第118話 永遠に共に在る
ナームコに鈴ちゃんを任せ、階段を下りて薄暗いブリッジに入る。
自分の席に着いて暫く待っていると、水槽に鈴ちゃんが現れた。
「魔導力供給開始」
薄暗かったブリッジが明るくなった。
目の前の計器類にも明かりが灯っていく。
「供給、異常なし。各種機関との接続開始。魔導反応炉、異常なし。重力制御装置、異常なし。生命維持装置、異常なし。結界発生装置、異常なし。火器管制、異常なし」
「えーと、通信機……異常なし」
「レーダー、異常なし」
〝対人武装、異常なしなのでございます〟
「メインモニター、異常なし。各種カメラ正常っと。よし、エンジン始動」
「了解。始動します」
当てなんか無い。
真っ白な紙をひたすら塗りつぶすみたいなものだ。
しかも相手は動く点Pより凶悪だ。
点Pなら塗りつぶした場所には入り込まない。
でもこの凶悪な点Eは入り込む。
それでも見つけるしかない。
ついでにここ以外にも生き残りが居るかも知れない。
転移してきた人たちは黙っておくとして、この星の人だったら中央省に教えてやろう。
中央省は嫌いだけど、他にも生き残りが居ると分かればいろいろ希望が持てるはずだ。
「エンジン出力上昇。浮上開始します」
「ねぇモナカくん。船に名前付けないの?」
「今言うことか?!」
「だって呼びにくいでしょ」
「なら言い出しっぺが付けろよ」
「ええっ?! えーと、じゃあ〝愛の巣箱号〟!」
「却下だ! なんだその恥ずかしい名前はっ!」
「いいじゃないか。僕とモナカくんの愛の逃避行にはもってこいだよ」
逃避行でどうする。
探しに行くんだよっ。
「寝言は寝て言え。時子、なにか無いか」
「私?! んー、〝落涙号〟とか」
「〝落ちる〟のは縁起悪いなあ。でも船は涙滴形だから悪くはない……とはいえ泣くのもなー。次、タイム」
「え、え、え、えっと……マスターシップ?」
「まんまかよ! だったらタイムシップでも文句は言えないよな」
「ご、ごめんなさい」
「分かればよろしい。次、鈴!」
「〝開発名 越光〟試作型第陸号と名付けられています」
「名付けられている?」
億?! ……あ、六か。
試作でしかも六号機。
少なくとも似たような船が他にも5隻あるのか。
……部品を取ってこの船を修理できないかな。
「パパがそう呼んでいました」
「あーそういえばそんなことを言っていたかも知れないなーっはっはっはっは」
つまりあの研究者が言っていたということ。
当時の名前か。
「新しい名前を付けてあげようなー」
「パパが付けて」
「パパが? うーん、そうだな……」
避けられなかったかー。
なんとか回避したかったんだけどな。
そうだなー、越光ってことは、光速を越えられるのか?
船の形は水滴……涙滴形。
いや、混ぜるな危険!
ならオーソドックスに、こうしてあーして……んー。
「エタル・アトモス……とか?」
「エタル?」
「小説がエタルとか言わなかったっけ」
「縁起悪いなー。で、アトモスがこれ以上分割できない最小の単位?」
「多分それ!」
「多分なの?」
「なんとなく知っている単語が出来たからいいやって思っただけ」
「出来た?」
「ありきたりだけど、俺たちの頭文字を1つずつ取って組み合わせたらこうなったんだ」
「なるほど。確かにありきたりだね」
「悪かったな」
だったらもっと良いアイデアを出してくれ。
「いいんじゃない?」
〝よくないのでございます!〟
なに?!
まさかのダメ出しだと。
兄様のことなら全肯定する勢いのヤツが?
〝わたくしが入っていないのでございます!〟
「え?」
「……あ、ホントだ」
え、ウソ。マジ?
〝幾ら兄様でも酷いのでございます〟
「悪い、本気で忘れてた」
〝余計酷いのでございます!〟
「ええっと……なんだっけ」
〝兄様?!〟
「ああそうだ、〝ナ〟だ〝ナ〟。ナ……ナ……ナー……えー……ナ? ナ……〝エターナル・アトモス〟! 永遠に分割できないってことで。つまりもう誰も欠けない。一蓮托生だ!」
〝ルイエも入ってていいの?〟
「当たり前だ。ここに居ないエイルだって入っているんだぞ」
〝お姉様……ううっ〟
『マスター! やっと落ち着いたのにそれを言ったら……』
『あ……ごめん』
『もう。あーよしよし……』
早速空中分解しかけちまったぞ。
タイム頼む。フォローしておいてくれ。
大体俺にまとめ役とか、無理だって。
といっても、タイムはマスターがやってとか言うだろうし、時子はやりたがらないだろうし、アニカは俺以上に無理だし、鈴ちゃんはもってのほか。
エイルが居ないとなると、俺がやるしかないのか。
「え、えーと……〝エターナル〟が永遠で、〝アトモス〟が分割できない……でいいのかい?」
おお、話題逸らし、ありがたい!
「そうだけど……翻訳できていないのか?」
「マスター、名前を翻訳したら頭文字とか関係なくなっちゃうよ」
「なるほど。それもそうか」
日本語みたいに振り仮名文化があれば問題なさそうだけど。
それでも音として発したら関係ないか。
「エンジン出力安定。各所、異常なし。いつでも行けます」
「それじゃ行くぞ。永遠に・共に在る、発進!」
俺たちの戦いは、まだまだ続くぜっ!