今日、彼氏が自殺しました。
自殺の話。苦手な人は見ないでください。
1.4月22日 22:50
今日、彼氏が自殺しました。
彼の死後、数時間経って私に連絡が入りました。彼氏のお母様からでした。
お昼休みが終わってすぐ、私の携帯に着信が入りました。
『―――涼乃ちゃん?こんにちは、勇祐の母です。急にお電話ごめんなさいね。仕事中だったでしょ?あのね、大変言いにくいことなんだけど、聞いてくれるかな。さっきね、勇祐がね、あの…亡くなったの』
私は思わず携帯を落としてしまいました。勇祐が亡くなった。その言葉だけが耳に残り、何度も繰り返されました。携帯を拾い、お宅に伺いますとなんとか言うと、上司に早退の旨を伝え、彼氏の実家へ急いで向かいました。
彼の詩は本当でした。夢ではなかったんです。彼の部屋のベッドの上に広げられた白い布が、その事実を語っていました。私は顔の位置の布だけをめくると、彼であることを確認しました。そして、その場に座り込んでしまいました。
その時私の頭の中にあったのは、「なぜ」でした。いろいろな疑問が脳を飛び交いました。つい昨日、元気であろう勇祐と通話したのに。「これからも一緒にいよう」と約束したはずなのに。どうして…どうして亡くなったのか。分かりませんでした。病気を持っているとは聞いていなかったので、おそらく自分で死を選んだのであろうとお母様はおっしゃいました。
警察官に事情を説明し、その日は彼の実家に泊めていただきました。重苦しい空気がいつまでもそこにありました。
次の日はとても慌ただしくなりました。つややその準備などで忙しく、すぐに1日が終わりました。きれいに飾られ、白い棺桶に入れられた彼を見て、泣きました。
悲しい。さびしい。不安、怒り、焦燥…負の感情すべてが私に襲いかかってきました。
―――もう、彼は私の手の届かないところへ行ってしまったのです。私を置いて。
2.4月23日 23:02
葬式に参列した私は、まるで幽霊のようでした。顔色は悪く、目は虚ろで、とても生きている人間には見えなかったと思います。お焼香を済ませ、彼の顔をのぞきました。苦しんだ様子はなく、どこか満足気であるかのように感じました。その時、私の胸にあるものは「怒り」でした。不謹慎だとは分かっています。しかし、「一緒にいよう」と約束したあの言葉は嘘だったのか、分からないことに怒りを覚えたのです。
もう、本当に分からなくなりました。誰を信じればいいのか、何を信じればいいのか…。
食も進むわけなく、お父様が私に何かおっしゃっていますが、全く頭に入ってきません。生返事をしても心が晴れることはありませんでした。
彼の体が焼かれた時は、もう何とも思いませんでした。あっさりとその時は過ぎていったのです。骨を小さな箱に入れ終わっても、何の感情も湧きませんでした。ただ心にぽっかりと穴が空いたままでした。
今までも何人か知り合いを亡くしてきましたが、今回の出来事が一番心を抉りました。
3.4月25日 10:29
彼の遺品を整理していると、日記が見つかったとお母様から連絡がありました。日記を書いていたことを初めて知ったので、興味がありました。なので、いただいてきました。これは、今、彼の日記に書いています。
私と付き合う以前から書いていたようで、始まりは5年前でした。毎日ではなくおみついたときに書いていたようです。日にちが飛び飛びです。私と付き合い始めた日、3年前の6月15日を見てみました。そこには、こう書いてありました。
『新しい彼女ができた。これで、俺の人生も変わる。もうアヤカのことは忘れていいんだ』
アヤカさんのことは聞いていました。元カノです。束縛が激しい上に、人間関係が理由で、彼の目の前で自殺されたそうです。なので、誰かが死ぬことに対して異常なまでに恐怖心を抱いていました。トラウマ、というものでしょうか。
読み進めていくと、次の年の8月8日、私と付き合って1年経ったこの日に、
『もう一人の彼女ができた』
と書いてありました。これには驚きました。知りませんでした、この3年間、二股をかえられているとは…。
しかし、そのあとにはこうも書いてありました。
『「あなたと付き合わないと、私は死ぬ」と言われて怖かった』
そして、
『今回くらいは、涼乃に甘えてもいいだろう』
この、甘えるという単語に、私の胸が締め付けられました。何も気付かずに喧嘩をし、彼を傷つけてきたことに罪悪感を覚えました。甘えようとしていてくれたのに、と後悔の念が湧いてきました。
彼はどれほど辛い日々を送ったのでしょう。今となってはもう暗闇の中ですが、少し考えてみようと思います。
4.4月26日 22:59
色々考えてみました。
彼と過ごした楽しい毎日。辛い日々。彼は幸せだったのでしょうか。
まだこの世にいるのなら、答えてください、勇祐さん。
私は決めました。彼はたくさん悩んで、自分のトラウマと真剣に向き合って、そして死んだのです。であれば、私は彼の『甘え』に応えるべきでしょう。
私はもう、新しい恋を探すことをやめます。
最後まで読んでくださってありがとうございました。
これで、残された人々の気持ちを少しでも分かってくだされば、と思います。
ありがとうございました。
ありがとうございました。