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黒き剣と白き花  作者: ベンツ
第1章 白き花
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魔物襲来

学園が始まり、1週間が経過していた。あれからもアキヒトを狙い、あの手この手で様々な生徒が勝負を挑んだが、どれも軽くあしらわれていた。Aクラスの生徒以外にも弟子になれるという話が広まり、他のクラスからも挑戦者は現れたが、誰も刀を抜かせることはできていなかった。

そんな中、唯一の弟子となったリリィは何をしているのかといえば…


「ふっ、はっ…」


ただひたすらに木刀を振っていた。というのも、最初に木刀を渡されたとき以来、他に何をやれといわれるどころか、まともに自分の師となった人物と会話もしていなかった。教えを願っても、軽くスルーされていた。


「まったく、あのやる気のない師は、本当に、すごい人、なのかしら、ね!」


文句を言いながらも鍛錬を続ける。正直不満しかないのだが、仕方がないのでただひたすらに木刀を振り続けていた。最初よりは力の入れ方もなんとなくわかってきたような気がしていた。


「ああ、いたいた。リリィ、実技の授業始まるよ」


そんな彼女のもとに、友人が1人訪ねてきていた。


「ベッキー?あ、そっか。実技の授業って怪我人も出るから、あなたのクラスと合同で行う、ってなってるんだっけ?」

「その通り。探したわよ、もうすぐ始まるのに全然姿見せないんですもの」

「ごめんごめん、ここなら大演習場に近いから大丈夫かなって思って」

「まぁいいわ。ほら行きましょ。本当に始まっちゃうわ」


今日から、実技の演習が始まる。演習なのだが、実際の獲物を使うため、怪我人が後を絶たない。そのために、魔術のクラスも合同で演習を行い、互いに実戦形式で成長させるというのがこの学園の方針である。


「というか、演習は全部のクラス合同で行うものよ。槍使いとか鈍器使いとか、他の武器のことも知らなきゃならないってことで」

「え、そうだったの?知らなかった…」

「本当に何も知らないのね…ほら、もうみんな集まってるわ」


大演習場につくと、そこには新入生のほぼ全員が集まっていた。皆武装しており、戦争でも起こすのかというような雰囲気だった。


「よーしお前ら集まったな?今日から実技の演習を始める。先生に直接教えを請うもよし、空いているスペースで決闘するもよし。基本的には自由に行え。だがサボることだけは許さん。もしサボりがばれたら、きついお仕置きがあるから気を付けろよ。んじゃ、始め」


ローズの説明が終わるとともに、各々が行動を始めた。さっそく決闘を始めるもの。 先生の手本を見ているもの。他の人の動きや武器を確認しているもの。サボるようなものが誰もいない点、実に優秀な学園であった。


「私も誰かと決闘しようかしら…!」

「相変わらずの戦闘狂ね…でも、あなた決闘するなら、どの武器使うの?」

「あ…そういえば…」


リリィは、大剣を持ってきてはいるが、今は刀の訓練中。しかし、いまだ木刀の素振りしかやっていないため、当然刀で戦えるわけもない。


「うー…でもやっぱり決闘したい!ここは大剣で…あいた!」

「こら、何考えてんだ」


いつの間にかアキヒトが現れ、大剣に手をやり、戦闘にくりだそうとした彼女の頭をひっぱたいていた。


「いったぁ…師匠!なにするんですか!」

「お前は別にやることがあるんだよ」

「え…ま、まさか素振り以外の特訓ですか!私があれだけ教えてくれと頼んでもまったく教えてくれなかったのに!」

「部屋で寝てたらローズに殴られてな…弟子の面倒くらいちゃんと見やがれって」

「ちゃんとって…やっぱりめんどくさくてほったらかしにされてたんですか私!?最初は木刀を振ることが大事だとか言っておきながら!」

「悪かった悪かった、あんまり騒ぐなやかましい…ほら、俺の刀貸してやるから、とりあえずそれ振ってみ」


アキヒトは腰に挿してある白と黒の2つの刀のうち、白い方をリリィに手渡した。


「おお、これが真剣…確かに木刀より少し重いですね」


そう言いながらその刀身を鞘から抜き、外に出した。


「わぁ、きれいな刀身…すごいですね、この刀…」

「竜刀・白櫻しろざくら。その刀の名前だ。こっちの黒櫻くろざくらと対をなす剣だ」

「竜刀?なんで竜なんですか?」

「この2つの刀は金属ではなく竜の骨から造られた、ってことになってる。まぁ実際はどうかは知らんが、斬れ味だけは本物だ。指とか軽く飛ぶから触るなよ」


今まさに刀身に触れようとしていたリリィは慌てて手を引っ込めた。


「竜の骨から…でも確かに、なんだか不思議な感じ…」

「その刀で今日はもうちょい実戦的な…」


アキヒトが珍しく指導を始めようとした時


ズガァァン!


と、何かが破壊されるような音とともに、地面が大きく揺れた。


「え、な、なに?なんの音?」

「今の音…石垣の向こうから…まさか魔物が!?」


音の大きさから、尋常じゃないことが起きていると全員が思い、演習場はざわつき始めた。


「お前ら!静かにしろ!いいか、生徒はここを一歩も動くな!我々が確認してくる!いいか、絶対に演習場から出るなよ!」


ローズの声で、演習場に緊張が走り、一斉に静かになった。


「先生!俺たちにも行かせてくれよ!魔物相手でも十分に戦えるって!」

「そうだ!今はちゃんと武装してるし、行かせてくれよ!」

「お前らは万が一のためにここに残るんだ。安心しろ、本当に危なかったらなんのためらいもなくお前らも戦場にぶちこんで死ねと言ってやる。だから今はここで大人しくしていろ。教師陣は街の正門に集合!五分以内だ!」


ローズの言葉に、今にも飛び出しそうになっていた生徒も、その場に大人しく踏みとどまった。


「この気配は…雑魚だな。しかしなぜいきなり気配が現れた…?」

「ちょ、ちょっと師匠、行かなくていいの?」

「ん、ああそうだな。それじゃ行くぞ」

「行くぞって…え、私も?」

「ちょうどいい機会だ。実際に俺が刀での戦いを見せてやる。その目で確かめろ」

「でも、生徒はここから出るなって…」

「俺の弟子特権だ。いいからさっさとしろ」

「あ、ちょっと待ってくださいよ!ああもう本当に勝手なんだから…ベッキー、ちょっと行ってくるわね!」

「はいはいいってら。まったく、あんな嬉しそうなかおしちゃって。師匠に構ってもらえるのがそんなに嬉しいのかしら」


〜〜〜〜〜〜〜〜


「おお、やっとるやっとる」

「うわ、本当に魔物だ…こんな近くまで来るなんて珍しいわ」


アキヒトとリリィが街の正門に着くと、すでに数匹の魔物の群れと、教師陣が戦闘を始めていた。

この街、王都エストランドでは、魔物の群れが発見された際、王城の兵士たちよりも、フットワークの軽いイーストウェル学園の教師陣が対応することが多い。というよりも、イーストウェル学園の教師陣の方が下手すると強いのだ。各国の選りすぐりの戦士を集めているのだから当たり前かもしれないが。その間に兵士たちは決してサボっているわけではなく、街の人の避難であったり、他の門は大丈夫なのかの確認などなど、戦闘以外での仕事をしていることが多い。そういった作業は、逆に教師陣には向いていない。教師陣なんだけど。


「やっぱりたいした規模ではないな。お、あっちにちょうどよさそうなのが。先生方!あっちのでかいのは俺が相手してるで他のやつお願いします!」

「さすが黒の剣。自ら1番強そうな魔物を引きつけてくれるとはありがたい。こっちは任せてください!お気をつけて!」

「はいはいありがとね…さてリリィ、しっかり見とけよ」

「わ、わかりました師匠…って、なにしてるんですか?」


アキヒトは刀を抜かず悠々と魔物の群れに歩いていった。


「危ないわよ!せめて獲物を抜きなさ…え?」


そこで、彼女は黒の剣の実力を改めて知った。彼に襲いかかってきていた魔物が、一瞬で真っ二つになっていた。


「今のが居合だ。わかりやすく言えば、刀を抜くときの引っかかりを利用して、素早く刀を抜いて、斬る。それだけだ」

「そ、それにしたって…」


速すぎる。彼は刀を抜いてと言ったが、刀をいつ抜いたのか、まったく見えなかった。いくら居合とはいえ、そこまでの速さが出るものではないと、リリィですらわかっていた。


「そして、刀の大事な特性がある」


アキヒトそのまま魔物の群れの中をまっすぐに進み、大型のクマのような魔物の前にたどり着いていた。鋭い爪が光っており、一撃でもあの爪を食らえば、体が真っ二つになるの待ったなしだ。そして、その鋭い爪が無慈悲にアキヒトには振り下ろされる。しかも、相当な速さで。


(は、速い!間に合わないんじゃ…)


そんな心配とは裏腹に、キィィン、という甲高い音がした。アキヒトが刀を抜き、爪を受け止めていた。


「それは、この硬度だ。良いものになればなるほど、滅多に折れやしないし、刃が欠けたりもしない。東国の刃物作りの技術万歳ってところだ」


涼しげな顔で、楽々と大型の魔物の攻撃を受け止めていた。相当なパワーを持っているはずだが、アキヒトは汗ひとつかいていなかった。


「鍔迫り合いっていうんだが、こういった押し合いにも向いてる武器なのさ。パワータイプのお前にも扱いやすいはずだ」

「そ、そうね」


リリィは唖然としていた。アキヒトの目の前の魔物は、どう見ても決して弱そうでは無い。むしろ、自分では倒せないくらいなのでは?と、リリィは思った。


「そして、最大の特徴が…この斬れ味だ」


魔物の爪をはじき返すとそのまま魔物との間合いを瞬間で詰め、刀をふるった。それだけで魔物の体は真っ二つに斬れ、断末魔とともに、魔物は消滅していた。


「弱いな…」

「……」


リリィは驚きすぎてもはや逆に落ち着いていた。

強すぎる。圧倒的なまでの実力。目で見て盗むなんて考えつかないほど、鮮やかな手際であった。

そして、行きと同じように彼は歩いて帰って来た。


「どうだ?少しは参考になったか?」

「いや無理に決まってるでしょう?なんなんですか今の太刀筋?見せる気無いですよね?」

「それは相手が弱すぎるのが悪い」

「はぁ…もういいですよ…とにかく刀、というかあなたのスゴさはわかりまし…!?危ない!!」

「え…」


突然、リリィがアキヒトの体を突き飛ばした。そして、


ザシュッ


「あ、ぐ…!?」


いつの間にか現れた魔物の爪が、リリィの体を引き裂いていた。


「な…!?さっきの魔物!?く、この野郎…!!」


アキヒトはすぐさま刀を抜き、その魔物の体を真っ二つにした。


「なんだ今のは!?まったく気配がしなかった…はっ!?そんなことより、リリィ大丈夫か?!」


地面に力なく横たわる弟子を、アキヒトは抱きかかえた。体には、深く、絶望的なまでの傷跡があった。


「し、師匠ほどの人が…はぁ、はぁ…ま、魔物に背後を取られるなんて、情けないですね…」

「もういい喋るな…!今、治療を…」

「ご、ごめんなさい師匠…なんか、目の前が暗くなってきました…」

「おい待てよ…まだ何にも教えてないだろ…そんな簡単に死ぬなよ…くそ、俺が油断したせいで…俺がここに連れてきたせいで……いや、死なせない…しかし…」


今からやることをすれば、ラリリィは普通に生活が送れなくなるかもしれない。しかし、やらなければ確実に死ぬ。なら…やるしかない。


「すまないリリィ…責任は必ずとる」


アキヒトは自分の手を刀で斬り、そこから出た血を、リリィに飲ませた。


「うぐ…アァア…!?」


途端に、リリィは自分の体が熱くなるのを感じた。いや、熱いなんてものじゃない。焼けている。自分の体が焼けていると錯覚するほどの熱だ。


「耐えてくれ…頼む…」

「ア、アァァァァア!?」


そして、自分の体が何者かに奪われていくような感覚に陥った。自分より強大で、大きな存在の何者かに。


そこで彼女は、完全に気を失った。


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