を抜けたのか、畑が見えてきた。
本当に何処まで行くんだ?
畑で作業をする人もなく、農作物だけが辺りを埋め尽くしている。
家はまばらだ。
畑の持ち主なのだろう。
暫くすると、ひときわ大きな家が見えてきた。
あそこが村長の家かな。
そういえば家が隣だから許嫁にされたって言ってたけど……隣の家は何処だ!
次回はこの物語の定番ネタです
いえ、シャワーの方ではなく……