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第115話 本当の名前

 そんな沈黙に耐えかねたのか、トレイシーさんが口を開いた。


「エイルさん、遅いですね。整備でもしてるんですか? あの子、そういうの好きですから」

「トレイシーさん、エイルは――」

「あ、お腹空いてますよね。お昼の残りでよければ直ぐに用意できますよ」

「エイルは帰ってきま――」

「先に食べませんか。その間にお夕飯作りますね」

「トレイシーさんっ」

「聞きたくありませんっ」

「エイルは」

「聞きたくないって言ってるでしょ」

「帰ってきません」

「あの子は絶対連れて帰ってくるって言いました。約束を破るような子ではありませんっ」

「デニスさんは……」


 そういえば、出発間際に手伝う云々言ってなかったか。


「その……やるべき事が終わらないから帰れない……と」

『マスター、なに言い出すの?!』

『いいから口裏を合わせろ。責任は俺が取る』

『どうするつもりなの』

「会えたんですか! あの人は生きていたんですか!」

「はい。仲間と一緒に」

「みんな……生きていたんですね」

「はい。3人ともお元気そうでした」

「3人……そうですか……」


 あれ、もしかして3人じゃなくてもっと居た?

 それもそうか。

 全員が生き残れるはずもない。


「それで、エイルはトレイシーさんとの約束どおり、手伝うために残りました」

「残った……?」

「はい。まだ時間が掛かるからって。それで僕たちは全員解雇されてしまいました」

「どういうことですか」

「どうもこうも、こっちが聞きたいくらいです。これで僕たちは無職になりました。ですから、ここを出ていきます」

「……えっ」


 余程想定外のことだったのか、目を丸くして固まってしまった。


「今まではエイルに雇われていたので住まわせて頂けましたが、解雇された以上いつまでもここに居座るわけにはいきません。荷物を纏めて出て行きます」

「エイルさんが帰ってくるまで……いえ、ずっと居てくれて構いませんよ」


 椅子から立ち上がり、捲し立てるように想像通りのことを叫んだ。

 こんなに慌てているトレイシーさんも珍しい。

 そんな風に思われていると、決心が鈍りそうだ。

 だけどこれ以上迷惑を掛けることは出来ない。


「ありがとうございます。でももう決めたことですから」

「そう……ですか」


 ゆっくりと座ると両肘をテーブルに載せ、力無くうつむいてしまった。


「それから、伝言を預かっています。デニスさんが〝済まなかった〟と」

「………………」

「時子」

「うん。トレイシーさん、これを渡してくれって」

「これは……あの人の身分証?」

「そうです。それからエイルさんが父さんのこと、ごめんなさいって。私にはまだやることがあるから帰れないって」

「そうですか……ふふっ」


 今笑った?

 普段の顔に戻っている?

 少なくともさっきまでの悲しそうな顔ではなくなっている。

 分かってもらえたのか。

 分かったからってこうも切り替えが早くできるものなのか。

 あ、そうだ。


「1つ聞きたいことがあるんですが……デニスさんがエイルのことを〝ナヨ〟って呼んでいました」

「えっ、本当に?」


 意外そうな顔をしている。

 でも知らなかったとか、そういう感じじゃない。

 トレイシーさんも〝ナヨ〟という名前を知っているようだ。


「はい」

「本当に……あの人に会ってたんですね」

「信じていなかったんですか?!」

「ごめんなさい。てっきり私を悲しませないための嘘だとばかり……」


 う……見破られていたっ。

 でも嘘を()いたのは一番最初のことだけだぞ。


「身分証ももう機能しなくなっていますから、誰のものかも分かりません。それに生きていたら絶対に必要なもの。渡してくれなんて言うはずがありません」


 うあ……穴だらけだったのか。

 俺たちの嘘に付き合ってくれたってことか。

 でも身分証は本物……だよな。

 今更だが不安になってくる。


「エイルさんの本当の名前はエイル・ナヨ・ターナーと言います」

「エイル・ナヨ・ターナー?」

「ええ。エイルは私が。ナヨはあの人が付けました。でもエイルさんは〝ナヨ〟が気に入らなかったみたい」

「あんなにお父さんのことが好きなのに、お父さんが付けた名前が気に入らないなんてことがあるんですか?」

「そうですね。だからあの人も、本当は俺のこと嫌いなんじゃないかって思っていました。あの子は一度も自分のことをナヨって言ったことが無いんです。次第にあの人もナヨとは呼ばなくなりました」


 そうだったんだ。

 待てよ。だとしたらレイモンドさんを連れ去ったヤツが言っていた〝ナヨ〟って、エイルのことなのか?

 だとするならなんでヤツはそれを知っていたんだ。

 お父さんの情報源もそいつが?

 勇者の(ほこら)で接触したのか?

 疑問は沢山ある。

 でもそう考えると全てが繋がる……かも知れない。

 今回もヤツと共に行ったと考えるのが妥当か。

 レイモンドさんを盾に脅されて……ということか。

 全ては憶測。

 他の可能性も……


「だからあの人がエイルさんのことをナヨなんて呼ぶとは考えられません」


 ……え?

次回は誘導尋問? です

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