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涙は止まらないけど、耳鳴りと目まいは少しだけ止んだ気がした。
「待て。どこに行くつもりだ。」
体育館の玄関をでる間際、生まれてからずっと聞いてきた平坦な声が私を咎める。
「凛ちゃんこそどこ行くつもり?もう試合始まるんじゃないの?」
私を守るように真護が返答する。
「すぐに始まる。…ちゃんとスコアを取っておくように言われたはずだ。」
「ああ、スコアなら他の部員がとってくれるって。もう帰っていい?ましろ昨日から具合悪いから。」
「…まるで真由への当てつけだな。」
吐き捨てるように言われて肩が揺れる。
「あのさぁ凛ちゃん。勘違いしてるかもしれないから言っておくけど、あんたにましろを傷つける権利はない。真由が好きなら勝手に当人同士でやってろよ。真由に肩入れしたいなら本人を甘やかすだけにしてくんない?勝手に真由の騎士様気取りでいられても迷惑だから。あと、試合勝てるといいね。」
どうせ負けるだろうけど。
嘲笑うかのように言い放った弟は、これ以上話すことは無いというように背をむけた。
「ましろ、なにか言いたいことある?もう会うことないだろうからバレーやりすぎで頭まで筋肉になった馬鹿にさよならぐらい言ってあげれば。」
言っている意味は分からなかったし、家が隣だから会わないはずはないけど真護がそういうのだから言ってみようか。
「凛…いままで居たくもないのに一緒にいてくれてありがとう。でも、できれば一生、金輪際、二度と会いたくない。」
涙を止めることもしないまま睨み付けて言ってやれば、普段は動かない凛の表情が唖然としたものに変わってひどく滑稽だった。