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この作品には 〔ガールズラブ要素〕が含まれています。
苦手な方はご注意ください。

バウムクーヘン

作者: 秋穂 日和

バウムクーヘンをフォークで切り分ける。

もふりとした、生地の濃密さを感じさせる触感に自然と顔が綻ぶ。

ケーキは人と分け合うものだと相場が決まっているが、何せわたしはお一人様、この丸々としたワンホールを丸ごと食べる権利があるのだ。

フォークに指すのではなくあえて乗せて、口に放り込む。

シンプルなミルクのしっとり生地が口の中で解けて、シャリシャリとした砂糖の層の食感がアクセントとなって美味の相乗効果を生み出している。気取って感想を述べてみたけど、うん、やはりバウムクーヘンは美味しい。

「おっと」

足元に目を落としてみれば、ポロポロと砂糖が落ちてしまっていた。慌ててわたしは手でつまみ上げ、ぽいと口に隠してしまう。

よかったよかった、気づかずにそのままにしていれば折角おろしたパーティドレスが虫たちのパーティ会場になっていたかもしれない。

緩く巻いていた髪を解き、化粧を落として、息をつく。


今日は、親友の結婚披露宴があった。

親友という贔屓目から見ても、とても晴れやかな素敵な披露宴であったように思う。

会場は小さいながらも歴史あるチャペルと併設された会場で、家族や友人たちに囲まれて祝福された彼女は笑顔で、それはそれは美しかった。

そんな素晴らしい場にわたしは友人代表スピーチで、拙い言葉であったが華を添えさせてもらった。

二人で積み重ねてきた想い出と、ずっと近くにいたからこそ分かる彼女の人となり、そして二人のこれからに向けた祝福の言葉、テンプレートといえばそれまでだが、いやはや、不思議と泣けてくるもので、スピーチが終わると彼女と抱き合ってわんわん泣いた、新郎両家親族友人たちの目の前で。

思い返すと恥ずかしいな、まあそれだけ感極まってしまったのだから許してほしい、と誰に言うでもなく自嘲してみる。それに、我ながら頑張ったほうではないだろうか。


好きだった、親友の結婚式に出席出来ただけでも褒められて然るべきじゃないだろうか。


わたしは彼女が好き、それは親友としてでも、そして恋愛対象としてでも。昔から心の底に秘めた想いを口に出す事はなく、今日という日が来てしまった。

もし、何処かで打ち明ければ、未来は変わったのだろうか。彼女は優しい人だから、もしかしたら。

手元には、スピーチとともに彼女に渡した手紙と同じ柄の、渡すことが出来なかった便箋があった。

……わたしを、忘れないで。

ぐしゃぐしゃに書きなぐられた、わたしのどこまでも自分勝手な恋心。

便箋を丸めて、屑籠に向けて放り投げる。弧を描いて、わたしの想いはゴミとなる。


さて、バウムクーヘンを食べないと。親友から手渡された、バウムクーヘンを。

バウムクーヘンは木のケーキという意味で、結婚式においては夫婦二人のこれからが年輪のように積み重なっていくようにと、想いが込められているそうだ。親友から渡されるときに聞いた蘊蓄(うんちく)だ。そして、蘊蓄に続けて彼女は涙ながらに言葉を紡いだ。

「このバウムクーヘンの年輪みたいに、ずっと親友でいてね」


バウムクーヘンを切り分ける。

どうか二人のこれからが幸せでありますようにと祈りを込めて。

バウムクーヘンを切り分ける。

どうかずっと彼女と親友でいられますようにと願いを込めて。




バウムクーヘンを切り分ける。

どうか、どうか、どうか。

わたしの想いが、報われますようにと、呪いを込めた。


こういうエンディングのことをバウムクーヘンエンドというそうです。

皆さんはバウムクーヘン好きですか?お茶菓子にしてよし、ちょっと忙しいときに摘まんで小腹を沈めるもよし、いつ食べても幸せな気持ちになれるバウムクーヘン。

今日のおやつにいかがでしょうか?

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