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黒き剣と白き花  作者: ベンツ
第1章 白き花
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竜種

「ん…ここは…?」


リリィが目を開けると、見知らぬ天井が目に入った。


「気がついたか…とりあえず、よかった…」


横を見ると、自分の師が心配そうな顔でこちらを見ていた。今まで見たことない顔であった。


「師匠…?ここは…うぐっ…!?」


起き上がろうとすると、体に痛みが走った。


「まだ無理をするな。傷がふさがってないんだから。ここは俺の部屋だよ。すまんな、ベッドなんかないからソファで寝てもらってる」


いつになく優しい師の声。出会ってまだ間もないがこんな声も出るんだな、とリリィは思った。


「あの、いったい何が?私はどうして怪我を…」

「魔物から俺をかばってくれたんだよ…すまない、俺が油断したせいで…」

「魔物から……そ、そうだ!私、爪でざっくりやられて、それで…あ、あれ?傷…が…?」


リリィは、自分の体の異変に気付いた。確かに、深く致命的な傷がついたはずだが、それにしては痛みも少ない…それに、どう考えても、ほぼほぼ治っているように感じる。


「あの、私、もしかしてたいした怪我じゃなかったんですか…?」

「…いや、普通なら、完全に死んでいたような怪我だったよ」

「で、ですよね?でも…ほとんど、治っている、ような?」

「……本当にすまない!こうするしかなかった!」


ガバッと、いきなりアキヒトが土下座した。


「うぇええ?!ち、ちょっとやめてください師匠!なんでいきなり土下座なんてするんですか!?」

「それは…今から説明するよ。リリィには、俺の血を、竜の血を飲ませた」

「……は?何言ってるんですか?師匠、頭でも打ちました?」

「いや、真面目に言っている。俺は普通の人間じゃなくて、竜の血が流れているんだ。説明すると長くなるからなぜそうなのかの説明は省くが、確かなことなんだ」

「はぁ…?」

「その血を飲ました。竜の血を飲めば、普通の人よりもはるかに治癒能力が高まる、というより…」

「というより?」

「…竜、に、なっちまうんだ」

「……」

「……」

「……師匠、やっぱり師匠がお医者さんに診てもらいましょう」

「俺は大丈夫なんだってば!?と言っても、やっぱりそう簡単には信じてもらえないよなぁ…やっぱり、あそこに行くしかないか」

「あそこって、精神科ですか?」

「だから違うって…竜の郷だよ」


そう言って、アキヒトは何もない空間に手をかざし、詠唱を始めた。


「開け、閉ざされし竜の郷よ。我、守り竜の一柱、黒竜の長なり」


すると、白い光とともに何もなかった空間に穴のようなものが浮かんでいた。


「な、なんですかそれ?空間移動の魔術…?」

「似たようなものかな。ほら、立てるか?」


アキヒトはリリィの手を取り立ち上がらせ、そのまま2人して空間に空いた穴に入っていった。


〜〜〜〜〜〜〜〜


穴に入ってしばらく何もない空間を歩いていると、白い光に包まれた。どうやら出口についたようだ。リリィが眩しさから閉じていた目を開けると、そこは森の中であった。


「ど、どこですかここ?」

「竜の郷、だよ。こっちだ、ついてきてくれ」


アキヒトに手を引かれながら歩いて行くと、森の中の木のない開けた場所に出た。そしてそこには…


「り、竜…!?本当に!?」


大きな白い竜が、そこにはいた。その大きな目で2人を見ていた。


「久しぶりだな、マザー」

「誰かと思えば不良息子じゃないかい」

「し、喋った?!というか、息子!?」


竜が喋ったこと、アキヒトを息子と呼んだこと、そもそも竜が目の前にいることと、とにかくわけがわからず、リリィは困惑していた。


「おや、そっちの娘は…そうかい、それで珍しくここに帰ってきたのかい」

「まぁ、そういうことだ」


マザーと呼ばれた竜は、やれやれと深いため息をついた。


「その様子だと、その子、何も知らずに竜になっちまったんだね」

「…そうするしか、なかったんだ…」

「ほ、本当に竜がいる…で、師匠を息子って…てことは本当に師匠には竜の血が流れてる…?それでそれを飲んだ私は本当に竜になっちゃった…?ふぁ?」


とりあえず、あまりおつむの良くない脳筋リリィはパンク寸前であった。


「初めまして、リリィ・オルブライトさん。私はマザードラゴンと呼ばれているわ」

「マザーは今の竜の長なんだ」

「あ、は、初めましてマザードラゴンさん…あれ、私名乗りましたっけ?」

「いいえ、でも、私の娘となった子のことは大抵のことはわかるのよ」

「へぇ…って娘?!」

「マザーは他の竜はみんな私の家族、娘や息子であるって思ってるんだ」

「はぁ、なるほど…って、やっぱり私は竜になっちゃったってことですか?!」

「そういうことになるわね。竜の血を飲むと、素質のある人は竜とほぼ同じ存在になれるのよ。竜となれば、大抵の傷はすぐ治るから、そのバカ息子はあなたに自分の血を飲ませたのよ」

「な、なるほど?というか、素質がなかったらどうなるんですか?」

「体が焼けるように熱くなって、死に至るわ。その熱を克服できたものだけ、竜になれるのよ」

「そうだ、あの時…師匠の血を飲んだ瞬間に、体が焼けるように熱くなった…でも私は生きてるってことは、それは克服できた、ってこと?」

「その通りね。でも…本当の問題はこれからよ。竜に、意識を支配されるかもしれない」

「竜に、意識を?そういえば、気絶する前に、何か私の中に強大な何かが入ってくる感覚が…」

「え…まさか…早すぎる…」


ここにきて、落ち着いていたマザーから少し焦った雰囲気が漂ってきた。


「不良息子、どうやらそんなに時間はないみたいだよ…この子の中の竜は、相当強力な力を持ってるみたいね」

「みたいだな…俺の時も早かったけど、それでも2日は経ってからだった。黒竜の長より強いって…まさか…」

「え、え?なんですか?なんか、もしかしなくてもやばいんですか?」

「ええ、でも大丈夫よ。不良息子に白櫻をもたせておいてよかったわ」

「白櫻って…この刀ですか?」

「ええ、白櫻は竜の骨から作られた刀。使いこなすことができれば、竜を封じることも可能よ」

「この刀…本当に竜の骨からできてたんだ…あ、でも、私刀まだ全然使えないんですけど」

「しかたないな…本格的に指導を始めないといけないみたいだな」

「不良息子、お前のせいでこうなったんだ。ちゃんと責任はとりなさい」

「わかってるよ」

「言ったね?責任を取るって言ったね?」

「なんだよしつこいな…とるよ!責任くらいちゃんととるよ!」

「よろしい。ならばその娘とつがいになりなさい」

「ああはいはいつがいね…つがい?」

「人間の言葉で言えば、なんだったか、そう、結婚しろってことよ」

「結婚だとぉ!?なんでそんな話になるんだよ?!」

「その子は、問題が解決したとしても、もう普通の人間ではないのよ。これから竜の力で苦労することも多々あるわ。その責任まできちんととるなら、つがいになるのが手っ取り早いでしょう」

「いやいや極端すぎる…!?だ、だいたいリリィの方だっていきなり結婚とか言っても困るだろう?」

「え、いや、私は別に構いませんけど?」

「そうかそうかそうだよな…なんで!?」

「え、だって結婚ってあの結婚ですよね?」

「いや、うん、男女で行うあの結婚だけど…」

「ですよね?何をそんなに驚いているんですか?」


今度はアキヒトが困惑していた。リリィは何を言っているんだ?結婚って言えば生涯にだいたいの人は1度しかしない大事なことだろう?なにがどうなってる?


「くく、不良息子は知らないみたいだね。娘よ、そなたはエストランドの人間だな?」

「は、はい、生まれも育ちもエストランド、です」

「刀のことしか考えていない馬鹿な息子に教えてやろう。エストランドではな、気に入った男女がいれば次の日には結婚、なんてことはざらにあるのだよ」

「な、なんだそのめちゃくちゃな風習?!」

「そして一夫多妻が認められている。妻の2、3人いても全然不思議じゃないのさ。まぁ、その分離婚率もそこそこ高いみたいだかな」

「そりゃそうだろ…つまりはカップルになることがほぼほぼ結婚するってことと同じってことだろ…しかも一夫多妻なのかよ…俺には考えられねぇ…」

「お前の国の結婚に対する考え方が固すぎるんじゃないか?妻は生涯に1人だけ。本当に愛したものとのみ結婚する。離婚したら周りから割と白い目で見られる。まぁ悪いってわけではないが、やっぱり固すぎるわ。そんなわけで、エストランドの民は結婚することをそんなに重視してないのさ。ま、例外があるがな」

「そ、そうなのかリリィ?」

「はい…で、でも、師匠の国では、その、し、生涯に1人だけって…し、しかも本当に愛した者だけって…」

「いや、うん、まぁそうなんだよね…」

「郷に入れば郷に従え、だよ。そんな難しく考えず結婚しちまいな。どうせしばらく一緒にいることには変わらんのだから」

「いやしかし…だからと言って…うぁあ…すまん、ちょっと頭冷やしてくる…」


唸りながらよろよろとした足取りでアキヒトは森の中に入っていった。頭から煙でも出しそうな勢いであった。


「まったく、責任とるって言ってんだから男らしく結婚すりゃいいのに…すまないね、馬鹿みたいに頭の固いやつで」

「い、いえ、国によって結婚に対する考え方が違うのは知ってましたから…そ、それにしても、師匠って本当に竜の血が流れてるんですねぇ…だからあんなに強いんですか」

「いや、それは違うぞ。あいつは竜になる前から強かった」

「え、そうなんですか?」

「ええ。そもそも、あいつが竜になった時もめちゃくちゃな話だよ。10年くらい前にね、黒竜と呼ばれる黒い竜の長が年老いたせいか突然暴れだしてね…人間の村をおそっちまったんだよ。その時、村で1番強いと言われていた剣士が1人で討伐にむかい…本当に討伐しちまったんだよ」

「まさか…それが師匠?!1人で竜を倒したんですか?!」

「本当、信じられなかったよ。でもその時に自分で斬った竜の血を飲んじまったらしくてね…しかたないから私がここに呼び出して、あの刀を与えたんだよ。そして見事に自分の中の竜を押さえ込み、自分の力とした。そして、今のあいつはそのまま黒竜の長の座についたのさ」

「他の竜の方々はなにも言わなかったんですか?」

「そりゃ突然人間が竜種の長になるなんて反対する竜も出たが…全部返り討ちにしちまったよ」

「本当にめちゃくちゃな話ですね…」

「だろう?今じゃ他の竜どもとも仲良くやってるよ。完全に竜種に馴染んでるよ、あの不良息子は。でもね…強すぎて、逆にあいつには人間の友人がほとんどいないのさ。怖がって誰も近寄らなくなったのさ。竜の力を手に入れてからは、さらにね」

「そう、なんですか…」

「だからね、結婚しろって言ったのは、半分あいつのためでもあるんだよ。お嬢ちゃんには、なにか特別なものを感じてね。この子なら、あいつの心を支えてやれるかもしれないってね」

「私が、ですか?でも、私ただの弟子で、まともに修行だってしてくれないくらい相手にされてないですよ?」

「あいつが弟子になることを許しただけでも十分だよ。あいつも、たぶんお嬢ちゃんになにか感じたんでしょう。でなきゃ、どんなことがあったって弟子になんかしないよ。人を、そばに置いたりなんかしないよ」

「…私で、支えられるんでしょうか?」

「お嬢ちゃんなら…私の新しい娘ならできるよ。それに、実はあいつと結婚できるかもって結構喜んでるでしょ?」

「え!?いや、そんな、それは…そ、そりゃ剣の腕は尊敬できますし、み、見た目も嫌いじゃないですけど…」

「ふふ、やっぱりエストランドの人間はいいね。惚れやすい気質が、今の風習を生んだんだろうね。見ていて面白いよ」

「……わ、わかりました。私に任してください!そもそも、師匠のあの怠け癖なんとかしたいと思っていたんですよ!いい機会です、私がしっかり治してあげます!」

「いいね、頼むよ我が娘よ。だがその前に、まずは自分の竜を抑え込むことに集中しなさい。もしかすると、とんでもないのがそなたの中にいるかもしれないからね…」

「え、それって…?」

「さ、あの馬鹿も戻ってきたみたいだし今日はもう帰りな。馬鹿な息子だけど、よろしく頼むよ」

「は、はい!頑張りますね!」

「え、なんの話…うわわ!?ちょ、リリィ引っ張るなって!?」


リリィはアキヒトの腕を掴み、やる気満々で引きずって帰っていった。

その様子を見ながら、マザードラゴンは優しげな笑みをうかべている…のだと思うが竜種なのでよくわからない…とにかく、優しげな雰囲気であった。


「さてと、どうなるかしらね…どっちにしても、どうやら何かが起こりそうだね」


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