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黒き剣と白き花  作者: ベンツ
魔法使いと竜
30/32

エストランドの姫君

空から女の子が降ってきました。そんなおとぎ話みたいなことはそうそう起こらない…はずなのだが、アキヒトたちの前で、実際に起きていた。アキヒトたちも人の身でありながら竜というファンタジーな存在なので誰もあんまり驚いていないようだったが。


「扉から出てきたってことは…王族、なんだよな?」

「だとすると、ベル・エストランド姫、ということになりますね。1人娘ですし」

「そうね。むしろそれ以外の誰かだった時の方がいろいろと困るわ。今も十分困ってるけど…」


その落ちてきた、恐らくはこの国の姫であるベル・エストランドだと思われる少女は、現在木の陰に隠れてしまっている。


「まぁいきなり目の前に知らない人間がいたら子供じゃなくても逃げるわよ」

「いやぁ8割マザーのせいだと思うけど…」


少女は何が起こったのかと周りを見回し、マザーと目が合った瞬間悲鳴をあげて隠れてしまったのだ。


「そりゃ目の前にいきなり竜が現れたらな…俺でもビビるわ」

「ですよねー…さて、どうしましょうか。とりあえず話さないとなにも進まないですよね?」

「そう、なんだが…いかんせん俺はガキの相手が得意ではない」

「ですよね。かくいう私も一人っ子ですし、小さい子の扱いはわからないのですが」


2人が悩んでいると、ふふんとリリィが得意げな顔をしていた。


「まずいな…つんだぞ」

「そうですね…どうしましょうか…」

「わざとらしくスルーしないでくださいよ!?」

「いや顔がムカついたから」

「ええ、非常に触れたくない顔をしていたので」


観賞用と言われるだけはある残念美人がリリィなのである。


「悪かったですね…とにかく!私はベッキーの妹ともよく遊んだりするのでそれなりに年下の女の子の扱いは慣れてますよ!」

「よし今からレベッカ連れてくるか」

「オルコットさんならきっと上手くいきますね」


無言で斬り捨てられた。


「り、リリィ…俺たちに攻撃を当てるなんてやるじゃないか…」

「は、速さで負けるとは修行不足ですね…」


峰打ちだったので本当にきれてはいなかった。


「まったく…とりあえずお話してきますね」


地面に倒れている2人を放っておいて、リリィは木に近づいていった。


「えっと、ベル姫、ですよね?」


腰を低くして目線を合わせるように話しかけるリリィ。子供の扱いに慣れているというのは嘘ではないようだ。


「ベルのこと、知ってるんです?」


名前を呼ばれ、木の陰から顔をだす。やはり少女はベル・エストランドその人だった。


「あ、やっと顔を出してくれましたね。はい、知っていますとも。私はリリィ・オルブライトと言います。イーストウェル学園の生徒で、一応貴族ですよ」

「オルブライト…豪剣のおじちゃんです?」


豪剣とは、リリィの父、アルバート・オルブライトの二つ名であった。身の丈ほどもある大剣を軽々と扱っていたためについた名である。


「え、父を知っているのですか?」

「はいです、お城であっことあるです」

「そうだったんですか…よく覚えておられましたね。合ったとしても、2年以上前になるはずですよね」

「ベル、覚えるのは得意です。あの、落ち着いてきて思い出したですけど、ここは竜の郷です?」

「あ、はい、そうですよ。ごぞんじだったのですね」

「お父様から聞いたことあるです。何か危ないことがあった時にくるですって。ベルが産まれた時にも来たです。さすがに覚えてないですけど」

「ああ、ちゃんと聞いてたんですね。どうやら姫様はその扉を開いてしまったみたいです」

「そうだったですか…ベルの部屋のクローゼットの中に扉があって、光っていたからなんだろうと思って開けてみたらいつの間にか落ちてたです」

「なんでそんなところに扉が…私たち国王陛下に話したいことがあってこちらから呼びかけていたんですけど…」

「お父様なら今日はお城にいないですよ?お隣の国に行って明日帰ってくるです」

「え、そうだったんですか?それは困りましたね…」

「おーい、なんか上手くいってるみたいだが、できれば俺たちも会話に混ぜてくれないか?」

「あ、すみませーん!姫様、あの人たちも味方なので、出て来てお話していただいてもよろしいですか?」

「はいです!」


木の陰からリリィに手を引かれて出てくるベル。もう落ち着いたらしく、怖がってはいなかった。


「初めまして、ベル・エストランドです。先ほどばお見苦しいところをお見せして申し訳ありませんでしたです」


そう言いながらスカートの裾をつまみ優雅にお辞儀する。さすがは姫なだけあって、慣れたものだった。


「お初お目にかかります姫様。風魔楓…ではなく、黒野楓と言います」

「どうも姫様。黒野秋人だ」


楓は膝をついて頭を下げていたが、アキヒトは突っ立ったままカケラも頭を下げる気配はなかった。


「ち、ちょっと旦那様!?少しは敬意を見せてくださいよ!」

「ん?あ、すまん。どうも礼儀作法には疎くてな。しかもガキ相手だしなふごぁ?!」


また地面に倒れるアキヒト。今度はリリィだけでなく、楓も手伝っていた。ついでにマザーも尻尾で地面に叩きつけていた。


「も、申し訳ありません姫様!主様が大変失礼な態度を!」

「今なら鉄人の気持ちがわかるわ…」

「まったくこの馬鹿息子は…レディにガキだなんて礼儀作法以前の問題だよ」

「あ、あの、私は気にしてないですから!大丈夫です!」


ワタワタと慌てるベル。目の前で刀と短刀で斬られた後、地面に叩きつけられた人を見たら仕方ないかもしれない。


「む、むしろちょっと嬉しかったです。子供扱いされたことなんてお父様お母様以外からはされたことなかったですから」

「ほ、ほら、姫様だってこう言ってるだろ?うむ、素直なガキは好きだぞ」


そう言いながら頭を撫でるアキヒト。次の瞬間にはまた地面に倒れていた。


「姫様がお許しになったからって調子に乗らないでください」

「レディの頭を簡単に撫でてはいけません。私の頭ならいくらでもどうぞ」

「お、お前らなぁ…」


あはは、とベルも苦笑している。


「そういえば、クロノアキヒトさんってことは、黒の剣、です?」

「ん?ああ、そんな風に呼ばれてるよ」

「あなたがそうなのです!お父様がお会いしたいと言ってましたです」

「王様が?なんで俺に…」

「でも、お父様は今日はお城にいないです。明日帰ってくるです」

「あ!そうでした!もともと今日は国王陛下には会えなかったみたいですよ」

「まじか…しかたない、明日またコンタクトを取ろう。悪いが姫様、王様に会ったら伝えておいてもらえるか?」

「はいです!ちゃんと伝えておくです」

「じゃあもう今日は遅いですし、帰りましょうか」

「そうですね。姫様もいつまでもここにおられるわけにはいかないでしょうから」

「……あ」


そこで、マザーが何かに気がついたように声をあげる。


「どしたのマザー?」

「いや、そのだな…エストランドの姫よ。お前はここのことをどれだけ聞いている?」

「ここのことです?危ない時に逃げるところで、私が生まれた時にも来たって聞いてるくらいです」

「ああ、あの時は本当に小さかったのに本当に大きくなって…じゃなくて、ここへの扉の開き方とかは聞いてないかい?」

「扉、です?ベルは光ってる扉を開けただけです」

「ああ、やっぱりそうかい…まずいことになったね…」

「……ああ!?そういうことですか…」


ここで楓も何かに気付き声をあげた。顔が少し青ざめている。


「ど、どうしたです?」

「…うぁ、そういうことか…確かに面倒なことになったな…」

「え、え?どうしたんですか?」


アキヒトも気がついたようだ。リリィは未だに気がついてない。


「い、いいですかリリィ。私たちはなぜ今日ここで何時間も待っていたか覚えていますか?」

「え、国王陛下に会うためでしょう?」

「そういうことではなくてですね、会うためだけならここと王城が繋がっているので出向くという選択肢もあるわけですよ。でもそれが出なかった」

「はぁ…?そりゃ、どこに繋がってるかもわからないし、都合よく国王陛下の前に出られるとも限らないからね」

「違うのですよ…思い出してください。私たちは出向くという選択肢を選ばなかったのではなく、選べなかったんですよ…」

「んん?つまりなんなのよ?」

「ここまで言ったら普通気づくでしょう…つまり、扉が開かないのです」

「……あ…」

「姫様を王城に帰す方法が、ないんですよ…」


ここに来てようやく、リリィも気がついて顔面が蒼白になった。唯一なにが起こっているのかわかっていないベルだけが、キョトンとしていた。


〜〜〜〜〜〜〜〜


結局、どうすることもできなかったので、しかたがなく一行はオルブライト邸に帰って来ていた。


「ひ、姫様、狭い屋敷で申し訳ありません」

「大丈夫です。小さくても綺麗なお屋敷です」

「…これが小さいお屋敷か…」

「…住んでた世界の違いを感じます…」


格の違いを感じて打ちひしがれていたが、そんなことをしている暇はないと話し合いを始めることにした。


「明日どうやって姫様をお城に帰しましょうか…というか、明日でいいんでしょうか?やはり今すぐ行った方がいいのでは?!」

「落ち着け。今行ったら騒ぎがさらに大きくなるだろ。というか、正面から堂々と帰すのはまずいと思うんだ」

「え、どういうことですか?」

「竜の郷、ですよね」

「あ、そっか…姫様がどうやって城の外に出たのか説明できないんですね…」

「そういうことだ」

「そ、それなら私がアキヒトさんたちは助けくれたんだって説明します!それなら大丈夫です!」

「そ、そうですよ。姫様がいてくださるなら問題ないですって!」

「実はそれ以外にも気にしていることがあってな…俺たちが姫様と接触したことを知られたくないんだ」

「そうなのです?」

「そうか…そちらの問題がありましたね」

「あー…なるほど。確かに大事にはできないんでしたね…」


もともと、王族の殺害を防ぐために国王に会おうとしていたのだ。それを陰ながら行うとするなら、アキヒトたちがどのようにしてかはわからないにしても、王族と接触したという情報を敵には与えたくなかった。アキヒトたちが計画を知っているということまで悟られるかはわからないが、なにかしらの警戒はされるかもしれない。王族の命に関わることなので、どんな些細なことでも心配のタネは残したくなかった。


「なにかあるです?私と皆さんがあってはいけないのですか?」

「あー、まぁちょっとな。その話は国王に会ってから決める」


また、ベルに話すことも躊躇われた。このままいけばなにも起こさずに事を終えられるはず。それなら、自分の命が狙われているなんてことは知らなくても良いのではないかとアキヒトは考えていた。他の2人も同じように考えていた。その辺りは、国王の判断を仰いだ方がいいだろう。


「となると…どうするんですか?」

「国王は明日エストランドに帰ってくるんだよな?」

「はいです。明日のお昼頃だと聞いてるです」

「なら、そこに直接姫様を届けるしかない、かな…」

「え、それはかなり難しいのでは…?国王陛下の警備となるとかなり厳重でしょうし…」

「だよなぁ…いや待てよ、国王は俺に会いたがってたんだよな?」

「黒の剣がイーストウェル学園の教師になったと聞いて嬉しそうにしてましたです」

「なんでかはわからないが、それを利用させてもらうか」

「でも、それじゃ結局私たちが王族と接触したとバレてしまうのでは?」

「国王の側近たちに内通者がいない事を願おう…それと、街の人たちにも気がつかれたくないから塀の外で待ち伏せようと思う」

「それなら、なんとかなりますかね…相変わらず難しいことには変わりありませんが」

「それしかないですからねぇ…」

「とにかく、今日はもう遅い。姫様ももう限界みたいだからな」


ベルの方を見ると、さすがに眠たくなってきたのか、頭がカクンッと船を漕いでいた。目もほとんど開いていなかった。


「あらら。姫様、寝室に案内します。寝巻きは私の昔の物を用意しますね」

「ふぁいです…」

「リリィ、私も手伝います。では主様、おやすみなさい」

「ああ、おやすみ」


2人でベルを支えながら寝室に行ってしまった。


「はぁ…そうそう思い通りにことは進まないな。まったくめんどくせぇ…」


1人になって愚痴をこぼすアキヒト。ふと、行方不明のアリスのことを思い出した。


「そういやアリスがいればもっと楽にことが済んでたんだよなぁ…どこいきやがったんだか」


それと同時に、楓に言われたことも思い出す。


「…助けて、ママ…なんてな」

「アキ坊今ママを呼んだ!?」

「うおわぁ?!」


冗談で言ってみたら本当にアリスがなにもない空間から飛び出してきた。


「あ、アリス?!ど、どうしてここに?」

「今アキ坊に助けを求められた気がして!」

「なにそれ怖い。き、気のせいだって」


アキヒトに助けを求められて興奮しているのかいつもの間延びした感じの喋り方でもなかったことから本気度が伺える。


「あれー?確かに助けて、ママ!ってきこえたんだけどなー。勘違いなら行くねー」

「あ、いや待て。どうせなら手伝って欲しいことがあるんだが…」

「それはー、どうしてもママがいないとダメー?」

「いや、まぁなんとかなるとは思うんだが」

「それなら今回はアキ坊が頑張ってー。ちょっと今忙しいのさー」

「そうなのか?いや最近確かに姿は見なかったが、なにしてるんだ?」

「ちょっと昔馴染みとねー。まぁ気にしない気にしなーい。じゃ、頑張るんだぞ☆」

「あ、ちょっ…」


それだけ言い残してアリスはまたどこかに行ってしまった。いつもと少し違う様子に、アキヒトは少し違和感を感じていた。


「なんだったんだ…?まぁ、アリスも忙しいこともある、か…寝よ」


その違和感を気のせいと思い、寝る事にした。明日は、王様の相手をしないといけないのだ。休むことは必要だろう。


「あーあ…めんどくせ」

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