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黒き剣と白き花  作者: ベンツ
第1章 白き花
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弟子

イーストウェル学園の初日が終わった放課後。アキヒトはリリィを連れて学園内を歩いていた。


「で、本当に弟子になんかなりたいのか?」

「はい、黒の剣の教えを直接受けられるなんてなかなかない機会ですからね。是非ともお願いしたいです」

「まぁ、条件は満たしちゃってるしなぁ…無理にでも避けておくべきだった…」


ご機嫌なリリィとは真逆で、アキヒトは非常にめんどくさそうだった。


「あれが黒の剣、と、黒の剣に刀を抜かせた生徒か」

「Aクラスの人に聞いたんだけど、実力は本物らしいよ。しかも全然本気出してないみたい」

「まぁ国レベルでの有名人だしな…だとしたらあの子も相当の使い手ってことかな」


周りでは早速噂が広まり、みんな興味津々に2人を見ていた。


「目立つのは嫌いなんだけどなぁ…っとついた。とりあえず入ってくれ」

「ここは…師匠の部屋ですか?」

「ああ、学園が貸してくれた…って、なんだその呼び方は」

「弟子が師匠と呼ぶのは当然でしょう?」

「はぁ…もうその気まんまんなのね…」


さらに暗い雰囲気になったまま2人は部屋の中に入っていく。


「てきとうなところに座ってくれ。それで、大剣使いのお前が、どうして俺の弟子になろうと」

「それは…師匠も、もう気づいているのでしょう?今朝、おっしゃっていたじゃないですか」

「…自分でも、気づいていた、か」

「ええ、私の体格では、もう限界、ということなんですよね?」


少し悲しそうに、彼女は背中の大剣に手をやった。


「ああ、そういうことだな。むしろすでに限界を超えている。よくそこまで強くなれたと賞賛に値するほどだ」

「ありがとうございます、しかし…」

「さらに強くならなきゃならない、か…それは家のためだな?」

「知っておられるのですか?」

「さっき少し調べさしてもらったよ。オルブライト家、この国有数の名門貴族。しかし、先代の当主、君の父親にあたるアルバート・オルブライトが不幸にも病死。母親はとっくの昔に旅立っており、残っているのは1人娘の君だけ、というわけか。アルバートのおっさんはいっちまったのか…」

「父を知っているのですか?」

「ああ、5年くらい前に一緒に魔物の討伐に行ったことがある。豪快な人だった。君と違い、体格のいい大男で、その大剣が小さく見えたよ」

「この大剣のことも知っているのですね」

「調べている時に全部思い出したよ」

「そうです、この大剣は代々我が家に伝わっているものです。それを私が受け継ぎ、使いこなしてやろうと思っていたのですが…私は母親似で体格も華奢、最初は普通に振るうことさえままならなかったです。しかし、オルブライト家を潰れさせるわけにはいかないという思いを胸になんとかここまで扱えるようになりましたが…」

「人には自分の体格と個性に見合った武器がある。正直、君にはその大剣はあっていない。だからこそ…おそらくもうそれ以上強くなることは難しいだろう。もちろん、戦いに慣れてくれば、大剣の腕以外のところでさらに上は目指せるだろうがな」

「そう、ですか…しかし、そんなに時間はもうないんです。私は、なるべく早く強くならなくては…」

「そうか…まぁ家の問題に首を突っ込むつもりはないが、強くなりたいというのであれば…お前、刀を使ってみたらどうだ?」

「刀、ですか?師匠と同じ?」

「そうだ。まぁ武器を変えたからと言ってすぐに強くなれるわけではないから、お前の都合に間に合うかは知らないが、おそらく、お前は刀があうと思う」

「師匠と同じ武器…それなら教えも受けやすいですね」

「まぁそういうことでもある。とりあえず、やってみるか?」

「…はい、わかりました。大剣は、諦めます」

「…ずいぶん潔いな。本当にいいのか?ずっと鍛えてきたんだろう?」

「ええ、考えるよりはまず行動するタイプなので。それに、もし刀がダメでも、全く無駄はことにはならないと思うので」

「そうか、じゃあほら、これ」


アキヒトはひょい、とそのあたりに立てかけてあった木刀を、リリィに投げて渡した。


「これは、木の刀、ですか?」

「訓練だからな。とりあえずそれで素振りからだ。頑張ってきてくれ」

「はい!…え、きてくれって、師匠は?」

「めんどくさいし素振りなら1人でできるでしょ?」

「いやいやせめて構え方とか正しい振り方とか教えてくださいよ!」

「えー…こう、心に思ったように構えて振ればいいんじゃないかな?」

「そんなわけないでしょう!私刀に関しては完全初心者なんですから!ほら、行きましょう師匠」

「だから嫌なんだよなぁ…はぁ…」


〜〜〜〜〜〜〜〜


先ほどの演習場に戻ってきた、わけではなく、2人は人気のない違う演習場にいた。演習場といってもただの原っぱみたいなもので、器具やらもなにも置いていないため、普段あまり人は使わないのだ。


「じゃあ始めるか。まずは見て覚えろ。刀はこうやって持ちこう構え、こう降るのだ」

「なるほど…」

「……え、いや、自分で言うのもなんだけど今のでわかったの?」

「はい、だいたいは。こんな感じ、ですよね?」


そう言って彼女は2、3度刀をふるってみせる。


「おお、本当にだいたい理解できてる…楽でいいがなんかさすがの俺でも罪悪感が…あーもうちょっと力抜いて振れ。無駄な力が入ってるぞ」

「こう、ですか?」

「いいかんじだぞ。じゃあその素振り100回を10セットで」


それだけ言って、アキヒトは帰ろうとする。


「待ってくださいよ!なに帰ろうとしてるのですか!素振りの後の指導もお願いします!」

「いや、しばらくは素振りだけな。まずは刀の大きさ、振り心地、重さなどに慣れてもらいたい。真剣はもう少し重いけどな。それじゃ、ファイト」


それだけ言い残して本当に去って行ってしまった。


「ええ…なんてやる気のない…本当に師匠と呼んで良かったのでしょうか…?」


などとぼやきながらも、彼女は素振りを続けることにした。


〜〜〜〜〜〜〜〜

「…いい加減隙を窺うのやめて出てきたらどうだ?バレバレなんだよ最初から」


部屋に帰る途中、アキヒトはそう後ろの柱の陰に潜んでいるものに声をかけた。


「さすが黒の剣。お見通し、ってわけか」

「Aクラスのやつだな。さっそく不意打ち狙ってくるとは、血気盛んだねぇ」

「弟子ってのはあんまり興味ないけど、あなたに刀を抜かせたって事実が欲しんですよ。それでたちまち僕はクラスのみんなに注目される!」

「そんなくだらないおままごとに付き合わせるなよ…それに不意打ちでもなく、ましてやオルブライトさんを巻き込めるわけでもなし、無理に決まってるだろ」

「…そこまで気づいてたんですね。さすがです。でも…それは気づけてないでしょう!やれ!」


男子生徒が命令すると、アキヒトの後ろの柱から火の玉が飛んできた。


「いや気づいてるから。気配全然消せてないし」


しかし首をひねるだけでその玉をかわしてしまう。


「まったく、次はもうちょっと考えて襲ってこいよ」


それだけ言い残して、アキヒトは自分の部屋に帰って行った。残された男子生徒は、ただただ立ち尽くしていた。


「くそ、いい気になりやがって…それに、リリィ・オルブライトまで…彼女は僕のものだ…邪魔はさせない…くく」

「あの、ヘーメル様…」


柱の陰から出てきた魔術科の生徒が、アキヒトに軽くあしらわれた生徒に声をかける。すると、不敵な笑みを浮かべていた男子生徒は怒りを隠す気もなく、その生徒を怒鳴りつけた。


「お前も外してんじゃねぇよ!今勝てなかったのはテメェのせいだからな!もういい、帰るぞ」

「は、はい、すみませんでした…」


そして、その2人もその場を去って行った。



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