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第114話 覚悟はしていました

 行きと同じく、帰りも瞬きをする暇もなく結界との境界へ戻ってきた。

 問題はどうやって中に入るか……だ。

 強行突破は簡単だ。突っ込めばいい。

 でもそうすると結界が壊れるからなー。

 エイルが居れば、出るときと同じことが出来たんだが……さて。


「いい方法はないかな」

「正規のゲートを通ればいいんじゃない?」

「通してもらえないだろ。そもそもこの船が通れるだけの大きさはなかったと思ったけど」

「高さが足りないね」

「だよなー」

〝娘、結界の解析をしろ〟

「既に終わっています」

〝ならば破壊せずに通り抜けられるな。やれ〟


 どんな理論だ。


了解(いょうかい)


 出来るの?!

 ん、なんだあの小型の丸い飛行体は。

 ドローン(トンボ)じゃなさそうだし。

 そもそも今は無理だし。

 となると、船の装備?

 飛行体が結界に張り付くと、6つに分かれて広がり、その部分に船が通れるくらいの大きな穴が開いた。

 船は通れるだろうけど、毒素も流れ込んだりしたら問題だぞ。

 大丈夫なのか?

 船のハッチが開いても毒素が船内に入り込まないから、それと同じような仕組みになっているんだろう。

 そういうことにしておこう。

 船が通り過ぎると穴はキュッと閉じた。


「ナームコ、結界はどうなっている」

〝問題ないのでございます〟

「ほころびとか不安定になっていたりとかは」

〝わたくしが見た限り、そういったことは無いのでございます〟


 なら一安心か。


「よし、帰ろう。鈴、町中は浮いて上を行くぞ」

了解(いょうかい)

「いいの?」

「今更だし、どうせ直ぐ出て行くんだ。些細な問題だろ」

「出て行くの?」

「解雇されたんだ。居座るわけにもいかないだろ」

「トレイシーさんは気にしないと思うよ」

「拠点はこの船で十分」

「探す当てはあるの?」


 〝行く当て〟じゃなくて〝探す当て〟……か。

 見透かされているというか、同じ思いでちょっと嬉しい。


「ない! あったら苦労しないだろ。でも全くないわけじゃない」

「あるの?」

「今回みたいに人が居る場所だと思う。なにもないところに用はないだろ」

「ああ。そういう……」


 問題は他に同じような場所があるかってことだ。

 1つあったんだ。

 まだあってもおかしくはない。

 そんな話をしている間に、家に帰ってきた。

 さて、トレイシーさんになんて言おう。

 船から降りて鈴とナームコを待っていると、2階から階段を駆け下りてくるような音が聞こえてきた。

 音の主は言うまでも無く、トレイシーさんだ。


「お帰りなさいっ」


 姿が見えるやいなや、大きな声で出迎えられた。

 しかもいつもの穏やかな感じじゃなくて、凄く明るい。

 初めて見る顔つきだ。

 なんだかんだ言っても、期待していたのか。

 なんて返事をすればいいんだろう。


「「ただいま」」


 あ、そっか。まずは〝ただいま〟だっけ。


「ただいま」


 あ、ヤバい。

 なにかを察したのか、トレイシーさんの顔が曇ってしまった。

 顔に出てたのかな。平静を装ったつもりだったんだけど。

 でも次の瞬間にはまた笑顔に戻っていた。


「えっと、エイルさんは……まだ中ですか?」

「トレイシーさん」

「あっそうだ! 先にシャワーを浴びてらっしゃい。その間に、おばさんお夕飯作っておくわね」

「トレイシーさんっ」

「それじゃ、仕度してますね」

「トレイシーさんっ!」


 背を向けて中に戻ろうとしたトレイシーさんは足を止め、静かに「はい」と返事をした。


「お話しがあります。中に入りましょう」

「…………はい」

「時子、フブキを頼む」

「うん」


 話……か。

 どう話をすればいい。

 いや、どう話をしても結果は変わらない。

 デニスさんは魔人になって死んだ。

 俺が殺した。


『マスター、正直に話す必要は無いと思う。マスターが殺したなんて、言う必要無いよ』

『そうかも知れないけど、黙っているのもな……』

『それよりエイルのことだよ』

『そっちだなあ。死んだわけじゃない。なのに帰ってこない。置いてきたと責められたら、返す言葉もない』

『エイルはなにをするために出て行ったんだろう』

『せめてそれが分かればなあ』


 家に入り、とりあえずアニカをエイルのベットに寝かせにいく。


「トレイシーさん、開けてもらえますか」

「………………」


 エイルが居ないことを察したのか、なにも聞かずに扉を開けてくれた。

 アニカを寝かせ、食卓に向かう。

 廊下を歩く足音が家にこだまする。

 鈴ちゃんとナームコはシャワーを浴びているが、俺たちはいつもの席に座った。

 座ったのはいいが、誰も喋らない。

 口が重い。

 なにから話したらいいのやら。

次回は誤魔化しの時間です

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