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第116話 僕が殺した

「モナカさん、正直に話してもらえませんか」

「正直もなにも、本当のことですから」

「本当だとしたら、あの人はエイルさんと会っていないんですね」

「そんなことありません。2人は会っています。一緒に仕事もしたって」

「そう言ってたんですか?」

「はい」


 記憶に間違いがなければ、デニスさんはそう言っていた。


「〝見た〟のではなく?」

「見てはいませんが、嘘を吐くような人には――」

「あの人が言っただけで、モナカさんはその場を見ていないんですね」

「そうですけど……」

「兄様、まだお分かりになられないのでございますか?」

「パパー」

「おー鈴! キレイキレイしてもらったのか」

「うん!」

「んー、いい匂いだ。分かっていないって、なにがだ?」

「お父様がエイル様とお会いになられたのは事実なのでございましょうが、兄様はそれをご覧になられてはいないのでございましょう。つまりエイル様と兄様は、別々にお父様とお会いになられたということなのでございます」

「それがなんだっていうんだ」


 なにかおかしなところがあるっていうのか?

 事実なんだから別におかしなところは無いぞ。


「エイル様の護衛であられます兄様が、何故別々にお父様とお会いになられたのでございますか?」

「え……それは……」


 そう言われると、確かにそうだ。

 事実だからこそ、おかしくないからこそ、不自然だということに気づけなかったってことか。

 別々に会う理由……ダメだ、パッと思いつかない。


「お父様はエイル様にではなく、兄様にナヨと仰られたのでございますね」

「う……俺は別にエイル本人に言ったって言ってないんだから、問題は無いだろ」

「一緒に会っていないことが問題なのでございます」


 こいつは誰の味方なんだよ。


『どういうつもりだ』

『きちんとお話しすべきなのでございます』

『つまり俺がデニスさんを殺したって言えってことか?』

『左様でございます』

『別にマスターが殺したって言わなくてもいいんじゃない?』

『なら魔人になったデニスさんを誰が殺したって言えばいいんだよ。そもそも魔人と話をしたってことになるんだぞ。どう話せばいい』

『魔人になってたって話さなければいいじゃない。それこそ魔人に殺されたって言えばいいんだよ』

『3人共か?』

『うん』

『ならエイルは何処へ行く必要があるんだ? そっちはどう説明すればいい』

『そこは事実をそのまま言えばいいでしょ。何処へなにをしに行ったのか、誰も知らないんだから。そうでしょ時子』

『ふえ?! なんで私に聞くの?』

『エイルと最後に言葉を交わしたのは時子なんだから、当たり前でしょ』

『そうだったね。うん、エイルさんはなにも教えてくれなかったよ』

「モナカさん、きちんと話してください。見送ったときから覚悟はしていましたから」

「覚悟……」

「安心してください。2人の後を追うようなことはしませんから。そんなことをしたら、あっちで2人に怒られてしまうもの」


 あっち?


「追いかけないんですか?」

「追いかけませんよ。望んでいないでしょうし」

「そうなんですか?」

「兄様、〝あっち〟というのは死後の世界のことなのでございます」

「え? ………………なに言っているんですかっ。エイルはまだ生きていますよ」

「エイルさんは……ですか」

「……あ」


 しまった。

 誘導尋問に引っかかってしまった。


「やっぱりあの人は死んでいたのね」


 腹をくくるしかないのか。


「いえ、生きていました」

「いいんですよ。もうそんなこと言わなくても。覚悟はしてましたから」

「違うんです。本当に生きていたんです。デニスさんを殺したのは」


 うう……言葉に詰まる。

 言うべき単語は分かっているのに。

 言いようのない気持ち悪さがお腹から湧き上がってくる。

 喉が痛い。

 それでも、言わなきゃダメなんだ。


「僕です」


 手が汗ばむ。


「パパ、痛いよぅ」

「あ、ごめんね」


 鈴ちゃんの手を握っていた手に力が入りすぎてしまった。

 ていうか、鈴ちゃんの前でとんでもないことを言ってしまった気がする。


「ナームコ、鈴と一緒にエイルの部屋に居てくれ」


 今更かも知れないけど、これ以上は聞かせられない。


「頼まれたのでございます! 娘、ついてこい」

「あ……はい」


 鈴ちゃんは握っていた俺と時子の手を引き寄せて握らせると、元気よく笑ってみせた。

 でも俺たちの側を離れた途端に笑顔が消えて真顔になっていた。

 無表情とはまた違う、子供らしくない顔だ。

 そしてナームコに連れられ、部屋を出て行った。

 それを合図にしたように、トレイシーさんは口を開いた。


「モナカさん……が?」


 手を硬く握り、声を震わせて聞いてきた。


「デニスさんは魔人化していました。ですから……その……」


 そんなのただの言い訳だ。

 言い訳だけど事実だ。

 他人ならともかく、家族だと割り切れないんじゃないか。


「魔人化……ですか。きちんと順を追って話してください。私には、聞く権利があると思います」

「分かりました」


 そうはいっても話せないこともある。

 だから古い遺跡で会ったことにした。

 古い遺跡というのは一応嘘ではないから問題ない。

 でもそこに人が住んでいたり、その人たちを惨殺したなんてことは話せない。

 例えそれがデニスさんの手によるものでなくても、だ。

 エイルとどんな話をしたのかは知らないけど、それ以外のことは全て話した。

 話したことも、剣を交えたことも、エイルを斬り付けてしまったことも。

 その結果、デニスさんがどうなって、なにをしたのかも。

 そしてどうやって殺したのかも……

 俺が気絶している間のことは、代わりに時子が話してくれた。

 時子の口からはエイルが誰かと行ったという話は出てこなかった。

 口止めされているのか、そもそも最初からそんな人物など居ないのかは分からない。


「ありがとうございます」

「いえ、俺が気絶なんかしていなければ、1人で行かせやしなかったのに……」

「そうかも知れません。でもエイルさんのことです。それはただの言い訳でしょう。モナカさんが起きていても、別の理由を作っていますよ。ですから、気にしないでください」

「……その。怒らないんですか。デニスさんのこと」

「恨み言が全く無いと言えば嘘になります。ですが魔人となった以上、どうすることも出来ません。それにエイルさんがもう叩いてますから、十分です」

「そうですか」

「お腹空いたでしょ。少し待っててくださいね。今作りますから」

「私、手伝います」

「タイムも手伝うよ」

「ありがとうございます。あら? 髪切ったんですか?」

「えっと……はい」


 今気づいたのか。

 やっぱり周りが見えなくなっていたんだ。

 それだけ期待していたってことなんだろう。


 夕飯は心なしかいつもより豪勢だった気がする。

 なんだかんだ言っていても、デニスさんが帰ってくるって信じていたのかも知れない。

 なのに連れて帰れなかった。

 エイルまで連れて帰れなかった。

 だというのにトレイシーさんは責めたりはしなかった。

 いつものように優しくしてくれる。

 余計申し訳なさが大きくなる。


「モナカさん、お口に合いませんでしたか?」

「え?」

「ごめんなさいね。自分では平気なつもりだったんですけど、味に出てしまったみたいね」

「そんなことありません。いつもどおり、美味しいですよ」

「そうですか? それならいいんですけど」


 いけないいけない。

 考え事は後だ。

 難しい顔して手が止まっていたら、勘違いされてしまう。

 今は食べることに集中しよう。

 時子も前回髪が短くなったとき以上にモクモクと食べている。

 その分遠慮しようかと思ったけど、また不安にさせても嫌なので、いつもどおり食べた。

 そうなると当然足りなくなるので、追加で作ってくれた。

次回は今回は聞かない

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