転生した勇者とその母親の話
目が覚めたら赤子になっていた。
というのもよくある話のようで、自分に前世があると分かったのは幼稚園児の時だった。
前の自分は勇者であり、魔王を倒すべく仲間とともに立ち向かい、そして敗れた。
そして転生してこの世界、…日本で生まれ、気づいた時には父はおらず、母は女手一つで俺を育ててくれた。
16歳になった日、母は仕事で忙しく一人で誕生日を迎えていた。
月明かりが眩しい夜、いつになく眠れず、夜風をあびようと窓を開けると、前世で旅のお供をしていた妖精が現れたのた。
「またあちらの世界へ行き、共に魔王を倒しましょう 勇者様」
妖精が言うには
かつての仲間たちも集めており、あとは勇者の俺だけであると…
だが急に出発するには心残りがあった。
今世での母の事だった。ここまで自分を育ててくれた恩を言ってから行く。妖精にそう伝えると
「お早めにお願いします」とふわりと消えていった。
翌日、夕食後に母に包み隠さず話した。
今までの感謝、そしてこれからの事。
母は泣きそうな顔をして、
俺が好きだと言った林檎を剥いてあげると、
弱々しく発してキッチンへ向かう。
しばらくすると林檎と包丁を持ちながら
泣き腫らした顔をした母がこちらへ近づく。
それが俺の、最後の記憶であった。
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愛する人との、待望の赤ちゃんが生まれた。妊娠中は辛いこともあったが、これから生まれる生命の為、夫婦共々協力し合い頑張ってきた。
出産した日、自分から生まれた赤子を見て驚愕した。私たち夫婦は黒髪なのに、金髪の子が生まれたのだ。もちろん、浮気が疑われたが一切そんなやましいことはしていない。
遺伝子検査も私たちの子だと示していたが、夫は認めていないようで、何度も説明したが家を出て行ってしまった。
信じてくれなかった夫に悲しみが溢れた時、
小さな手が私の小指を緩く握る。
可愛い可愛い我が子を大切に育てなければ。
そう決意し、女手一つで頑張ってきた。
気がづけば息子は16歳の誕生日になっていた。
パートも忙しく、あまり構ってやれてなかっなと、
コンビニで小さいケーキを買い、夜遅くに帰宅すると、知らない声が聞こえた。
我が子は前世では勇者?
あちらの世界へいく?
そんな耳を疑うような話に怖くなり、音を立てぬよう自分の部屋の布団へ潜った。
私の子供は私の子でなかったのか。
あの子が転生した勇者と言うならば………
私の本当の子はどこだ?
ふと、カッコウの托卵を思い出した。カッコウは他の鳥の巣に卵を産み、その鳥に世話をさせると。
巣の中にあった卵は、先に孵ったカッコウが巣外に落とし、自分のみを育てさせると。
私は托卵されたのだ。私の子供で無い子をここまで育てさせられたのだ。
ふつふつと湧く感情を押さえつけ、頭をふる。
きっと何かの聞き間違いだ。
そうあって欲しかった。
明日、話を聞こう。
あの子の好きな林檎を用意して、
何事もない日をすごそう。
ゆっくり深呼吸をして、私は眠りについた。