第101話 誤魔化しきれ
なんでもない……とはいうけど、やっぱり気になる。
そう思ったら自然と頭を撫で……ようとした。
いつもなら欲望に任せて撫でているところだが、手を繋いで歩きながらだと撫でにくい。
満足に撫でてやることは出来ないだろう。
ここはグッと我慢だ。代わりにタイムを抱っこしておく。
何故かって?
振り上げた拳の降ろしどころが見つからなかったからだ。
それに今はエイルのことをどう説明するかを考えなきゃならない。
とはいえ、それはもう決めている。
「一さんたちにはエイルが死んだことにするぞ」
「「えっ?!」」
「その方が面倒がなくていいだろ。所在不明とか、なんて説明すればいいか分からん」
「そうだね。分かった」
「ルイエにもその方がいいんじゃない?」
「え? なんでだ?」
「だって、置いていかれたなんて分かったらどうなることか……」
「んー、でもルイエにだけってのは難しいと思うぞ」
「そっか、そうだね。ちゃんと受け止めてもらわないとダメか」
「フォローは頼んだ」
「ひぃぃ!」
「っはは」
どうして連れて行ってやらなかったんだろう。
そりゃ連れて行くには離れに戻らなきゃならなくなるけどさ。
だから……なのか。
そんな話をしながら一さんたちが居るところまで戻ってきた。
地下民の人たちはまだ辺りを警戒しているらしい。
「ただいま」
「お帰りなさい。ご無事でなによりです」
「おお、戻られたか」
「はい。魔人を2人倒してきました。残り1人は居場所が分かりません」
「魔人?」
「あ、新種のことです」
「本当か!」
「はい。証拠はありませんが……」
「いや、信じよう。後1匹か……」
一体何処に潜んでいるのか。
デニスさんの話だと、好戦的な感じがするからすぐ見つかるかと思った。
でもタイムが地図を作っている時にも見つけられなかったんだよな。
隠れている……とは思えないけど。
「あの……モナカさん。そのことですが、どうやら地上に出ていたようです」
「本当ですか?」
「はい。モナカさんが教えてくれた場所から出てきたそうです」
「あそこからか」
となると心琴さんが心配だな。
「どうかしたのか」
あー、また通訳か……かくかくしかじかでー。
「地上に戻ったのか」
戻った……そういう表現になるのか。
一瞬安堵したようだけど、また厳しい顔つきに戻った。
まだ気は抜けないってことかな。
「……のようですね。よし、俺たちも急いで地上に戻ろう!」
「いえ、それが……村長の話ですと、炎の化身が焼き滅ぼしてくれたらしいんです」
「炎の化身?!」
獣ではなく化身……
まさか、イフリータが来ていたのか。
時子が下に居たから来られたのかな。
「アニカさんの旧友だと仰ったそうです」
やっぱりイフリータが来たんだ。
てことは、まさかフレッドも?
「本当ですか?」
「ご存じありませんか」
「えーと……そんなヤツ居たかな。あはははは」
「ふふ。僕たちの役目は終わりました。家に帰りましょう」
「そうですね」
とりあえずイフリータのことは伏せて説明……は無理か。
でも地下には居なくなったんだから、無理に話す必要もなさそうだ。
「ニジェールさん、地上に戻ってもいいですか」
「私の一存ではなんとも……」
「そうですか。なら一旦対策本部に戻って副総裁に聞いてみましょう」
「分かった。よし、撤収するぞ」
「「「はっ!」」」
うわっ、結構な大所帯になっていたんだな。
あ、もしかして民間人の生存者?
居たんだ……よかった。
「あれ? エイルさんはどうされたんですか? 姿が見えないようですが……」
きたっ。
一世一代の猿芝居を決めなくてはっ!
「エイルは死にました」
「死んだ?! …………それは本当ですか」
「はい。実は探していた父親を目の前で殺されそうになりまして、それを助けようとしたときに背中へ一撃を食らってしまい……」
嘘は吐いていないぞ。
真実味があるはずだ。
「……そうでしたか。ではお父様は?」
「娘の返り血を浴びて理性をなくした結果、突っ込んでいってしまい、返り討ちに……」
これも嘘じゃないから騙してはいない。
物事は言い様なんだ。
「お二人共ですか! それは……お悔やみ申し上げます」
「ありがとうございます。いろいろご協力して頂いたのに、結果に残せず、申し訳ない」
「いえ、お気になさらず」
よし、なんとか誤魔化せたぞ。
問題は村長も納得させられるか……だ。
後片付けも終わり、対策本部へ向かう用意が調った。
そして民間人と負傷兵を囲うように戦える者が外側に……あれ?
「ニジェールさん、民間人に武器を持たせているんですか?」
「全員兵役を終えた者たちだ。武器の扱いは慣れている」
兵役?!
そんなものがあるのか。
でも明らかに腰の引けたヤツも居るぞ。
大丈夫かな。
『近くに魔物は居ないから、大丈夫だよ』
『そっか。タイムが言うなら安心だ』
タイムの言うとおり、魔物に出会うことなく対策本部に戻ることが出来た。
安心したのか、その場で倒れるもの、泣き出すもの、喜び合うものと様々だ。
「臨時部隊が帰投したぞ!」
「衛生班!」
「急げ。誰1人休暇を取らせるな」
それはブラックすぎやしませんか。
生き死にに関わることだから、仕方がないのかな。
「大勢の者が戻ってくることができた。これも貴君らのお陰だ。感謝する」
「いえ、皆さんのサポートが無ければ不可能でした。こちらこそありがとうございました」
「私はこれから報告に向かう。申し訳ないが貴君らは民間人と共に休まれてくれ。落ち着いたら副総裁にお会いして頂くことになるだろう」
「分かりました」
「失礼」
はぁー、一息つける。
次回は久しぶりの登場です