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仲良し3人娘の怪談

ピザの魔法陣

作者: ウォーカー

 「両親が結婚記念日で旅行に行っちゃって、

 今日は家にあたし一人しかいないんだ。

 あたしたち3人で、お泊り会しない?」

「私は構わないけれど。

 あなた、本当は一人ぼっちで心細いんでしょう。」

「わたしも大丈夫だよ。

 お泊り会なんて、わくわくするね。」


そう話すその3人は、同じ高校に通う仲良し3人組の女子生徒。

黒くて長い髪の女子生徒は、落ち着いていて大人びた子。

髪を頭の左右に分けて結っているツインテールの女子生徒は、天真爛漫な子。

おかっぱ頭の女子生徒は、大人しくてやさしい子。


そんな事情でその3人は、

ツインテールの女子の家でお泊り会をすることになった。



 その日、学校が終わって放課後。

早速その3人は、

お泊り会の会場であるツインテールの女子の家に集まっていた。

ツインテールの女子の自室に入ると、車座になって座った。

学校のことを話したり、トランプをしたり。

その3人は怪談好きなこともあって、

本棚からオカルト雑誌を引っ張り出して来て、会話に花を咲かせていた。

そうして、そろそろ夕飯という時間帯になって。

ツインテールの女子が、お腹の虫とともに喋り始めた。

「夕飯にピザでも頼まない?

 あたし、ピザ食べたい。」

長い髪の女子が、お腹を擦りながら応える。

「私は、もう少し軽いものが良いのだけれど。

 あなたが食べたいと言うのなら、それでも良いわよ。」

おかっぱ頭の女子は、にこにこと嬉しそうに応える。

「わたしもピザが食べたいと思ってたから、

 ちょうどよかったね。」

そうして、ツインテールの女子の希望通りにピザを頼むことになった。

ピザ屋のメニュー表を眺めながら、その3人が相談している。

「何を頼もうかしら。」

「ねえ。

 どうせなら、3人で1枚ずつ注文してピースを交換しない?」

「わぁ、楽しそう。

 自分で作るミックスピザだね。」

「それなら、お互いの注文は同じにならない方がいいわね。」

そうしてその3人は、夕飯に注文するピザを各々決めた。

注文するピザはというと。


長い髪の女子は、トマトとサラミとバジルのピザ。

ツインテールの女子は、三種の肉盛りピザ。

おかっぱ頭の女子は、彩り野菜のカラフルピザ。

それと、デザートの果物などをいくつか。


という選択になった。

ここはツインテールの女子の家なので、

代表してツインテールの女子が電話で注文することになった。

ピザ屋に電話をかけると、あっという間に繋がった。

「あ、もしもし?

 デリバリーをお願いします。

 トマトとサラミとバジルの鮮やかベーシックピザ。

 ボリューム満点、三種の肉盛りピザ。

 色どり野菜のカラフルピザ。

 それと、トッピング用とろとろチーズ。

 それから、フルーツ盛り合わせ。

 それからそれから、シャンパンと・・・」

電話の声をそれとなく聞いていた長い髪の女子が、

ぎょっとして口を挟んでくる。

「ちょっと!お酒は頼まないで。

 私たち、幾つだと思ってるの。

 シャンパンを頼むのなら、ノンアルコールのものにして頂戴。」

そう叱られて、ツインテールの女子がペロッと舌を出した。

「冗談だよ、冗談。

 えーっと、どれがノンアルコールなのかな。

 じゃあ、フルーティシャンパンを一本。

 それから、チキンナゲット。

 注文は以上で。

 それじゃ、お願いしまーす。」

自分が食べたくなったものを無計画に追加して、

ツインテールの女子は電話を切った。


 注文を終えてから、ピザが届くまでしばしの間。

その3人は、思い思いにくつろいでいた。

すると、ツインテールの女子が、

寝転がっていたベッドから起き上がって言った。

「あ、そうだ、思い出した。

 2人とも、ピザ屋の怪談の噂話って知ってる?」

「ピザ屋の怪談?」

「そう。

 死を呼ぶピザがあるんだって。」

「死を呼ぶ・・・ピザ?」

長い髪の女子が眉をひそめて聞き返す。

その横では、おかっぱ頭の女子が首を傾げている。

2人とも話を知らないようなので、ツインテールの女子が得意げに話を続けた。

「どこの店かはわからないんだけど、

 この近所に、死を呼ぶピザを売ってる店があるんだって。

 そういう怪談を、こないだちょっと耳にしてさ。」

死を呼ぶピザと言われて、おかっぱ頭の女子が慌てて言う。

「わっ、もうピザ頼んじゃったね。

 もしも、さっき注文したピザ屋さんがそのお店だったら、どうしよう。」

「その時はそれ、良い話題になるじゃない。

 どうせ本当に死ぬわけじゃないんだろうからさ。」

ツインテールの女子が、

ベッドの上で胡座を組んでころころと笑っている。

しかし、長い髪の女子は腕を組んで冷静に応えた。

「そうね。

 死を呼ぶピザなんて、実際にあるわけがないわね。

 それより私は、その怪談の由来が気になるわね。」

「由来?

 そんなの、ピザを食べたら死んだってことじゃないの。」

ツインテールの女子が即答して、長い髪の女子がさらに即答する。

「いいえ。

 それでは、すぐに店が無くなってしまうわ。

 それ以外で、死を呼ぶピザが怪談になった理由があるはずよ。」

「それもそうか。

 じゃあ、あたしたち3人の中で、

 誰がその理由を当てられるか、賭けてみようか。

 正解した人が、ピザを1ピースずつ貰えるってことで。」

「ええ、良いわよ。

 どうせ、ピザが届くまで暇ですものね。」

「良いけど、もしも死を呼ぶピザが本当に届いたら、

 賭けに勝っても意味ないけどね~。」

そうしてその3人は、

死を呼ぶピザの怪談の由来と、その理由を考えることにした。


 死を呼ぶピザの怪談は、どうして出来上がったのか。

長い髪の女子を先頭に、その3人は推理を始めた。


「死を呼ぶピザの怪談の由来、

 それがピザの名前などにあった場合。

 まず、この場合を考えてみましょう。」

「ピザの名前が由来?」

「そう。

 例えば語呂合わせ。

 ピザの名前が、死を連想させる名前である場合。」

「シーフードピザで、死のフードとか?」

「わたし、悪魔って名前が付いたピザがあるって聞いたことがあるよ。

 でも、このお店のピザは違うみたいだね。」

「他にも、

 メニューを縦読みしたら、死に関するメッセージが隠されている場合とか。

 このメニュー表を使って、調べてみましょう。」

そうしてその3人は、死を連想させる言葉などは無いか、

ピザ屋のメニュー表の中を探した。

しかし、

メニューをどのように読んでも、

語呂合わせや隠し語句などは見当たらなかった。


 「じゃあ、次を調べてみよう。

 次は、ピザの食べ物自体が由来の場合。

 例えば、食べ合わせが悪いメニューがあるとか。」

「食い合わせが悪いというと、鯖と梅干しだっけ?

 そんなの使ってるピザなんて、見たこと無いけど。」

「それと、蟹と柿とかね~。

 でも、食べたら死ぬほど悪い食べ合わせなんて、そんなのあるかなぁ。

 それよりはまだ、牡蠣に当たるとかの方が怖いね。」

「薬を飲んでいる場合に、食べてはいけない食べ物もあるわね。

 グレープフルーツは薬の効き目を強くするというし、

 ある種の薬とチーズやワインは、合わせると毒になるというわ。」

「チーズやワインはピザ屋のメニューにあるね。

 食い合わせが大丈夫なのか、調べてみよう。」

そうしてその3人は、ピザ屋のメニュー表を調べてみたが、

極端に食い合わせの悪いものはメニュー表には見当たらなかった。

アレルギーの原因になる食べ物についても調べてみたが、

一般に表示が必要とされるものは全て表示されていた。


さらにその3人は、死を呼ぶピザの由来について、

思いつく限りの理由を考えていった。

「死ぬほど辛いピザがあるとか?」

「激辛メニューはあるけど、これはそういう怪談じゃないよ。

 聞いた限りじゃ、実際に命に関わるって話らしい。」

「ピザの配達が遅いことに怒った人が、事件を起こしたとか?

 外国で、実際にあったことらしいよ。」

「そんなことがあったら、店が無くなっちゃうよ。」

「店の名前が、死を想起させるってことはないかしら?」

「見る限りは、店の名前におかしなところは無いみたいだよ。

 普通のチェーンのピザ屋さん。」

「ピザの中に間違って、毒とか食べてはいけないものが入ってたとか?」

「そんなことがあったら店が無くなるって、

 あなた、さっき自分で言ってたじゃないの。」

そうしてその3人が、

ああでもないこうでもないと頭を突き合わせていた、その時。

玄関で呼び鈴が鳴らされた。

どうやらピザの配達員がやってきたようだ。

その3人は、死を呼ぶピザの理由について話しながら、

揃って玄関へと向かった。


 玄関を開けると、そこにはヘルメットを被った若い男が立っていた。

派手な色彩の上着を着ていて、ピザのマークが書かれていた。

この男がピザ屋の配達員で間違いないようだ。

配達員はすかさず、大きな箱と袋を差し出してきた。

「お待たせしました。

 ご注文のピザとサイドメニューです。」

長い髪の女子とおかっぱ頭の女子が、差し出された商品を受け取った。

ツインテールの女子が代表して代金を支払う。

財布を開いて代金を払う間、

ツインテールの女子は、配達員の胸をまじまじと見ていたようだった。

商品と代金の受け渡しが終わると、配達員は小走りに去っていった。

そうして、ピザを受け取って家の中に戻ってから、

ツインテールの女子が、にんまりと笑顔になって口を開いた。

「あたし、死を呼ぶピザの由来が分かっちゃった。」

「え、何?

 死神さんでもいたのかな。」

「まさか、そんなわけがないでしょう。」

おかっぱ頭の女子を、長い髪の女子がたしなめる。

しかし、ツインテールの女子は首を縦に振って応えた。

「それがなんと、いたんだよ。死神が。」

「えっ、本当に?」

自分で言ったことなのに、おかっぱ頭の女子は驚いている。

ツインテールの女子は得意げに、人差し指を立てて振ってみせた。

「2人とも、あの配達員の名札を見た?」

「配達員さんの、名札?」

「いえ、私は見ていないわ。」

「あたしは見たんだよ。

 あの配達員、四見上さんって名前だった。」

「四見上、しみかみ、しにかみ・・・死神!」

「そう。

 死を呼ぶピザの由来は、

 死神もとい、四見上さんが届けるピザだからだったんだよ。」

ツインテールの女子が鼻高々、腰に手を当てて澄ましてみせた。

死を呼ぶピザの由来は、配達員の名前が死神に似ているから。

自信満々にそう言われて、おかっぱ頭の女子は感激して手の平を合わせた。

「なるほどね~。

 配達員さんの名前が死神さんだから、

 それでこのお店のピザは、死を呼ぶピザになったんだね。」

素直なおかっぱ頭の女子とは違って、

長い髪の女子は疑り深い目で考え込んでいた。

「死を呼ぶピザの由来は、本当にそんな理由なのかしら。

 ・・・まあいいわ。

 せっかく届いたピザが冷めないうちに、夕食にしましょう。」

そうしてその3人は、

死を呼ぶピザの理由を解明したつもりになって、

すっきりした気分で食事にありつくことになった。


 「おお~、美味そう。」

「ピザが3枚もあると壮観だね~。」

「熱々で美味しそうね。

 ちょっと脂っこそうだけれど。」

届いた3枚のピザをテーブルの上に並べて、

その3人は三者三様、感嘆の声を上げていた。

事前に決めていた通り、ピザのピースを分けて3人で交換することになった。

ツインテールの女子が、思い出したかのように言う。

「あたし、ピザのピースを多くもらっていいんだよね?

 死を呼ぶピザの謎を解き明かしたんだから。」

「そういえば、そうだったね~。」

「まだ原因が配達員の名前だと確定したわけではないけれど・・・。

 仕方がないわね。

 好きなピースを取っていいわよ。」

長い髪の女子とおかっぱ頭の女子に促されて、

ツインテールの女子はピザのピースを取ろうとして、

ふと思い出してその手を止めた。

ピザに向かっていた手を、サイドメニューが入った袋へ向けた。

袋の中をガサゴソと漁って、何やらポットのようなものを取り出した。

ポットの蓋を開けて見せる。

「忘れてた忘れてた。

 追加トッピングに、とろとろチーズを注文してたんだよね。

 チーズをかけるなら、ピースを分ける前にしないと。

 2人のピザにもかけていい?」

「うん、おねがい。」

「好きにして頂戴。

 チーズなら元からかかってるでしょうに。

 お好み焼きのマヨネーズじゃないのよ。」

「いーだ。

 あんたのピザこそ、

 トマトとサラミとチーズだけなんて、ありきたりすぎなんだよ。

 ちょっとはアレンジした方がいいよ。」

ツインテールの女子はそう言うと、

まさにお好み焼きにマヨネーズをかけるように、

3枚のピザにチーズを細く垂らしていった。

縦に横に、チーズの細い線が図形を描くように伸びていく。

すると、

チーズを垂らされたピザが、

何やらぼうっと輝き始めたように感じられた。

最初にそれに気がついたのは、おかっぱ頭の女子だった。

チーズで図形を描かれたピザを見ながら、首を傾げて言った。

「・・・なんかこのピザ、光ってないかな?」

「言われてみればそうね。

 でも、そういう種類のチーズなのでは無いかしら。」

長い髪の女子の言葉に、ツインテールの女子が横から否定する。

「ううん。

 注文したのは、普通のとろとろチーズだよ。

 でも言われてみれば、ぼやっと光って見えるね。

 おっかしいなぁ、普通のチーズのはずなんだけど。」

そうしている間にも、

ピザが放つ光は徐々に強くなっていき、

まるで暗闇に光る夜光塗料のような明るさになった時。

突然、部屋の中に風が吹き始めた。

どこかの窓が開けっ放しだとか、そういう風ではない。

まるで大型の送風機を持ち込んだように、

部屋の中に猛烈な風が吹き始めた。

「なっ、何!?

 なんで部屋の中に風が!?」

「わ、わ。

 部屋の中の物が吹き飛ばされちゃうよ。」

「おかしいわよ、これ。

 ただごとじゃないわ。

 この風、その光ってるピザの方から吹いてるみたいだわ。」

部屋の中に置いてある小物やクッションが、

風に吹き飛ばされて壁に叩きつけられる。

そんな大騒ぎの中で、長い髪の女子は冷静に、

光るピザの方を指差して言った。

ツインテールの女子とおかっぱ頭の女子が、頷いて返す。

確かにこの風は、光るピザの方から吹き付けていた。

それだけではなく、どこからか、

重々しい獣の唸り声のような声まで聞こえ始めていたのだった。


 ツインテールの女子がピザにチーズを垂らしていると、

やがてピザが発光を始め、風とともに獣の声が部屋の中に響き渡った。

その3人は突然のことに、目を白黒させている。

突風に弄ばれる髪を抑えながら、長い髪の女子が叫んだ。

風音が強くなって、叫ぶような大声でないと聞こえないのだ。

「あなた、一体全体何をしたの!?

 この風と声は何!」

「知らない!わかんない!

 あたしはただ、チーズのトッピングをかけてただけだよ!」

強風に負けないよう、叫ぶようにして会話する2人。

その2人の横、声も出せずにいたおかっぱ頭の女子の前に、

一冊の雑誌が飛ばされてきた。

それは、さっきまでその3人が見ていたオカルト雑誌だった。

裏表紙には、今日ピザを頼んだピザ屋の広告が一面に出されている。

そのオカルト雑誌を拾い上げて、偶然開いていたページを目にして、

おかっぱ頭の女子が声を上げた。

「ねえ!

 ふたりとも、これを見て!」

おかっぱ頭の女子が広げて見せた雑誌のページには、

「悪魔召喚の魔法陣とその描き方。」

と題された記事が掲載されていた。

おかっぱ頭の女子が言わんとすることを理解して、

ツインテールの女子が叫ぶように言った。

「もしかして、ピザが魔法陣になったって、

 あんたはそう言いたいわけ?」

 そんなわけないじゃない!」

「わたしも信じられないよ。

 でも実際に今、目の前でピザが光って、

 おかしなことが起こってるんだよ。」

おかっぱ頭の女子が指差す方、

光っているピザをよく見てみると、

ピザの上に何かが図形となって光っているのが分かる。

強風が吹き荒れる中、もっとよく観察してみて、

その正体がようやくわかった。

ピザの上で光る図形の正体は、チーズだった。

先程、ツインテールの女子が、

お好み焼きのマヨネーズのように垂らしたチーズ、

そのチーズの軌跡が図形となって、ピザの上で青白く輝いていたのだった。

その図形は星型を重ねたような形をしていた。

図形を見て、長い髪の女子が言う。

「私、あの図形を本で見たことがあるわ。

 あれは西洋の魔法陣の一種よ。

 きっと、さっきピザの上に垂らしたチーズのせいで、

 ピザが悪魔召喚の魔法陣になってしまったのよ。」

「そんなことって、ありえる?」

「ありえるかどうか、考えるのは後にしましょう。

 今は対処法を考えなければ。」

長い髪の女子が2人を落ち着かせるように言った。

その声に応えるように、おかっぱ頭の女子が努めて落ち着いて言った。

「うん、そうだね。原因を考えるのは後だよ。

 でも、どうしよう。

 どこからか聞こえてくる声が、どんどん大きくなってるよ。

 このままわたしたち、悪魔に食べられちゃうのかな。」

長い髪の女子が、考えながら応える。

「普通、悪魔召喚の魔法陣を描く時は、

 召喚する術者の身を守るために、

 守護の魔法陣も同時に描くものなのよ。

 その雑誌に、守護の魔法陣の描き方が載ってないかしら。」

「探してみるね。

 えーっと、えーっと。」

雑誌のページが強風で煽られてめくり辛そうなのを見て、

長い髪の女子とツインテールの女子が固まって風除けになった。

おかっぱ頭の女子は頷いて返して、雑誌のページをめくっていく。

長い髪の女子はともかく、

小柄なツインテールの女子の脇を抜けてくる風に悩まされながらも、

何とか目的の情報にたどり着いた。

「・・・あったよ!

 守護の魔法陣の描き方。」

「それじゃあ、残りの2枚のピザの内の1枚を使って、

 守護の魔法陣を作ろう。

 何をするにもまず、身を守れないと話にならないよ。」

「うん。

 わたしが指示を出すから、言う通りに図形を描いていって。」

「じゃあ私は、風除けを続けるわね。」

おかっぱ頭の女子が守護の魔法陣の描き方を指示し、

ツインテールの女子がピザの上にチーズで守護の魔法陣を描き、

長い髪の女子がその風除けになる。

その3人は分担して、ピザの上に守護の魔法陣を描くことにした。

ツインテールの女子が、

這いつくばるようにしてピザに近付いて、

おかっぱ頭の女子の指示の下、

長い髪の女子を風除けにして、チーズで魔法陣を描いていく。

そうして、

見様見真似で守護の魔法陣を描き終わると、

そのピザもまた、青白く輝き始めた。

部屋の中に吹き荒れる風は止まらないが、

守護の魔法陣を描いたピザの近くだけは、風が幾分収まったようだった。

慌ててその3人は、守護の魔法陣のピザの近くに集まった。

「なんとか、守護の魔法陣は成功したみたいだね。

 まさか、本当にピザで魔法陣ができるなんて、思いもしなかったよ。」

「ええ、そうね。

 それにしても、どうしてピザが魔法陣になってしまったのかしら。

 普通、魔法陣といえば、血を使って描くものなのだけれど。」

その疑問について、おかっぱ頭の女子には考えがあるようだ。

ぽつりぽつりと、確認しながら考えを口にしていく。

「もしかしたら、チーズのせいかも。」

「チーズが?」

「どういうことなのかしら。」

「えっとね。

 チーズって、お乳から作られるよね。

 お乳って、血から作られるんだよ。

 材料は血なの。」

「つまり、

 チーズの材料の材料は血だから、

 巡り巡ってチーズが血の代わりになって、

 あたしが適当に垂らしたチーズが魔法陣になって、

 ピザが悪魔召喚の魔法陣になっちゃってこと?」

「多分、そうじゃないかな。」

偶然とはいえ、自分たちが招いてしまったことに、

その3人は頭を抱えたのだった。


 守護の魔法陣を描くことが出来たものの、

部屋の中に吹き荒れる風と、地の底から響く声は、

ますます強くなっているようだった。

何かが近付いてきている。

それを実感して、その3人は深刻な表情になって話し合った。

「ねえ。

 これからどうしよう。

 このままじゃ、あたしたちここから出られないよ。」

「悪魔が召喚されてしまったら、それだけじゃ済まないよね。

 でも、わたしたちに出来ることなんてあるかな。」

「諦めるのはまだ早いわ。

 私たちが注文したピザは3枚、

 悪魔召喚の魔法陣と、守護の魔法陣で、2枚使ってしまったけれど、

 ピザはもう1枚あるのよ。

 その最後の1枚のピザを使って、退魔の魔法陣を作りましょう。」

「退魔の魔法陣?」

「そう。

 悪魔を呼び出すのが、悪魔召喚の魔法陣。

 術者の身を守るのが、守護の魔法陣。

 それからもう1つ、

 呼び出した悪魔を還す、退魔の魔法陣があるのよ。

 それを作りましょう。」

「でも、そんなのわたしたちに出来るかな。」

おかっぱ頭の女子の弱音に、長い髪の女子は毅然として応える。

「出来るわよ。

 なぜなら私たちは、

 ピザの魔法陣を既に2つ、

 作り上げることに成功しているんですもの。」

「・・・うん、そうだね。

 二度あることは三度ある。

 あたしたちになら、きっと出来るよ。」

ツインテールの女子は、強く頷いて返した。

それから、頭をぽりぽりと掻きながら確認する。

「・・・でも、それってつまり、

 あたしが魔法陣を描く役割なわけね。」

「ええ、そうね。

 だって私は、魔法陣を描いた経験なんて無いんですもの。」

「わたしが雑誌を見ながら教えてあげるね。

 でも、その前に、重要な問題があるの。」

おかっぱ頭の女子が、深刻な顔になって言った。


 悪魔召喚の魔法陣で呼び出してしまった悪魔を還すため、

退魔の魔法陣を描くことになった。

しかし、その前に重要な問題があるという。

「問題って、何かしら。」

その疑問に、

おかっぱ頭の女子は、オカルト雑誌を見ながら説明した。

「えっとね。

 退魔の魔法陣は、魔法陣の中に、

 祓いたい悪魔の名前を書かなきゃいけないんだって。」

「悪魔の・・・名前?」

「名前なんて、星の数ほどあるんじゃないの。

 偶然出来上がっちゃった悪魔召喚の魔法陣で、何の悪魔を呼び出したかなんて、

 そんなのわかるわけないよ。」

「えっとね、悪魔個人の名前じゃなくてもいいの。

 何に分類されるか、それだけでいいみたい。」

「悪魔の分類?」

オカルト雑誌を片手に、おかっぱ頭の女子が説明していく。

「この雑誌によると、悪魔はおおよそ七種類みたい。

 傲慢、憤怒、嫉妬、怠惰、強欲、貧食、淫蕩。

 悪魔召喚の魔法陣を描く時、

 この七種類の中で、

 一番強く思い浮かべていた感情の悪魔が呼び出されるみたい。」

「思い出したわ。

 私もその話、本で読んだことがある。」

「あたしは初耳だよ。」

「あの雑誌、あなたのものよね?」

「そんなに重要なことだとは、思ってなかったんだよ。

 それに、ピザにチーズを垂らす時に何を考えてたかなんて、

 あたし覚えてないよ。」

「あなた、自分の感情くらいわかるでしょう?

 ピザにチーズを垂らしたのは、ついさっきなのよ。

 その時、何を考えていたの。」

「わかんないよ、そんなの。

 あたし、ピザにチーズを垂らしてただけなんだよ。

 こんなことになるなんて、夢にも思わなかったんだから。

 お腹が空いてたから、きっと食欲だよ。」

ツインテールの女子が半ばやけっぱちに言った。

おかっぱ頭の女子が、オカルト雑誌を指差しながら応える。

「食欲なら貧食の悪魔かな。

 ううん、強欲の悪魔かも。」

「もう少し情報が欲しいわね。

 他に何か当てはまるものは無いかしら。

 例えば、傲慢の悪魔とか。

 あなた、いつも傲慢なんですもの。」

長い髪の女子の嫌味に、ツインテールの女子は口を尖らせて応える。

「傲慢で悪かったね。

 でも、ピザにチーズをかけるのに、傲慢も何もないよ。

 それより、憤怒はどうだろう。

 ピザが来るのが遅くて、あたし腹が立ってたかも。」

「ピザはちゃんと時間通りに到着したわよ。

 あなた、ピザを見てにこにこしてたじゃないの。

 憤怒は違うわね。」

「嫉妬はどうかな。

 自分が注文したピザよりも、

 わたしたちのピザの方が美味しそうだったとか。」

「3人でピザのピースを交換するって話だったし、嫉妬するわけないよ。」

「怠惰はどうかしら。

 夕食を自分で作らずに店屋物を頼むだなんて、

 ある意味では怠惰かもしれないわ。」

「あたし、普段から自炊なんてしたことないよ。

 自慢じゃないけど、ママの夕飯の準備だって手伝ったこと無いし。

 ピザのデリバリー程度で怠惰だなんて思わないよ。」

「それは本当に自慢にならないわね・・・。」

「じゃあ強欲はどうかな。

 さっきも話したけど、食欲に近いんじゃないかな。」

「確かに、食欲は強欲に含まれそうね。

 でも、貧食っていうのもあるのよね?

 食欲は、強欲よりは貧食なのではないかしら。」

「確かに。

 お腹が空いてたから、貪食かも。」

「貪食って、お腹を空かせているって意味じゃないよ。

 意地汚く食べるって意味。」

「じゃあ違うか。

 ピザにチーズを垂らしていた時は、まだピザを食べていなかったわけだし。」

「チーズをなみなみと垂らすあなたの顔は、意地汚かったけれどね。」

長い髪の女子とツインテールの女子が、白い目を交わした。

それを見て、おかっぱ頭の女子が慌てて話を逸らす。

「ど、どっちも候補ではあるよね。

 そんなことより、まだ一つ残ってるよ。」

「放蕩だったっけ。」

「あなたのような放蕩娘には、ぴったりの想念じゃないかしら。

 ちなみに、放蕩じゃなくて淫蕩よ。」

長い髪の女子がぴしゃりと言う。

淫蕩という言葉に、

ツインテールの女子とおかっぱ頭の女子が顔を赤くする。

「淫蕩って色欲だよね。

 つまり、いやらしいこと・・・。」

「あ、あたし、そんなにいやらしくないし!」

焦る2人に、長い髪の女子が冷静に言う。

「それだけじゃないわよ。

 淫蕩には、お酒に耽るって意味もあるの。

 それで私、ちょっと気になっていたのだけれど・・・」

長い髪の女子はそう言うと、

床に転がっていた瓶を拾って見せた。

「あなたが注文したこれ、お酒よね。」

長い髪の女子が拾い上げたのは、飲み物が入った瓶。

ツインテールの女子が注文した、フルーティシャンパンだった。

アルコールが入ってるものは駄目と言われて、

ツインテールの女子が注文し直したものだった。

それが酒だと指摘されて、ツインテールの女子は焦って言い訳した。

「そ、そんなことないよ。

 ラベルに果物が描いてあるし、フルーツジュースだよ。」

おかっぱ頭の女子が、瓶に顔を近付けてラベルを確認した。

「・・・あっ、これお酒だよ。

 アルコールが入ってるって、書いてあるもの。」

証拠を突きつけられて、

ツインテールの女子が仕方がなく白状した。

「ちぇっ、バレたか。

 フルーティシャンパンなら、ジュースとして誤魔化せると思ったのに。

 そうだよ、それもお酒だよ。」

長い髪の女子が、ガミガミと言う。

「分かるに決まってるでしょう。

 あなた、そんなにシャンパンが飲みたかったの。」

「外国じゃ、シャンパンは子供でも飲んで良かったんだよ。

 今日はパパもママもいないし、丁度いいと思って。」

「まったくもう、油断も隙もないんだから。」

そうやって長い髪の女子が腰に手を当てて叱る姿は、母親と娘のようだった。

そんな2人のやり取りを微笑ましく眺めていると、

おかっぱ頭の女子の前に、紙くずが転がってきた。

それを拾い上げてみて、驚いて声を上げた。

「・・・あっ、わかった!」

「どうしたのかしら。」

突然上がった声に、長い髪の女子とツインテールの女子が顔を向けた。

おかっぱ頭の女子は、手にしていた紙くずを見せた。

「分かったよ、ピザの注文をしてるときの感情が。

 ここに書いてあったんだよ。」

そう言っておかっぱ頭の女子が見せたのは、ピザの注文書だった。


 ピザで偶然出来てしまった悪魔召喚の魔法陣。

召喚された悪魔を退魔の魔法陣で退けるためには、

その悪魔が何の悪魔なのかを知らなければならない。

呼び出された悪魔は、悪魔召喚の魔法陣を描く時に、

一番強く思い起こされていた感情によって決まるという。

ツインテールの女子がピザにチーズを垂らしていた時、どんな感情だったのか。

その手がかりは、ピザの注文書にあった。

おかっぱ頭の女子が、それに気がついたようだ。

2人に向かって、ピザの注文書を広げてみせた。

「見て、この注文書。」

ピザの注文書には、こう書かれていた。


トマトとサラミとバジルの鮮やかベーシックピザ 1枚

ボリューム満点、三種の肉盛りピザ 1枚

彩り野菜のカラフルピザ 1枚

トッピング用とろとろチーズ 1つ

フルーツ盛り合わせ 1つ

フルーティシャンパン 1本

チキンナゲット 1つ


注文書を確認して、長い髪の女子が尋ねる。

「これのどこが重要なのかしら。」

その横では、ツインテールの女子も首を左右に傾げている。

2人に伝わっていないのを実感して、急に自信が無くなっていく。

それでもおかっぱ頭の女子は、控えめに考えを説明した。

「えっとね、全部が合ってるかは自信ないんだけど・・・」

「間違っててもいいよ。

 あたしらは、全然何も思い浮かばないんだから。」

「うん、ありがとう。

 まず、トマトとサラミとバジルの鮮やかベーシックピザなんだけど、

 これって色彩鮮やかだと思わない?」

テーブルの上に置かれたピザを確認してみる。

部屋に吹き荒れる強風にも関わらず、

テーブルの上の3枚のピザは微動だにしていない。

そこからも、ピザが魔法陣になったことは読み取れた。

その3枚のピザの内の1枚を、さらによく見てみる。

トマトとサラミとバジルが乗せられ、チーズが垂らされたピザは、

赤黄緑で色鮮やかだった。

「確かに、色合いがきれいなピザね。

 それがどう大事なのかしら。」

「色っていうのが大事なの。

 それから次なんだけど、三種の肉盛りピザ。

 すごくお肉が多いよね。」

「あっ、肉欲か!」

意図が通じたようで、ツインテールの女子が声を上げた。

おかっぱ頭の女子は、意図が通じたことに少し安心して、

さらに話を続ける。

「そう。

 そして次に、彩り野菜のカラフルピザ。

 これはもう文字のまま、色鮮やか。

 次のとろとろチーズはお乳、魔法陣を描く血の代わりでもある。

 次のフルーツ盛り合わせも、色鮮やか。

 フルーティシャンパンは、さっきお酒だって分かったよね。

 最後のチキンナゲットもお肉。

 つまり、注文したメニューは、

 肉とお酒と色を思い起こさせるものばっかりだったんだよ。」

「肉、酒、色。

 酒池肉林、肉欲、つまりは淫蕩だ!」

ツインテールの女子がぽんと手を打った。

「あなた、ピザを見ながらそんなことを考えていたの。」

長い髪の女子が白い目をしている。

咎めるようなその顔に、ツインテールの女子は慌てて言う。

「べ、別に、いつもそんなことを考えてるわけじゃないよ。

 ただ、注文を全部見てたのは、電話で注文したあたしだけだったし、

 肉とか酒とかの文字を見て、何となくもやもやとはしてたんだよね。

 そうか、あの時に感じてた感情は淫蕩だったんだ。

 うん、淫蕩で間違いないと思う。」

その応えを聞いて、おかっぱ頭の女子が雑誌をパラパラとめくって言った。

「この雑誌によれば、淫蕩の悪魔はAsmodeusアスモデウスみたい。」

悪魔召喚の魔法陣で召喚された悪魔の名前が分かった。

これでようやく、退魔の魔法陣を描く準備が整った。

しかし、残された時間は多くは無いようだ。

長い髪の女子が部屋の中を見渡しながら急かす。

「わかったわ。

 すぐに退魔の魔法陣を作りましょう。

 さっきから呻き声が近くなっているし、もう時間が無いわ。」

「うん。

 じゃああたしが魔法陣を描くから、

 魔法陣の模様とか、悪魔の名前の綴りを指示して。」

そうしてその3人は、

淫蕩の悪魔アスモデウスの退魔の魔法陣をピザで作ることになった。


 ツインテールの女子が、チーズが入ったポットを手に、

並んだ3枚のピザを覗き込んだ。

3枚のピザの内2枚は既に、

悪魔召喚の魔法陣と守護の魔法陣として、青白い光を放っていた。

残った1枚のピザに、

他の2枚と同じ様にチーズを垂らして模様を描いていく。

チーズの残りは少なかったが、今度は魔法陣の資料があるので、

残り少ないチーズでも上手く描くことができた。

そうして描き上げた退魔の魔法陣の中に、

Asmodeusという悪魔の名前を書き込んでいく。

そして。

「退け、アスモデウス!」

退魔の魔法陣で還す悪魔の名前を大声で叫んだ。

すると、

描き上げたばかりの魔法陣が、青白く輝き始めた。

その青白い光は、始めはぼんやりとしていたのが、

だんだんと強くなっていった。

それに応じて、

部屋の中に吹き荒れていた風の向きが逆になって、

守護の魔法陣が吸い込む方向の風向きになった。

部屋の中に吹き荒れていた風が、退魔の魔法陣の中に吸い込まれていく。

そうして、地の底から響いてくるような呻き声は、

風が巻き込んでいた物ごと、退魔の魔法陣の中に吸い込まれていった。

守護の魔法陣で守られていなければ、きっとその3人も吸い込まれていただろう。

しかし、守護の魔法陣のおかげで、なんとか難を免れることが出来たようだった。

その3人は風が収まるまで、

お互いに体を抱き合うようにしてしがみついていた。

そうして、全てが退魔の魔法陣に吸い込まれていった後。

3つのピザは輝きを失い、元のピザに戻ったのだった。


 退魔の魔法陣で悪魔を退けることに成功して、

その3人はペタリと床に尻もちを突いた。

それから、誰からともなく話し始めた。

「終わった・・・のよね。」

「この雑誌に書いてある通りなら、終わったと思う。」

「風も止んだし、もうどのピザも光ってない。

 きっと終わったんだよ。」

「よかった、みんな無事で。」

床に座って放心するその3人。

ツインテールの女子が、そのまま床に仰向けに倒れ込んで言った。

「もしかして、

 このピザの魔法陣を使えば、

 悪魔を自由に召喚することが出来るんじゃないかな。

 それが出来たら、すごいことになるかも。」

しかし、おかっぱ頭の女子が首を横に振る。

「ううん、多分無理だと思う。

 正式な魔法陣って、もっと複雑な工程が必要なんだよ。

 ピザもそれと同じで、

 一見同じピザに見えても、

 その材料の配分とか、焼き具合とか、一つ一つ微妙に違うの。

 だから、今回と全く同じピザを作るなんて、狙って出来るとは思えないよ。」

長い髪の女子もその話を聞いて頷いている。

「そうね。

 死を呼ぶピザの怪談が、今回のことを指していたのなら、

 きっと今までにも、ピザの魔法陣を描いた人がいたんでしょう。

 でも、その人たちが、それを使って何かをしたって話は聞かない。

 それはつまり、再現が難しいということを意味すると思うわ。」

納得出来る応えに、ツインテールの女子はうなだれてしまった。

「そっかぁ。

 それもそうだよね。

 じゃあ、今回のことはこれっきり、

 夢でも見ていたと思ったほうがいいね。」

長い髪の女子が、意地悪そうな笑みを浮かべて言う。

「あら。

 実際、夢だったのかも知れないわよ。

 悪魔が実在するだなんて、とても信じられないことだもの。」

おかっぱ頭の女子も、苦笑いをして続く。

「そうだよね。

 声が聞こえただけで、悪魔の姿を実際に確認したわけじゃないものね。

 風はどこからか隙間風が吹いたのかもしれないし、

 声はどこかの犬の遠吠えだったのかもしれないよ。」

「あーもう!全部忘れちゃおう。

 お泊り会の再開だ!」

ツインテールの女子が、やけっぱちに叫んで起き上がった。

それからその3人は、

散らかった部屋の中を片付けると、

無事に残っていたピザとシャンパンで夕飯を再開した。

「では、3人無事の生還を祝って・・」

「乾杯!」

「かんぱーい!」

その3人は各々、

ピザやシャンパンに口をつけて、

それから渋い表情になって顔を見合わせた。

「・・・これは、駄目ね。」

「うえっ!」

「なにこれ。」

一見、無事に見えていたピザとシャンパンは、

実は変わり果てたものになっていた。

ピザは、チーズや肉などの具の味は消え去り、

萎びた小麦生地に、劣化したオリーブオイルをかけただけのもの。

シャンパンはというと、

アルコールや果物の味が抜けきって、味気のないただの渋い水になっていた。

それはまるで、

悪魔が食い散らかした供物の残り物の様だった。



終わり。


 ピザが食べたくてチラシを見ていて、

ピザって丸いし魔法陣の代わりにならないかなと思って、

この話を書きました。

書いていて、ますますピザが食べたくなってしまいました。


お読み頂きありがとうございました。


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