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黒き剣と白き花  作者: ベンツ
第1章 白き花
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婚約者

「会話はできてない、か」


無駄な修行をしてアキヒトがしばらく落ち込んであと、二人は演習場から出て、廊下を歩いていた。


「はい、声も聞こえませんし、何も感じませんよ」

「そうか…まぁ俺が使っていた時に白櫻が白く染まったことはないし、たぶん俺と同じ理由だと思うんだけどな」

「そうなんですね。じゃあもう竜に乗っ取られなくなったって思っていいんですか?」

「そうだな、確証はないが、大丈夫なんじゃね?」

「またそんなてきとうな…でも、今だけは旦那様のそのお気楽さを見習いますね。考えてもどうにもなりませんからね」

「お前馬鹿だからな」

「なんでいきなり罵倒されなきゃならないんですか!?」


リリィは怒っているが、二人はどこか安心したようで、先ほどよりもリラックスしていた。目先の問題が解決した(かもしれない)からだろう。和やかな雰囲気だった。


「そうだ旦那様、旦那様ってどこに住んでるんですか?」

「どこって。ここだけど?」

「ここって…学園に、ですか?え、まさかあの物置みたいな部屋に?」

「物置とは失礼な。元物置であって今は俺の部屋だ」

「やっぱり物置じゃないですか!ベッドもないあんな空気の悪いところに住んでるですか?」

「雨風がしのげれば十分だろ」

「黒の剣とまで呼ばれている人が何言ってんですか…」

「別にそんな風に呼ばれてるからって金持ちなわけじゃないしなぁ。だいたいは野宿だったし」

「え、そうなんですか?っていうか、ここに来る前って、旦那様って何してたんですか?」

「何してたか?魔物狩ってた」

「魔物を、ですか?はっ!わかりました!世界で起こっている魔物の急増の原因を探るべく、旅をしながら魔物を狩っていらしたんですね!」

「いや、その日の飯代を稼ぐためにいろんなところで魔物狩ってお礼もらってた」

「ただのフリーの傭兵じゃないですかそれ…黒の剣なんて異名があるのに…」

「その呼び名俺がつけたわけじゃねぇし。傭兵でもなんでもいいわ。でも最近仕事なくてなぁ」

「なんでですか?」

「その辺の人里付近の魔物狩りつくしたから魔物でなくなってなぁ」

「狩りつくした!?か、簡単に言ってますけどすごいことですよ…やっと黒の剣って呼ばれるだけはあると思えました」

「で、仕事なくて腹減って道で倒れてたらローズに拾われた」

「本当にただ拾われてきたんですね…なんか世界でも有名な人に対するあこがれというものが崩れ去っていきます…」

「そう言われてもなぁ…まぁ剣聖のじーさんとか古代魔法ロストマジックのばーさんとかは俺みたいな人じゃないから安心しろ」

「そうなんですか…っていうか、有名な人達とはしっかりお知り合いなんですね…よくわからない人ですね旦那様って」


剣聖にロストマジックといえば、過去に起きた魔物と人間による戦争とも呼べるほどに大きな戦いで、見事に人間を勝利に導いた生きる伝説である。その偉業は遠い未来にも永劫に語り継がれるであろうとまで言われている。そのような人物とこの怠け者が知り合いだと誰が思おうか。


「ん?…はぁ、またか」

「どうしたんですか、旦那様…きゃっ!」


突然アキヒトがリリィをつかみ後ろに飛びのいた。すると今まで立っていた場所に、火柱が発生した。


「な、なんですかこれ!?」

「俺に剣を抜かせようとしている…というよりはなんか俺を目の敵にしてるやつだよ。おい、隠れてないで出て来いよ」


柱の陰から、この前の男子生徒と魔法課の生徒がでてきた。魔法課の生徒の方はローブを着て顔を隠しているため、この前と同じ生徒かはわからない。


「さすがクロノ先生、軽々とよけますね」

「あ、あなたは…ヘーメル・モーガン…」

「やぁ、ご機嫌麗しゅう、僕の白百合」

「……」


その生徒を見るなり、リリィはうつむいてしまった。そして、アキヒトの服をぎゅっと掴んだ。


「なんだ、どうしたんだ?っていうか、僕の白百合って…」

「その美しい白い髪と名前から彼女は白百合と呼ばれているのさ」

「じゃなくて僕のってなんなんだよ」

「おやおや、結婚初日でさっそく自分の女気取りですか。自分のものに手を出すなって?」

「いやそんな気は全くない」

「いやさすがに即答すぎやしませんか…?」


アキヒトは真顔で真面目なトーンだった。うつむいていたリリィが抗議するほどに。


「それはよかったです。なにせ僕と白百合は婚約者なものでね」

「婚約者…?え、マジなのかお前?」

「そ、それは…」

「おやおやリリィさん、そんなことないとは言いませんよね?なにせあなたから言い出したことなんですから」

「…はい…」

「なんだそりゃ…おい、それならそうと言えよ。マザーにあんなこと言われたからってその通りにしなくたっていいんだぞ」

「そ、そういうわけじゃ…」

「ま、どうやらクロノ先生もその気はあんまりないみたいですね。よかったですよ。すみません、つい婚約者がとられたと思ってイライラしてしまって」

「それでお前はこの前からつっかかってきてたのか…そりゃ俺が悪かったな。いきなり出てきた男が婚約者と仲良くしてたら誰だって焦るわな」

「そうなんですよ…お互い、誤解が解けてよかったですね。それでは僕はこの辺で。さ、帰りますよ」


ヘーメルはローブの生徒を引き連れてその場から去っていった。


「そういうことだったのかよ。おかしいと思ってたんだよなぁ。魔法まで使って刀抜かせようなんて。そもそも自分の実力だけでやんないと俺もいろいろ言い訳してやろうと思ってたし」

「ごめんなさい…巻き込んでしまって…」

「まぁお前も竜だとかなんだで気が動転してたんだろ。じゃなかったらあって数日の男旦那様なんて呼ばないか。あんまり彼氏怒らせんなよ?」

「彼氏…そうですね…すみません師匠、私ももう帰りますね…」


そう言ってリリィはその場から逃げ出すように駆け出した。


「あ、おいちょっと…なんだあいつ…」


アキヒトはそのとき一瞬見えたリリィの顔が、とても悲しく、泣いているように見えた。


「本当…なんだってんだよ…」

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