色の白いは七難隠す
妹を一言で言うと……儚げだ。
白い肌、針の様に細い手足……長い黒髪に大きな瞳は日本人形を思わされる。
色の白いは七難隠す、それくらい妹の肌の白さは際立つ……。
それには理由があった。
幼稚園に入る前迄、僕は妹がいる事を知らなかった
妹は生まれて直ぐに重い病気が見つかったそうだ。
長く生きられないと……そう言われたらしい。
しかし両親の献身的な看病もあってか、なんとか手術出来る年まで生き延びた妹は大手術を乗り越え無事生還した。
僕は今でも覚えている……沢山の管に繋がれた妹の姿を。
それまでは僕に妹がいる事もよくわかって無かった。両親はいつ天に召されるかわからない妹に僕の分まで愛情を注ぎ込んでいた。
あまり構って貰えなかった僕はそんな妹を見た時……こいつのせいだ……と気がつく……、そして管に繋がれた妹に対して僕は言った……言ってしまった。
「お前なんて死んじゃえば良かったのに」
そう言ってしまった。
そんな僕を見て、母は言った。
「今までごめんね春、でもね……これからはお兄ちゃんが秋を、妹を守ってあげなきゃいけないの……」
「僕が?」
「そうよ、あなたがお兄ちゃんなんだから、この子のお兄ちゃんなんだから……だからお願い……ね」
悲しそうな顔をしながらベットの上で管に繋がれている妹を見つめる母さん……秋の治療にかなりのお金がかかりこれからは母さんも働きに行かなければならないと……今後は僕が秋の面倒を見なければいけないと……。
「わかった……」
秋は僕が守る……この時僕はそう決心した。
それから僕は妹に付きっきりだった。1日付きっきりで世話をした。
ずっと病院暮らしで何も出来ない妹の世話を一生懸命した。
今考えるとこれが裏目に出た。妹は僕にベッタリになり、僕がいないと何も出来ないポンコツになってしまった。
◈◈◈◈
「秋そろそろお風呂入らないと」
「はーーい」
高校生になった秋、ポンコツだった秋は僕との結婚を目標に頑張り、今ではほとんど何でも出来る様になった。
しかし秋が退院した当初は大変だった。
服の着方、ご飯食べ方、何一つまともに出来ない……毎日お風呂で髪と身体を洗い、ご飯食べさせ、着替えをさせ一緒に寝る迄……僕は秋に付きっきりで世話をした。片時も離れる事なく四六時中一緒にいた。
今は何でも出来る秋だがその頃の名残が一つだけある。秋はいまだに自分で髪が洗えない……なぜだかそれだけは出来ない、やろうとしない……。
「お兄ちゃん洗ってえ~~」
いつもの様に身体を洗った後風呂に浸かる僕にそういう秋。
僕は風呂から出ると鏡の前に座る秋に言った。
「そろそろ自分で出来ないか? さすがにそろそろ別々で入らないと……」
「できなーーい」
「全く……」
そう言って僕は今日も秋の髪を洗う、丁寧にシャンプーをつけ、頭皮をマッサージするように洗う。
長い髪の毛先迄丁寧に洗うとかなりの時間がかかる。秋は幸せそうな顔で気持ち良さそうにじっと目を瞑っている。
一度シャワーで洗い流し、リンスを撫でる様に髪全体に馴染ませ少し経ってから洗い落とす。
もうずっと前から行っている儀式の如く僕は妹の髪を洗う。
手がかからなくなった秋……今僕が秋にしてやれる事は誉めてやる事、そして髪を洗う事だけ……でも……それが僕の幸せだった。
僕は秋を愛している……誰よりも、誰よりも……自分の命よりも……。
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