第105話 分かるなら苦労はしない
髪は……んー、伸びたのかどうか分かりにくい。
前回みたいにシッカリ食べたわけじゃないから誤差レベルだろ。
……時子が前髪を1ミリとか2ミリ切って気付かないと怒るタイプだったら嫌だな。
しかもこれ、それ以上に難易度高いぞ。
本人にも分からないんじゃ……
ま、食べたからって即反映されるわけじゃないだろう。
消化して髪の毛になるにはそれなりの……は普通の場合か。
時子の髪はあっという間に伸びたからなー。
うーん……
「………………」
「ん? どうした?」
手ぐしで髪をとかしながら上目遣いで俺を見つめている。
可愛い。
……まさか伸びているアピール?!
え、伸びてんの?
『……はぁ』
なんでため息?!
髪をとかすのを止め、落胆している。
やっぱり伸びていたのかっ!
『んー、朝もそうだったんだけど、なんか食べたって気がしなくて』
そういうことじゃない?
勘違いか。
変に勇み足しなくてよかったパターン……かな。
『そうなのか? 俺はそうでもないけど』
『お腹は満たされるんだけど、栄養になってない……みたいな? 上でもそうだったし、ここのものは合わないのかも』
『分かるのか?』
『なんとなく。ほら、髪も全然伸びてないでしょ』
分かるのかっ!
でも伸びていないんだったらさっきの仕草とため息はなに?
気になるけど後回しだ。
ここは虚勢を張って同調すべきか、それとも正直に分からないと言うべきか……
うー。
『ごめん、分かんない』
『やっぱり分かんないかー』
〝やっぱり〟とか言われてしまった。
うう、次こそは気付いてやるっ……くっ。
いや待て!
気づくもなにも今回は伸びていないんだから気づきようがないだろ。
……伸びなかったことに気づけってこと?!
『そんなに直ぐ伸びるものか?』
『前回は直ぐ伸びたじゃない』
『食べた量も全然違うと思うけど』
あのときは俺以上に食べていたからな。
『そうだねー。んー、でもここの食事だと伸びない気がする』
『どうしてだ?』
『分かんない』
『分かんないのか』
『分かんないね』
『そうかー』
タイム……ナースなら分かるのかな。
『あー、早くトレイシーさんのご飯が食べたい』
『そうだなー』
とはいえ、エイルが居なくなっちまったんだよな。
もうお世話になることも……
トレイシーさんは気にしなさそうだけど。
『ただいまー』
あ、タイムが戻ってきた。
っていうかお前、あっちで消えてこっちに現れたとかじゃないだろうな。
今、歩いてこなかっただろ。
いきなり定位置に現れたよな。
『見られてなかった……よ?』
騒ぎになっていないからそうなんだろう。
ならいっか。
『早かったな。お帰り』
『お疲れ様。患者さん、どう?』
『容態も安定したから、大人しく寝てれば大丈夫だよ』
『そっか。お疲れさん。よしよし。ほら、ナースも出てこいよ』
『わ、私は、いいわよ』
『遠慮するな。それとも緊張するのか? っははは』
『そんなんじゃないわ。バカッ』
言われて違うと言いたいのか、ナースも出てきてくれた。
『ほら、よしよし』
『う、あ……』
『四天王たちも頑張ったわん!』
『そうにゃそうにゃ!』
『分かった分かった。順番にな』
1人1人頭を撫でてやる。
いい顔して笑うなぁ。
はぁー癒やされるぅ。
ん? サムライ?
双子も……って、みんな出てきたのか!
なにしれっと並んでいるんだよ。
気のせいか、見たことないヤツも……水増し?
今後出てくるってことかっ。
いちいち突っ込むのも面倒だ。
さっさと頭を出せ!
撫で回してやるっ!
「むーっ」
次回は太陽光線が目にしみます