ロールプレイングゲーム
主人公の名前は各自好きな名前に脳内変換してください(クズ)
召喚されて最初に目にしたのは、一面の煙と数人の人影。成功を喜ぶ声があることから、この召喚の成功率の低さが窺える。転移自体については移動前に安全性を確認していたので、普段の失敗の原因はまた別のところ、召喚のターゲットと接続するところかどこかにあるのだろう。
視界が晴れていき、影の一人が近寄ってくる。
「勇者様!」
声をかけてきたのはなかなかに整った娘だ。身なりが他の者たちと違う。印象を少しでも良くしようと召喚役とは別に案内役を用意しているのだろう。こちらがいきなり喚ばれて良い気分はしていないことくらいは分かっているようだ。
「どうか我が国をお救いください
まずは王と謁見をお願いします、どうぞこちらへ」
まずは情報集めからだ。こいつらが召喚に手を出している理由は、まず聞いておかねばならない。
言われるがままついていくが、その間にも見える範囲だけでも確認しておく。
この場で見て取れる範囲は、まず魔道のレベル。先ほどの召喚時の反応、召喚成功率の低さ、装備の純度、常時発動魔法の種類などから考えて、そのレベルは初級から中級程度がいいところ。不意を突けばこの場からの脱出は問題ないだろう。
魔道士達の服は統一されたデザインではあるが細部の縫い目の位置か質違いか、全く同じといった印象ではない。自動化や大量生産がされていない可能性が高い。
少し歩いてここが城と呼べる程度の建物であることもわかる。
道中の階段から見えた街並みも、二階建て以上の建物はほとんど見当たらず、城下町だと言うのに店は露天が中心のようだった。
間も無くして今までの扉とは明らかにサイズも質も違う扉の前に立つ。少し待たされた後にその扉の内側から声をかけられ、扉が開く。
中はまるで創作に出てくる玉座の間。
勿体ぶった沈黙の後、玉座に座る太った男が言う。
「余がこの国の王、エラーイである。その者、名を聞こう」
誘拐犯ごときが随分と偉そうな態度だが、俺は自ら来たわけなので許してやることにする。
もっとも、それはこいつらが知ることではないが、ここで話をこじらせても面白いことにはならないだろう。
「俺は魔道研究家、イキリ太郎だ!」
一拍置いて王が応える
「イキリ太郎よ、お主を喚んだのは他でもない。現在我が国は隣国との戦争の真っ只中でな、状況は少々劣勢といえる。」
ハッタリが大事な一国の主がハッキリと劣勢と言うほど、言い訳の効かないくらいに敗北が濃厚なのだろう。ランダムガチャで一発逆転を狙うしかない状況というわけだ。
残念ながら上位の文明水準を持った世界は召喚避けの魔術が施されているため、相手が赤子であろうと拉致することはできない。当たりの入っていないガチャを永遠と引いていてくれ。
「そこでお主達の持つ異界の力で戦況を変えてほしいのだ」
まさか兵士として喚んでいるのか?捕虜か何かのつもりなのだろうか。
訓練された魔道士数人がかりでたった一人の素人を召喚し、そいつが使えるかどうかも分からない、非効率的にもほどがある。この国が窮地になるのもわかるというものだ。そのリソースで魔道砲の一つでも撃った方がまだ役に立つのではないだろうか。
「太郎、お主の力を見せてくれ。得意な武器はなんだ、剣か?槍か?」
周囲の兵士達が剣を構え直す。
役に立たなければ処分する、隠さずに力を示せとでも言いたげだ。
俺は──
「戦闘能力は、ない!」
周囲360°から鋭い視線が突き刺さる。
「だが、経済でこの国を救ってやろう」
そんな悠長なとでも言いたそうな顔が並ぶ。実際余裕はないのだろう、だがこちらも実際に戦えないので仕方がない。同じようなレベルの世界から喚んでいるはずなので、今までの者達も大した戦果を出していないだろうと俺は読んでいる。ならば必ずしも即英雄級の働きを期待されているわけでもないだろう。
兵器や戦術を授けてしまうと、いざ敵対したときに自分の首を締めることになる。
「俺にはこの世界より数段先の文明を知り、更に高度な魔道の知識がある。世界を変える発明をするのも容易いことだ。この後実際にこの国を見て回り、次のレベルに到るために必要な提案をしよう」
そのようなパターンは今までになかったのか、少し悩むような沈黙の後、王が口を開く
「良いだろう、一通り調査を終えたら方針を説明してもらうことにしよう。何か必要な物はあるか」
「軍資金と案内役を一人、用意してもらおう」
「詳しい者を手配しよう。金もその者に渡しておく。ゆけ、太郎よ」
その言葉を聞き終える間も無く翻し、扉の方へ歩き出す。
王からの使命で旅立つ感じ、悪くない。さながら一昔前のロールプレイングゲームのようだ。
次回予告
進んだ世界の技術を駆使し、着々と世界征服の準備を進める太郎の元に助手の魔の手が!
誰かこんな感じで続き書いてください