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冬怪談

自販機


朝起きて歯を磨き、身支度を整えて家を出る。


行き先は会社。休日だってのに。


最近はずっと外回りで忙しく、まともに事務仕事に手がかけられていなかったせいか、日付を越えてまで仕事をすることもしばしば。


それでも山のように積みあがった書類は無くならない。


結局、休日出勤という手を使ってまで業務を遂行することになるが、そんな憂鬱な毎日に小さな花を添えるようにちょっとした楽しみがある。


途中で買う缶コーヒーだ。


しかも、クリームも砂糖もたっぷり入った甘い奴。


会社の近くには人通りの無い路地があり、そこにひっそりと佇むように一つの自販機がある。


お茶やスポーツドリンク、炭酸類に私の愛するコーヒーまで手広く扱っており、なんと価格は一律100円。


最近の自販機事情は銀の硬貨に銅の硬貨を数枚がトレンドなのに、それに反してたった銀貨一枚で買える。


初めて見た時は思わず感嘆の声が出たが、この自販機を私以外の人間が使っているところを見たことがない。


そもそも人通りが少ないっていうのもそうなのだろうが、それ以上にこの自販機にちょっとした気味の悪い噂が立っているからだ。


なんでも、この自販機は生きているらしい。


ジュースを買った客が自販機にか細い声でお礼を言われたり、小銭を自販機の下に落とした客が自販機がひとりでに横にずれるのを目撃したりと、何とも眉唾物である。


実際、地方に移動になってからの3年間、私はしげなくこの自販機に通い詰めるがそんな経験は一度も無い。


三年間も毎日缶コーヒーを買う私に何にもないのだ、只の噂話だろう。


度重なる残業で疲れ切った私はようやく件の自販機前へと差し掛かったが、今日はどうしてもコーヒーを買う気力すら生まれてこない。


そのまま素通りして会社に行こうとすると、ガタンと後方から音がした。


「まさか・・・?」


私はゆっくりと振り返り、自販機の取り出し口を確認すると、そこには私がいつも買うはずの銘柄のコーヒーがあった。


「たまたまだよな・・・?」


これもただの偶然だろうと思いながら私は缶コーヒーを取り出すと、念のために自販機に「ありがとう」と言っておいた。


そして、私がこの自販機が間違いなく生きていると確信したのが、仕事の帰り道に缶コーヒーを買おうと思った時である。


なんと私の愛する銘柄のみ硬貨が2枚必要だった。



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― 新着の感想 ―
[一言] ホラーのようで、コメディーのようで、分かりやすい文章で楽しめました。
[良い点] 微妙な怖さというか、何だろうこの感覚という気持ちというか、ホラーなはずなのに「商売・経済」にとって大事なもの・必要なものは何かと真面目に考えてしまいました。自分でも不思議なくらい真剣に。 …
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