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黒き剣と白き花  作者: ベンツ
第1章 白き花
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刀の修行(?)

竜の郷でマザードラゴンにあった翌日。街では突然現れた魔物が噂になり、警戒が強まっていた。

しかし学園の方は通常運行。リリィが怪我をしたという話は広まっていたが、その日の彼女を見て心配する人は一人もいなかった。ただ一人、普段にもまして暗い顔をしているものはいたが。


「はぁ…やっぱりおかしいだろう…なんで誰も必要以上に突っ込まないんだ…」

「なんのことですか、旦那様」

「…お前のことだよ。どう考えてもおかしいだろう?昨日怪我したって話のやつが、怪我はたいしたことなくて、そのかわり結婚してましたとか…自分で言ってて何言ってんのかわかんねぇ」

「みんなは大怪我しそうになった私を旦那様がそのたぐいまれなる剣の腕で救ったことで、二人の仲は急進展、結婚に至ったってことで納得してるみたいですね」

「それで納得できちゃうこの国の人間が恐ろしい…ってかなんだその呼び方は」

「なんだって、何がですか?」

「いや、もういいや。ここでは俺が異端なんだな、うん、諦めた」

「おかしな旦那様ですね」


マザーから結婚しろと言われ、二人は本当に夫婦となっていた。と言っても。この国では婚姻届けというものはないため、二人が結婚したと言えば、それで結婚が成立してしまうのだ。離婚率が高い理由もうかがえる。そして、結婚したからと言って、今朝からリリィがアキヒトのことを旦那様と呼ぶようにもなった。アキヒトは恥ずかしくてたまらなかったが、何を言ってもやめないので諦めることにした。俺の常識が通用しない世界なのだと。

そんなふうに仲睦まじく(?)歩いている二人に、後ろからおーいと呼ぶ声が聞こえた。茶髪に三つ編みの少女、レベッカであった。


「リリィ、怪我したって聞いたけど、その様子だと大丈夫みたいね」

「うん、旦那様のおかげでね」

「旦那様って…いくら結婚したからって今時そんな呼び方してる人そうそういないわよ」

「やっぱりおかしいんじゃねえか!」

「もう、いいじゃないですか。旦那様も諦めたって言ったでしょう」

「てめぇわかっててごまかしやがったな…!」


仲良く夫婦喧嘩をしている二人を、レベッカは驚いた顔をして見ていた。


「ああすまん、騒がしかったな」

「いえ、それはいいんですけど…ちょっと意外だったもので」

「?なにがだ?」

「クロノ先生、他の生徒からは寡黙でいつもクールな人って聞いていたので」

「ああ、それは単に旦那様がめんどくさがってあんまりしゃべらないだけよ。妻で弟子の私以外にはね!」

「なんでどや顔してんだお前は…」

「間違ってはないでしょう?」

「妻で弟子であることが理由じゃなくてお前がはちゃめちゃで突っ込まざるをえないからだろう…いったいどうしたんだよ。昨日まではそんなじゃなかっただろう」

「先生、それは聞くだけ野暮ってものですよ」


レベッカがちっちっと人差し指をたてて指摘する。


「恋は、人を変えるんですよ!」

「うわぁなにそのどや顔…さっきのこいつの顔よりむかつく…」


実際のところ、リリィは意識して態度を変えていた。アキヒトはその強さゆえに、人から恐れられ、また、彼自身も近くに人を置こうとしないため、心の支えとなる人物がいない。理由はあるにせよ、弟子となったリリィは特別なのかもしれないとマザーに言われたことを考えているのだ。ちょっと強引でも、この人の心に入りこんでやろう。それができるのは私だけなのだと。一番の理由はただ惚れてるからなのだが。


「ところで、二人そろってどこいくんですか?」

「どこって、訓練だけど」

「ほうほう、訓練ですか…二人っきりで訓練、ですか…」

「何考えてるかは知りたくもないが、ただの刀の指導だからな?」

「別に変なことを考えたわけじゃないですよ。ただ、昨日までほとんど訓練に付き合っていなかったのに、結婚した次の日にはしっかり付き合うんだなぁと。先生もまんざらじゃないみたいですね?」


ちなみにレベッカはずっとにやにやしている。わかってたかもしれないが。


「そんなんじゃねぇよ…悪いけど、邪魔するなよ」

「もちろん、二人の時間を邪魔したりしませんよ!」

「力強くわけわかんねぇこと言うな…」


訓練を始める前からアキヒトはどっと疲れを感じていた。どれだけ修業したってこんなには疲れないだろう。


~~~~~~~~


終始にやにやしていたレベッカと別れ、二人はは演習場に来ていた。


「それじゃ、訓練を始めるぞ。ここからはマジで冗談抜きだ」

「はい、師匠」


リリィも意識を訓練にきちっと切り替えていた。


「悪いが時間がなさそうなんで少々力業で行くぞ。まずはその白櫻をある程度使いこなせるようになってもらうの先決だ。細かい技術はおいおい教えてやる。習うより慣れろ。使い方は体で覚えた方が早い。刀を抜いて、俺に一太刀入れられれば合格だ」

「わかりました…いきます!」


勢いよく斬りかかる。が、ひらりと軽くかわされてしまう。


「はぁ!やぁ!」


ブンッブンッと刀を振り回すが、いっこうにあたる気がしない。


「刀は大剣とは違う。そんな大振りで振ってもだめだ。リーチを意識して、もっと一太刀一太刀正確に振れ」

「はい!」


先ほどよりも細かく、大降りにならないよう気を付けながら、刀を振るう。


「その調子だ。どんどん来い」

「せやぁ!はぁ!」


リリィは一心不乱に刀を振るった。

そして、一時間ほどたった時。


「はぁ、はぁ…」


カラン、と、リリィの手から刀が落ちた。慣れない獲物を一時間も扱っていたら無理もないことだ。


「ふむ、今日はこれくらいか」


一方でアキヒトは息一つ切れていない。あくびでもしそうな勢いである。


「ふぁぁ…」


ていうかした。


「し、師匠…さすがに無理がありますって…そもそもこれで使いこなせるようになるんですか?」

「まぁ思わない」

「そうですか…って、じゃあなんのための修行ですかこれ!?」

「いや、もしかしたらすごい才能があって開花したりしないかなぁって」

「しませんよ!ここからはまじめにって言ったの師匠じゃないですか!」

「いやすまん…俺もそんなすぐに使いこなせる方法思いつかなくて…」

「そ、そういうことですか…そもそも、どの程度使えればいいんですか?」

「使いこなすっていうか、自分の中の竜に認められるっていうのかな。その刀を媒介にして竜と交信できるようになればいいんだけど」

「それって、どんな感じなんですか?」

「そうだな、例えば俺の場合だと…」


そう言って刀を抜くアキヒト。そのまますぅっと息を吸って、集中すると、


「あ…刀が、黒く…」


アキヒトの持っていた刀、黒櫻の刀身が黒く染まった。


「ま、こんな感じかな。ああ起こして悪かったって。なんでもねぇから寝てていいよ」

「誰と話を…あ、師匠の中の竜、さん?ですか」

「そうだ。こいつは俺以上のめんどくさがりでな、寝てたところ突然起こしたからギャーギャー騒いでんだよ。あーわかったわかった。今戻すから」


すっと刀の色が元の銀色に戻った。やれやれといった調子で刀を鞘にしまう。


「お前の場合どんな風になるのか知らないが、会話できれば大丈夫、なんじゃね?」

「なんじゃね?ってまたてきとうな…そういえば、今のと似たようなことが今朝ありましたよ」


そう言って今度はリリィが刀を抜く。そしてちょっと集中すると、白櫻の刀身が白く染まった。


「……は?」

「これって白櫻の力なんですか?黒櫻も黒くなってましたし」

「いや、なんていうか、はは…」


乾いた笑い声をあげ、大きくため息をついた。


「本当に才能開花しちまったな…悩んだ俺が馬鹿みたいだよ…はぁ…」

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