第108話 冗談ではない
一さんと心琴さんの婚約が解消?!
生きて帰ってきたんだから心琴さんを俺にあてがう必要はない……よな。
なんで?
『どういうことだ』
『心琴殿が隣村の村長殿のところへ嫁ぐとのことでござる』
『隣村?!』
俺じゃなくて隣村の村長?!
ホッとした反面、それ以上に何故という気持ちが大きい。
そしてそれよりも隣村があることに驚いた。
もしかして思っていた以上に広い?
『兄様、そのことでも話があるのでございます』
『分かった。ニンジャは引き続き諜報を頼んだ』
『分かったでござる』
心琴さんの相手は誰でもいいのか?
2人は不仲には見えなかったけど……
政略結婚? だとするなら一さんが婿入りするはずだ。
……いや待て相手は男だぞ。
んー、やっぱり心琴さんでいいのか。
奥の部屋には布団が敷いてあり、予想通りアニカが寝ていた。
「それで、話というのはなんだ?」
「そうでございますね…………? 兄様、エイル様は何処に?」
あー、そっちを先に話すべきか。
『エイルは独りで旅に出た。俺たちは全員解雇で無職になった』
『どういうことでございますの!』
『どうもこうも、それ以上のことは分からん』
『お父様と御一緒ではないのでございますか?』
『デニスさんは魔人化していたから、俺が殺した』
『兄様が?!』
『村長たちには2人とも魔物に殺されたことにしてある。そのつもりで話してくれ』
『存じたのでございます』
「それが……エイルは魔物に殺された。お父さんも一緒にな」
鈴ちゃんに聞こえていないよな。
聞こえていたらややこしくなるからなー。
「本当でございますかっ!」
『デカい声を出すなっ! 鈴ちゃんに聞こえるだろ』
『も、もももも申し訳ございませんっ』
「本当だ。トレイシーさんになんて言えばいいのか……頭が痛いよ」
「お気持ち、お察し致すのでございます」
これで壁耳は誤魔化せたかな。
「えー、それで?」
「はい。まず、心琴様が魔物と交戦をしておられたのでございます」
「それは知っている。俺も居たからな」
「はい。兄様たちが地下へ行かれて暫くすると、村の外からも魔物が襲ってきやがられたのでございます」
「外からも?!」
タイミングが悪いな。
でもこんなに頻繁に襲ってくることは無いって言っていなかったか。
「その為心琴様の元へ増援が来ることはございませんでした。その様子をわたくしたちはリューギョ様を通して見ていたのでございます。アニカ様は精霊にお願いをして、助けにゆかれたのでございます。そこで精霊様は反撃を受け、その反動を受けてアニカ様はお倒れになられたのでございます」
「アニカは大丈夫なのか?」
「イフリータ様のお話でございますと、1日寝ておられれば問題ないと仰られていたのでございます」
「やっぱりイフリータが来ていたのか。てことは、やっぱりフレッド……アニカのお兄さんも?」
「いえ、アニカ様のところへお一人でお遊びに来られたとのことでございます」
相変わらず自由なヤツだ。
それにフレッドがここに来ていたら、それはそれで大問題だ。
「アニカ様のご成長を大変お喜びになられていたのでございます」
「成長?」
「〝以前なら我らの同胞となっておったのじゃ〟と仰られていたのでございます」
「同胞…………!」
つまり死んで精霊になっていたってことか。
一気に物騒な話になったぞ。
でもそれに耐えられるようになったのか。
凄い成長したな。
「それと同時に落胆もされておられたのでございます」
「落胆?」
「普通は耐えるのではなく受け流すのだそうでございます」
「受け流す……なるほどね。それで?」
「はい。村に居やがられた魔物も魔人も、イフリータ様が灰すら残さず焼き尽くされたのでございます」
魔人も?!
俺たちはあんなに苦労したっていうのに。
しかも残りの1人は更に強いって話だろ。
イフリータ……いや、精霊って本当に強いんだな。
「そうか……じゃあみんな無事だったんだな」
「……だとよかったのでございます」
「違うのか?」
「大勢の方が魔物の凶刃に倒れられたのでございます」
「そうだったのか」
全員無事とはいかなかったか。
「それで、心琴様なのでございますが……」
「怪我でもしたのか?」
「魔人と相まみえた際、帰らぬ人となったのでございます」
「……は?」
「「えっ?!」」
「おい、冗談にしては質が悪いぞ」
「アニカ様の精霊様が、魔物程度に後れを取ることはございません。その精霊様も深手を負い、アニカ様までこのようなことになられたのでございます。その相手が、魔人なのでございます」
「本当……なのか? じゃあ、隣村へ嫁ぐって話は?」
「一様に真実を伝えぬ為の嘘かと存じるのでございます」
「そんな……」
心琴さんが?
にわかには信じられない。
悪い冗談だ。
「兄様、話にはまだ続きがあるのでございます。むしろこちらの方がわたくしたちには厄介なのでございます」
「これ以上のなにがあるっていうんだ……」
想像できないぞ。
「イフリータ様のお陰で村から魔人と魔物が居なくなり、戦いに終止符が打たれたのでございます」
ハッピーエンドとは言えないけど、脅威が去ったことに違いはない。
これからは毎回イフリータに来てもらって焼き滅ぼしてもらうか。
って、え?
話が終わったぞ。
これが厄介だっていうのか?
次回は過去回想回っぽい?