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黒き剣と白き花  作者: ベンツ
第1章 白き花
3/32

実力

入学式典も終わり、それぞれの生徒は自分のクラスへ移動している。レベッカは魔法、それも回復などのサポートを主に得意としている生徒が集められたクラス。リリィは剣士が集められたクラス。剣士のクラスは実力ごとに3つに分けられているが、その中でも1番上のAクラスである。


「じゃあねベッキー、お互い頑張りましょう」

「ええ、また後でね」


レベッカと別れ自分の教室に入るリリィ。そこにはすでにそれなりに生徒がいた。やはり、Aクラスなだけあり、皆腕はそれなりにあるようで、様々な闘気が渦巻いていた。

そこに、生徒ではなく、赤髪の女教師もやってきた。


「うし、出席とるぞ…って、なんだお前ら暑苦しい。たかだか教室に集まるくらいで闘気出してんじゃねぇよ。ちょっとは落ち着きやがれ」


教師にそう注意され、何名かは少し恥ずかしそうに、何名かはつまらなそうに、そして何名かは表情も変えずに、それぞれが闘気をしまった。ちなみにリリィはつまらなそうにである。脳筋万歳。


「それでいい。まぁ安心しろ、後で面白い余興があるからよ。んじゃ出席を…めんどいな。えーっと、ひのふの…うん、50人いるな。はい出欠確認終わり。それじゃ、軽くこの学園の決まりについて話していくぞ。と言っても、そんな堅苦しい決まりはない。殺しさえしなければ決闘も何も自由である。むしろ多いに決闘し、腕を磨いて、二つ名を目指してくれ」

「二つ名って、この学園の1位から10位、番持ち(ナンバーズ)にのみ与えられる二つ名、ですか?でも確か番持ちって先生方も入ってるんじゃ…」

「その通り。1位は学長、二つ名は『英知の結晶』。しかし、ここ2、3年の間に4位、6位、7位、9位、10位と、半分が生徒になっちまったんだぜ?私も5位だから1人生徒に抜かれちまったよ」

「へー、先生ってそんなに強かったんだ」

「馬鹿お前知らねぇのかよ。イーストウェルの『赤き獣』って言ったら有名だろうが」

「その通り。私は序列5位、『赤き獣』ローズ・フィールディングだ。いつでも決闘を受け付けているぞ」

「1位が学長ってことは…クロノ先生は番持ちじゃないんですか?それとも2番目?」

「俺はそういうの興味ないし、どうでもいいよ」

「へー…ってええっ!?く、クロノ先生いつの間に!?」


教室中の生徒が驚きに満ちた表情になった。教室の前の方に、アキヒトは普通に座っていたのだ。だが、ほとんど気がついた者はいない。


「お前ら、修行が足りんぞ。さてクロノ、何人くらい気がついていた?」

「5人、ですね。そこで突っ伏して寝てる奴と、1番前の席に座ってる金髪の少年、それとその横の…メイド?なのか?まぁその女と、白い髪の大剣使いのおじょうちゃんに…今さっき質問して驚いてるふりしてた女の子だな」

「あら?ばれてましたか〜。さすがは黒の剣さんですね!」


にしし、と猫のように少女は笑っていた。他に指摘されたメンツは特に気にしている様子はなかった。1人を除いては。


(一度感じたことなかったらわからなかったわあの気配…相変わらず見えてるのに感じにくいわ…)


事実、リリィがアキヒトに気がいたのは教室に入ってからしばらくしてからのことであった。普通に教室に座っていることに気がついた時は本当に驚いた。


「5人か。まぁそんなもんかね。あとクロノ、お前には序列説明しただろうが。お前は序列0番の特別枠だ」

「あれマジだったんすか…」

「当たり前だろうが。そうでもしないとお前は真面目に働かないだろ」

「あのー、序列0番ってなんですか?」

「特別枠、ってやつだ。まぁまず黒の剣に勝つことができる新入生はいない。これから思いっきり痛感することになるだろうがな。そこでだ、本来なら武器を抜いて相手に攻撃をしかけていいのは、決闘を申し込み、それを相手も受理した時のみであり、それ以外の不意打ち、闇討ちなどで倒したとしても、勝ちは勝ちだが記録としては残らないことになっている。だが、クロノの場合は、不意打ち、闇討ち、騙し討ち、共闘、罠、などなど、いついかなる時でも襲いかかってよい」

「マジかよ…なら行けんじゃね?」

「そんな恐ろしい真似、僕はごめんだね」


何名かがそれなら余裕、というような雰囲気の中、1番前の席の先ほどの金髪の少年が口を開いた。


「たとえ不意打ちだろうとなんだろうと、あの黒の剣に斬りかかっていくなんて、命がいくつあっても足りないよ」

「うん、まぁそうだろうな。そう思うやつも確実に出てくる。そう思ったからこそ、もう一つルールがある。クロノは、剣を抜かない。もしクロノが少しでも剣の刃を見せた場合、その時点で勝負はクロノの負け、晴れてクロノの弟子となれる」


クラス中の5人の生徒以外が、ほとんど会話についてこれていなかった。命がいくつあっても足りない?剣を抜かない?何を言ってるんだこの人たちは、と。


「なるほど、それなら最小限の被害でおさまりますね。しかし弟子入りできる、ですか…なかなか魅力的な提案ですが、それなら僕がクロノ先生を襲うことはないですね」

「ま、そうだろうな…おっと、さすがにほとんどの奴が意味がわからないって顔してるな。百聞は一見にしかずってやつだ。今から演習場に移動するぞ」


〜〜〜〜〜〜〜〜


場所は変わって演習場。

そこに、1人でぽつんとアキヒトは立たされていた。


「刀を抜かない、か…あの5人が一斉に来たらちょっと厳しいかもなぁ」


などと言っていると、演習場入り口の方でローズの声がした。


「よし、それではこれからクロノの実力をその目で確かめてもらう。我こそはと思うものはいるか?複数人でも構わない」

「俺が行く!なんでもありなら1人で余裕だぜ!」

「そうか、ならお前からだな行ってこい」

「へっへー!任せとけって!」


クラス中の生徒が思った。なんて小物くさい雰囲気と喋り方のやつなのだろうか、と。


「来たか。お、1人じゃん。楽でありがたい」

「へへっ、先生よろしくお願いしますね」


と言って、小物君は握手するように手を差し出した。


「……ああ、よろしく」

「引っかかったなヒャッハー!」


アキヒトが手を握ろうとした時、小物君は袖の下に隠していたナイフでアキヒトに斬りかかった。が、


「…あら?い、いない?」


目の前からアキヒトが消えていた。


「馬鹿じゃないのかお前。わかりやすすぎるんだよ」


声は真後ろから聞こえていた。いつの間にか移動されていたのだ。そしてそのまま首に手刀をうたれ、小物君は気絶した。


「は、速すぎじゃない?いくら相手があの小物っぽいやつだからってあんなに簡単に不意打ち…になってたかは知らないけど避けるなんてさ」

「確かに、移動スピードは尋常じゃないな…てかあの小物君誰だよ。うちのクラスじゃなくね?」

「…ん?あ、本当だ。誰なんだよあれ」

「なんだ弱すぎると思ったらさすがにAクラスの子じゃないのね。なら次、ちゃんとAクラスのやつで挑みたい人」

「わ、私スピードならそこそこ自信あるから、行きます!」


そして、今度は細い刺突剣を持った女生徒の番である。


「それでは先生、よろしくお願いします」

「別に不意打ちでいいのに」

「いえ、それは私の騎士道精神に反しますので。では、まいります!はぁぁぁぁあ!」


気合の声とともに、なかなかのスピードで突きが繰り出される。一つ一つ正確に放たれる突きであったが、


「まだまだ遅いよ。目で追える」

「そ、そんな…!?」


アキヒトはいともたやすく全てを避けている。しかも、全力で突きを放ち続ける女の子は徐々に疲労とともにスピードが落ちてきているみたいだが、アキヒトの方は息の乱れ一つなかった。とうとう刺突剣の動きが止まり、女の子がへたり込んだ。


「あ、当たらないわ…完敗、です」


と言って、とぼとぼとクラスメイトの方に帰ってきた。


「すげぇ、マジで速い…」

「やっぱり実力は本物なのかな…」

「なら、今度はパワーで勝負!俺が行くぜ!」

「おいおいパワーで勝負なんて避けられておしまいだろうが」

「大丈夫だって。クロノ先生!一つお願いがあります!」

「避けずに力勝負しろってか?」

「さすが先生!いいですか?」

「……いいよ、避けないってのは守ろう」

「本当ですか!ならいきますよ!」


そう言って獲物を思いっきり振りかざした時、


「でも力勝負ってのは疲れる。ていうかもうこの企画自体がめんどくさくなってきたから…いい加減終りにしようか」


瞬間、場の空気が一気に変わった。その場の全員、動きが止まった。アキヒトから放たれる威圧感で、身動きが取れないのだ。


「な、なんだこれ…あ、足が、震えて動かねぇ…」


まさに蛇に睨まれた蛙のごとく、威勢のよかった少年も立ちすくんでいる。


「出血大サービスだな。クロノの本気の威圧感だ。私でも動くのが精一杯で、嫌な冷や汗がら出てくるぜ…」


序列5位のローズでさえこの状況。しかし気絶するものがいなかったのはさすがはAクラス、といったところか。


「と、まぁこんなもんだ。もう挑んでくる奴はいないな?」


ふっと、重力が弱くなったかのように全員体が軽くなった気がした。そしてやはり、誰も手をあげるものはいなかった…と思われたその時、すっと手をあげた少女が1人いた。


「お、なんだお前、あれを体験してまだ挑むつもりか?」

「いえ、ローズ先生、挑む必要はありません」

「あ?どういうことだ?」

「ですよね、クロノ先生?」

「あー…やっぱり今朝の子か…」

「はい、先ほどは失礼いたしました」

「なんだお前、クロノと知り合いだったのか?」

「いえ、今朝たまたまあっただけです。その時に…私、刀抜かせてるんですよ」


………


しばらく沈黙が続いた後、


「「「な、なんだってー!??」」」


クラスメイトは、漫画みたいに綺麗に揃って叫んでいた。




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