第107話 デレとマジの狭間
改めて周囲を見回したが、この辺は魔物が来なかったのかな。
「静かだ」
「そうですね。魔物騒動は終わってるのでしょうか」
本当にイフリータが残らず魔物と魔人を倒したのか?
来た道を戻るも、それらしき痕跡は見当たらない。
それとも灰すら残さず燃やし尽くした?
屋敷が見えてきたけど、やはり静かだ。
元々静かだったけど、それ以上に静かに感じる。
「コケーッ!」
庭に入るとニワトリが襲撃してきた。
こいつ、フブキが居ないと強気だな。
でもこいつのお陰で安心する。
誰も居ないわけじゃない。
「お帰りなさいませ」
ほら、お手伝いさんのお出迎えだ!
ちょっと安心した。
「村長がお待ちです」
「分かった。皆さん、行きましょう」
「はい。ただいま」
「「「ただいま」」」
「……」
……あれ?
お手伝いさんに案内され、村長の居る部屋へとやってきた。
ふすまが開くと、中では村長が待ち構えていた。
その隣にはお母さんも座っている。
いつもの明るさがないな。
村長は……まあいつもどおりか。
中へ入り、座布団に座る。
一番右は空席だ。
「おや、エイル殿はどうされた?」
「それがですね………………」
さすがに3度目ともなると、ぎこちなさは取れているはず。
村長に通用するかな……
「………………左様か。ふむ……、お主たちほどの力の持ち主でも命を落とすことがあるのだな」
「そうですね」
よし、村長も誤魔化せたぞ。
「つまり、探し人も探す者もこの世を去った……そうだな」
「はい」
「そうか。では早急に村を出て行ってもらえぬであろうか」
「村長! 今日くらいはゆっくりして頂いても――」
「口を挟むな。発言を許した覚えはないぞ」
「はい、申し訳ありません」
まあ元々歓迎されていたわけではないからな。
用が無いならさっさと出て行けというのも分かる。
「分かりました。短い間でしたが、お世話になりました。失礼します」
「一、お前は残りなさい」
「はい」
一緒に立ち上がって出て行こうとした一さんを呼び止めた。
詳しい報告でも聞くのかな。
そういえば、挨拶もなにもしていなかった。
今更だし、さっさと荷物を纏めて――
「どういうことですかっ!」
ん? 一さんの怒鳴り声?
初めて聞いたような気がする。
なにがあったんだ?
反射的に振り返ると、お手伝いさんが無言で通せんぼしている。
関わるなってことか。
気になるけど、ここは離れに行くしかないようだ。
『ニンジャ、様子を探っておいてくれ』
『分かったでござる』
後は任せて離れで帰り支度をしよう。
といっても大した荷物はないから……あ。
エイルの携帯端末……頭が痛いな。
「フブキ、ただいま」
「わふっ!」
「兄様っ、お帰りなのでございます」
「パパ、ママ、お帰りなさい」
「おー、ただいま。良い子でお留守番してたか?」
「うんっ」
「勿論でございます」
「そうかー鈴は良い子だなーよしよし」
「えへへー」
「兄様っ、わたくしもっ! あ痛っ にっ、兄さ、あうっ」
「あれ、アニカは? 寝ているのか?」
「そのことでお話しがあるのでございます」
「話?」
いつになく真剣な顔だな。
真面目な話……なのだろうか。
首から下がいつもと同じでなければそうなのだろう。
真顔で抱き付こうとするな!
めっちゃ怖いわ。何処のホラゲだよ。
「娘、庭でフブキ様と遊んでいろ」
「はい、分かりました」
あれ、鈴ちゃんには聞かせられない話なのか?
廊下から庭へ下りていってしまった。
「さ、兄様、皆様、中へ上がるのでございます」
「分かった。とりあえず抱き付こうとするのを止めろ」
「ああんっ。可愛い妹にお帰りのハグをさせて欲しいのでございます」
「真面目な話がしたいんじゃないのかっ!」
「それとこれとは別なのでございます。兄様成分が欲しいのでございますっ」
「分かったよ。これで真面目な話じゃなかったら置いて帰るからな」
「ナームコはいつでも真面目なのでございます。ああっ、なんて芳しい匂いっ!」
「嗅ぐなっ!」
「はぁー」
「おいっ、頬ずりまで許していないぞ!」
くっ、ちょっと許せばこれだ。
「いい加減にしないと簀巻きにして庭に埋めるからな」
「さ、兄様。こちらでございます」
切替早いな。
さっきまでの不真面目さがもう微塵も感じられない。
最初っからそうしろって。
まったく。
これだけのことをさせたんだ。
生半可なことじゃ許さないからな。
『マスター、大変でござる』
『こっちも大変なところなんだよ』
『一殿と心琴殿の婚約が解消になったでござる』
『なに?!』
次回は一方その頃の回想です