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オープンエンドの結末は  作者: 氷田まりか
5/13

そのまま寝てしまった私を起こしたのは、いつだって最悪な朝の象徴である太陽の光。

今日も変わらず快晴だ。

試合前にミーティングがあるからいつも通りに学校へ行く。

「今日俺も見に行くから。」

真護が玄関まで見送りに来てくれてそう言う。

どこか心配そうな弟の表情が気にかかったけど何も聞かずに頷いた。

「うん、凛に言っておくね。」

そうして家を出た私を、真護はどんな思いで見つめていたのだろう。

体育館に入ればまだ数人しか部員はいなかった。

それでもレギュラーは全員揃っていて思い思いにアップを開始している。

それを少しだけ眺めた後試合の準備をしていれば程なくして顧問と監督とコーチがやってきた。

集合して簡単なミーティング。

その後はすぐにマイクロバスに乗って会場まで移動。

たくさんの人に囲まれながら悠々と歩く部員たちの最後尾を顧問と歩く。

今日は高校のスカウトやテレビ局がたくさん来ているから人が多い。

荷物を所定の場所に置いたところで顧問が忘れ物に気付いたらしい。

「ミケ、悪いけどとってきてもらえる?」

これから打ち合わせがある顧問が申し訳なさそうに頭を下げるから、快諾してマイクロバスへと引き返した。

マイクロバスの一番後ろ。

部員の多くが愛用しているエアサロンパスが入った袋を引っ掴んで会場へと引き返した。

急がないと試合が始まってしまう。

すぐに始められる準備はしてきたけど余裕は持ちたい。

そんな考えとは裏腹に会場の入り口をくぐった瞬間他校の人に絡まれてしまった。

「ねぇねぇ!!慶京付属のマネでしょ?その眼自前なの?」

「おー!!まじで金色だ!!」

「まだ試合まで時間あるでしょ?俺らとオハナシしようよ。」

一人だと何とかなった気がするけど、囲まれてしまっては走って逃げることもできない。

なによりこうも高身長の人々に囲まれると威圧感から恐怖が湧き上がってくる。

「あの…試合始まるので…」

震えないように声を絞り出せば「少しだから大丈夫だって!!」と求めてる答えではない返答を寄こされた。

助けを求めようにもうちの部員は近くにいないし、他校の部員はちらちら好奇の目で見るだけだ。

…困った。

「おーい。お前らなにしてんだよ。その子困ってんじゃん。」

そんな私の焦りを察したかのように第三者の声が割り込んできた。

「部長!!」

「だって昨日の対戦相手のマネですよ?話聞きたいじゃないですか。」

「ついでに連絡先も聞きたいです!!」

彼らと同じジャージを着た一際身長が高い人は、どうやら部長らしい。

そして彼らの学校は準決勝の相手だったらしい。

「こらこら。ちゃんとスポーツマンシップに乗っとれよー。マネちゃんごめんね。」

彼らをかき分けて逃げ口を作ってくれた彼にぺこりと頭を下げ、急ごうと足に力湧込め数歩走り出したところで視線に気付いた。

「…凛。」

「お前は何をしているんだ。」

呆れたような溜息を吐きながら凛は私の腕を強く掴んで歩き出す。

元々歩幅が合わないのに無理に腕を掴まれているせいで引きずられているようになってしまう。

「凛っ…待ってっ」

千切れそうな腕を離してほしくて小さく声を上げれば、立ち止まった凛から蔑むような視線を受けた。

「お前は…真由のスペアだろう。なのになぜ身勝手な行動ばかりするんだ。」

―――耳が壊れたのかと思った。

聞き間違いであってほしかった。

戸惑う私に言い聞かせるように彼は言葉を続ける。

「危ない目に合えば真由が困るとわかってるはずだ。その体に傷が付いたらどうする。」

でも、今耳に届いている言葉は間違いなく15年間一緒に育った幼馴染が紡いでいる。

「それとも自分からあいつらに話しかけたのか。悪いが男漁りはやめてくれ。いずれ真由のものになる体を触らせるな。」

なんのために15年間お前といたと思っているんだ。

吐き捨てるように言った凛は止まった私を心底不思議そうに見た。

「どうした?」

諦めはいつだって一瞬で飲み込める。

「うん。…ごめん。」

例えれば、思想の違い。

宗教の異なる人を改宗させることは不可能だ。

そんな感情。

何を言っても無駄なんだ。

真由という絶対神を信じる凛にとって、供物である私の意見なんて無いにも等しいのだろう。

それでも今まで口に出されたことはなかったから、その状況に甘んじていただけで。

覚悟はしていたはずだ。

だって彼の目はいつだって私を否定するような感情を孕んでいた。

だけど、だけど。

小さい頃のあの『救い』も真由の為だっていうのは知りたくなかったな。

立ち止まったままの私を不可解そうに見る凛は、悪いことだなんて思っていない。

まるで無造作に蟻を踏みつぶす幼児ほどの無邪気で、悪意など感じてなどいない真っ当な本心だ。

だからこそひどく残酷だ。

やっぱり悲しくはない。

涙も出る気配はない。

でも、この前より強く胸の中が割れる音がした。

掴まれた腕をさりげなく外して今度は私が先に歩き出す。

とりあえず試合が終わったらこの感情をかみ砕くことにしよう。

これは私と真由と凛の問題でほかの部員に余波は広げられない。

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