第10話 夫婦?
話が終わったのか、取り囲んでいた人たちが街に戻っていった。
残ったのはリーダー格のヤツとひ弱そうな男だけだ。
「モナカさん、外に出るわよ」
気がつけば、エイルとアニカもハッチのところまで来ていた。
「外に出て大丈夫なのか?」
「攻撃されなければ大丈夫だそうよ」
されたらダメなんじゃん。
ナームコがそう言ったのかな。
でも肝心の本人が居ないぞ。
「ナームコと鈴ちゃんは?」
「ナームコさんが鈴ちゃんの身体を拭いているから、少し遅れてくるわ」
そういうことか。
あ、でも洗い流さないとダメなはず。
シャワー、貸してもらえるといいな。
「改めて、初めまして。私が船長のエイル・ターナーです。こちらは順に、モナカ、タイム、時子、アニカです。あと2人居ますが、準備がありますので遅れています。ご了承ください」
「いえいえ、ご丁寧にありがとうございます。僕は村長の息子で阿一と申します。そして隣の者は防衛隊副隊長の詩夢弥心琴です」
「どうも」
「こら、言葉遣いに気をつけなさい」
「へぇい」
「大丈夫ですよ」
「すみません。残りの方が来られましたら、場所を変えましょう」
「お願いします」
うん、会話に問題はないようだな。
少しすると、ナームコに連れられて鈴ちゃんがやってきた。
「パパー!」
俺を見つけると駆け寄ってきて抱き付いた。
「えへへ」
「疲れていないか?」
「まだ平気だよ」
〝まだ〟ね。
それは〝少し疲れたけどまだできるよ〟って意味かな。
素直に言ってほしいんだけどなー。
「んーと、パパ、ママ、はい」
「ん?」
「手ー!」
ああ、手を繋ごうってことか。
「お子さんですか?」
「え? ええ、まあ。ははっ。良痛っ!」
エイル、なにすんだよ。
『名字はやめておきなさい』
『なんでだ?』
『あのね、あなたたち名字がバラバラでしょ!』
あ……そういえばそうだった。
だから時子も名前だけだったのか。
俺に至っては名字が無いし……いっそのこと子夜最中とでも名乗っとくか! なんてな、ははっ。
「どうかされましたか?」
「いえなんでもありません。えっと、鈴っていいます。アレが一応妹のナームコです」
「兄様?!」
「へぇー。若ぇだけにお盛んだな」
おさ……くっ、まだ1度もありませんけどぉ。
てか、鈴ちゃんの前でそういうことを言うな!
「こら! そういうことを言うもんじゃないよ!」
「ぎゃはははは! いいじゃねぇか。やれるときにやっときゃいいんだよ。2人目はいつなんだ? もう居るのか? まだ腹ん中か?」
居ないからお腹を触ろうとするな。
嫌がっているだろうが。
「心琴ちゃん、下品だよ」
「その呼び方を止めろ! なにが下品なんだ。子沢山? いいじゃねぇか。はっ、羨ましいねぇ」
「それは……そうだけど」
「てめぇが言うな!」
もしかして2人ってそういう関係なのか。
子供ができなくて悩んで……待て待て。
名字が違ったはずだ。
ならどういう意味だ?
「おら、グズグスしてねぇでさっさと行くぞ」
「あ、待ってよ……あ、失礼しました。こちらです。付いてきてください」
「分かりました」
おいおい、性格的にも体格的にもどう考えても性別逆だろ。
どうしてこうなった。
「仲がいいんですね」
時子さん、あれを見て仲がいいって……それはどうかと思いますよ。
「いやぁ、あはは」
「おめぇ何処に目ぇ付けてんだ。それとも目ん玉腐ってんのか?」
「こら、そういうことを――」
「時子の目は腐ってねぇよ! キラッキラに輝いてて新鮮そのものだぞ。なあ!」
「その言い方もどうかと思うけどな」
「あれ?!」
ダメだった?
あー顔を真っ赤にして背けるほどダメでしたか。
公衆の前で辱めてしまったぞ。
ちょっとデリカシーが足りなかったらしい。
〝腐っていない〟ってことを強調したかったんだけど……うー。
「ふんっ」
「すみません。心琴ちゃんと僕は許嫁なんです」
「家が隣同士だからって親が勝手に決めたことだぞ。そんなん、俺は認めねぇからな!」
「そうだけど……僕のこと嫌いなの?」
「でぇっきれぇだっ!」
「えええええっ?!」
子供の喧嘩みたいだな。
これでも仲が良いっていうのかね。
「あはは。本当に仲が良いんですね」
マジか……
「……チッ!」
「ううっ……」
親の決めた許嫁か。
村長の息子、つまりは地位のある立場に居るってこと。
結婚も自由にできないのは仕方がないことなのか。
女だてらに……えーと、副隊長だっけ、やっているんだから、かなりの実力者だろう。
この人が頼りなさそうな分、お嫁さんの血は勇ましく……なのかな。
完全に尻に敷かれそうだけど。
えっと、かかあ天下の方がいいんだっけ。
……なんでだろう。
うちもかかあ天下みたいなもんだけどな。
財布握られているし。
いろいろタイムに実権握られているし。
……はぁ。
『ごめんなさい』
『……ん?』
『えっ?』
『なにがだ?』
『なにも言ってないよ』
『そうか? 〝ごめんなさい〟って言ってただろ』
『きのせいじゃないかな。あはははは』
まいっか。
次回は鈴ちゃんが目を覚まします