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『2』

 何とか落ち着きを取り戻した僕は、ルトナさん達に


「そんな顔をしていたら、他のいらない羽虫を呼び寄せちゃうかもしれないでしょ?」


 と言われながら、いじめの隠蔽工作として、三人がかりで顔をハンカチやティッシュで拭われてから、当初の予定通り急いで購買へダッシュしに行くことになった。


 確かにルトナさんの言う通り、途中ではわわ系の教育実習生である梅ちゃん先生やクールビューティなクラス委員長の須藤すどう昆布こんぶさんに話しかけられたりしたけど、今はそれどころじゃない。


 赤く腫れあがった目から、僕が泣いている事がバレたのかもしれないけど、今は一秒でも早くパシリを済ませるため、僕は勢いよく駆け抜けていく――!!





 無事にルトナさん達と自分の分のパンと飲み物を、千円内で購入し終えた僕は、再び三人が待つ家庭科室へと向かう。


 過去に僕の分を除外したり、三人よりも1ランク低いもので自分の分を済ませようとすると、物凄い剣幕で逆に三人から責められ、ルトナさんからは


「そんなくだらない事をするなら、何が悪かったのか分かるまで、これからずっと昼休みになるたびにアンタに一万円を渡すわよ?」


 と脅されたことがある。


 それ以降、僕はルトナさん達の逆鱗に触れないように、みんなと同じように自分の分も買うようにしているのだ。


「ハァ~……一年の頃から目をつけられて以来、ずっとパシリをしているけど、いっこうにあの三人との距離が縮まっている気がしない……」


 僕はずっとルトナさん達のイジメのターゲットになっているから、女子はおろか、そんな情けない奴とは友達になんかなりたくないと言わんばかりに、男子の誰とも親しくなることはなかった。


 一時期、意を決してオタクグループやぼっちと交流を持とうとしたが、僕がルトナさん達と一緒にいる姿を見るや否や、『面倒ごとに自分を巻き込むな』と言わんばかりに、凄い形相で睨みつけ、歯ぎしりをしながら、僕の前から去っていった。


「マトモに彼女どころか、友達すら全く出来ないし……卒業までずぅーっと、このままの生活が続くのかな~……」


 そんな事を考えながら、僕は再び家庭科室の戸を開く――。





 到着して早々、僕は買ってきた商品を渡す間もなく、またもいきなり頭を抱きすくめられていた。


「フフッ、他の群がる羽虫どもに『私達の為に、平民パシリが奔走している』と見せつけてやるのは実に良い気分ね!……アナタにも、約束通りこうして労ってあげる」


「わっぷ!……もう!僕をこれ以上からかわないでよ!!」


 そう言いながら、何とか顔を上げた僕は、そのままルトナさんから身体を引き離して、みんなに買ってきた昼食を配っていく。


「おっ、ルトナの支配から自力で抜け出すとかやるじゃん!これでようやく大人に近づいたわけだし、あとはアタシを相手に本格的に卒業するだけだな!」


「なっちゃんが何を言ってるのか良く分からないけど、アタシ達からのパシリ活動を通じて、眠れる狩猟本能って奴を解き放てるようになった感じ?……ハァ~、もしも今度から二人っきりになったりなんかしたら、野獣になったパシリ君に襲われちゃうかもしれないんだ。……コワーい!」


 さっきの二の舞になりたくなかったので、何とか二度目のルトナさんの抱擁を拒んだら、今度はコレである。


 怒鳴られるよりかはマシだけど、何が嬉しいのか、先程とは打って変わってニヨニヨとからかってくるあたり、本当にこの二人はタチが悪い。


 対するルトナさんは、これまでの意地悪な態度から一転して、自分の抱擁を拒んだ僕を罰するでもなく、僕達のやり取りを“慈愛”ともいえる眼差しで無言で見つめながら微笑んでいた。


 そんなルトナさんの姿を横目にしながら、僕は彼女の言葉を思い出していた――。





 ルトナさんは他の二人と違って、放課後や休日は全く僕と接触を持とうとしてこない。


 僕としては流石に三人を相手に四六時中振り回されるのは、流石に心身ともにキツいので助かる……と思う反面、何か言いようのないモヤモヤが心の奥底から湧き上がっていたのも、また事実。


 自分の感情が分からないなりに、それでもルトナさんからプライベートで僕に会おうとしない理由を聞けたら何か分かるかもしれないと思い、意を決した僕はある日、ルトナさんにその事を質問してみた。


 そんな僕の疑問に対して、ルトナさんは寂しそうに微笑しながら、僕へと答える。


「――学校では、私がアナタの事を独占しがちだから、それ以外の時間くらいはあの二人に好きなようにさせてあげたいのよ」


 ……僕の都合や感情をガン無視した意見ではある。


 ただ、確かにルトナさんの言う通り、彼女が裕福な家柄だからか、夏姫さんと華鈴さんは友達ではあるものの、学校ではルトナさんに色々と遠慮しているのかもしれなかった。



 ――二人っきりになると、発情期といわんばかりに甘えてくる夏姫さん。


 ――同じく、僕と一緒にいるときだけは、気軽にオタク的やり取りをバンバンしてくる華鈴さん。


 ――そんな二人の裏の顔を知ってか知らずか、自身も彼女達を相手に遠慮しているらしいルトナさん。



 現にルトナさんは、学校内では自分が三人の中で一番好き勝手していると言いながら、今回みたいに自分がイジメたいのを我慢して、他の二人に僕を好きなようにさせることが度々あった。


 夏姫さんや華鈴さんだって、色々拗らせた形だとは思うけど、グループの仲間の事は大事に想っているみたいなのに……。


 互いが互いにもう少し本音を話して歩み寄ることが出来たら、僕みたいな奴を間に挟んでイジメたりする必要もなく、彼女達は本当の友達になることが出来るかもしれない――。





 ……と、そんな風に考えていた時期が、僕にもありました。

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― 新着の感想 ―
[一言] なんといいますか、哀しい男女平等なのですね。 "いじめ"という暴力行為の前に性差は関係なく、弱者であればその資格を満たしてしまうのですね。とても悲しいことです。 いまはただ、水津盛君の行く末…
2020/08/13 21:31 退会済み
管理
[良い点] 自立を妨げるという弊害はあるかもしれませんが、これは果たして虐めなんでしょうか? いや、相手にその気がなくても、本人が苦痛を感じれば、立派な虐めらしいですから、こいつは許せんですな! 同…
[一言] 実家だと声低そうwwwww ???「ボクシングには蹴り技がない…………そんなふうに考えていた時期が俺にもありました」
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