第106話 それでも太陽は輝いている
一体何人の頭を撫でたことやら。
回りがちょっとザワついていたような気がしなくもない。
そりゃ同じ顔の園児がズラッと並んでいたらそうなるよな。
しかも撫で終わるとスマホの中に戻るんだから。
が、気にしない方向でいこう。
なにかあってもニジェールさんがもみ消してくれるはずだ。
一通り終わるとやっとタイムたちは満足したらしい。
ということで。
「な、なに?!」
「綺麗に食べられたご褒美」
「……バカ……」
言葉とは裏腹にやけに嬉し……そうなのにほっぺたが膨れている?!
撫で方に不満があるのかっ。
いつもと同じだと思うけど……同じだからダメなのかっ。
ならば奥義・腹ナデナデ……は問題があるから止めておこう。
まだフブキにしかしたこと無いしな、うん。
よし、これで全員だな。
それじゃニジェールさんたちのところに戻るか。
考えてみるとニジェールさんと一さんを二人っきりにしてたんだった。
大丈夫だとは思うけど……
あーお互い距離を取って一言も話さず立ち尽くしているぞ。
一さんに至っては、顔を下に向けて思いふけっている。
ニジェールさんが俺たちに気づき、話しかけてきた。
「どうであった」
「ビスケットが美味しく食べられました」
「ビスケット?」
「朝いただいたヤツです」
「ああ。あれは硬いからな。水分と一緒に食べるのが兵士の間では一般的になっておる」
そうなのか……
朝も欲しかったな。
「忘れ物は大丈夫か?」
「大丈夫です」
「ゲートに車が用意してある。それで送ろう」
また荷台に乗って移動か……と思ったが、後部座席がある普通の車を用意してくれていた。
だから荷台に乗らなくて済んだ。
一さんは助手席に乗りたくなさそうだった。
助けを求めるような目で俺を見ていたが、ニジェールさんが「早く乗れ」と急かしたので諦めて助手席に乗った。
ごめんなさい。
代わってあげたかったけど、時子と離れて座るのはちょっと……
俺たちは後ろに乗り込んだんだが、荷台と比べて乗り心地が断然いい。
座席がフカフカで本当に車の中なのかって思うくらいだ。
フブキの次くらいに乗り心地がいいんじゃないか?
肘掛けの手触りも滑らかだ。
内装も不自然なくらい豪勢な造りになっている。
なのに何故か窓ガラスが黒塗りで外がよく見えない。
チグハグだなぁ。
一さんに地下世界のことを見せないようにしているのかな。
「着いたぞ」
「「ありがとうございました」」
「あ……ありがとう」
車を降りると、最初に出てきた扉の前まで来ていた。
あれ、ニジェールさんも降りるの?
そうか。電力を流さないと扉の鍵が開けられないのか。
ん? 開けるだけじゃなくて中に入っていったぞ。
ロッカーから防護服を取り出すと着始めた。
「ニジェールさんも上に行くんですか?」
「いや、この上の部屋の扉までだ」
そういえば来るときもエイルが開けていたっけ。
……今後は誰にピッキングをしてもらおう。
でもエレベーターから出るときって、ピッキング必要なのか?
クリーニングルームを通り、エレベーターで上がっていく。
予想どおり、鍵を開けるような仕草もなく、普通に開いた。
なんでここまでついてきたんだろう。
「私はここまでだ。貴君たちのお陰で世界は救われた。感謝する」
「世界だなんて、大袈裟ですよ」
「我々にとってあの空間が世界なのだ。大袈裟ではない」
閉じられた世界ということか。
「貴君たちに、栄光あれ」
俺たちに向かって敬礼をしてきた。
思わず見よう見まねで敬礼し返す。
「さようなら。お元気で」
「「さようなら」」
「さ、さよなら」
ゆっくりとエレベーターの扉が閉まると、暗闇に包まれた。
これで地下世界ともお別れか。
後は階段を……上るのかぁー。
その後は井戸も上らないといけないのか。
ダルい。
「じゃ、行こうか」
一さんの明かりを頼りに階段へと移動する。
そして途方もなく長い階段を見上げる。
上の方が暗闇に吸い込まれていて見えない。
エレベーターが欲しい。
エスカレーターでもいい。
そんな無い物ねだりをしても階段は減らない。
とにかく歩いて上がるしかない。
しかもおんぶできるほど広くもない。
時子は大丈夫か?
折り返しの踊り場で休憩を取りながらとにかく上る。
水が欲しい……
なんとか階段を上り終えると、今度は縄ばしごだ。
いや、もうちょっと休んでからにしよう。
狭い階段に無理矢理座り込む。
他もこんな感じなのかな。
魔人たちはこんなところを下りていったのか。
そしてエレベーターを使わず床を破壊して入り込んだ。
あの穴ももう塞いだのかな。
呼吸が落ち着いてきたところで、一さんが扉を開けて井戸の底に出る。
縄ばしごを一さん、俺、時子の順で昇り始める。
やっと地上に出られるのか。
まだ日が高いのか、上の方に小さく青い空が見えている。
なんとか一さんを生かして連れて帰ってきたぞ。
これも地下民の人たちのお陰だ。ありがとう。
これで心琴さんを娶らずに済む。
助かった。
はしごを登り切り、漸く地上に帰ってこれた。
大きく伸びをする。
あーバキバキいっているよ。
空が青い!
太陽が眩しい!
風が気持ちいい!
時子も一さんも伸びをしている。
パキパキ音が聞こえてくる。
「やっと着いたー」
「まだよ。家に帰るまでが遠足なんだから」
遠足って言い方もどうなんだ。
「その家ってのは離れのことか? それともエイルの家か?」
「う……意地悪」
「っはは、ごめんごめん」
次回、軽いホラー? と言っていいのかこれは