アキヒトの休日
休日のオルブライト邸。庭の木の陰でアキヒトは昼寝していた。
「休みは暇だな…リリィも楓もどっか行ってしまったし」
この間働くと口にしただけで弟子(妻)たちにひどく驚かれたので以前よりも真面目に働くようになっているため、休日がより暇に感じるようになっていた。
「アリスが普通に帰って来て2人ともビクビク過ごしてるからなぁ…俺の近くにいなけりゃ平和に過ごせるからどっか行ったんだろうけど…暇だ。寝るくらいしかやることがない」
「2人がいたら何して過ごすんですか?」
「てきとうに会話しながら…寝てるかな」
「あんまり変わらないじゃないですか」
「話し相手がいるといないでは結構違うもんだ…というか、本当に普通に会話に参加してくるよなお前」
「前も言いましたけどどうせ気づいてるからいいじゃないですか」
いつものように突然現れていたレベッカ。普通に入って来ただけなのだが。
「で、俺になんかようなのか?」
「いえ、ただ暇だったので遊びに来ただけです。そしたら庭に先生が見えたので」
「そうか。残念だが2人ともいないぞ」
「みたいですね」
「……」
「……」
サァーっと風で木々が揺れる音のみが聞こえていた。2人は会話していなかったが、なんだかいい雰囲気だった。
「…腹減ったな」
「あ、パン買って来たんですけど、食べますか」
「まじか。いただこう」
「どれがいいですか?」
「1番食いごたえのありそうなやつで」
「じゃあこのカレーパンで」
「サンキュー。あぐあぐ…ぐっ」
「あーほら、寝ながら食べるから喉に詰まるんですよ。はい、お茶です」
「んぐっ、んぐっ…ぷはっ、あ、危なかった…」
「ちゃんと座って食べてください」
「そうするわ…にしても、このパン美味いな」
「ですよね。評判のパン屋さんなんです。今度教えてあげますね」
「おー、頼むわ」
2人で暖かい日差しのなか、ピクニックに来たカップルというかもはや夫婦かな?というような雰囲気を醸し出していると、突然何もないところから抗議の声が上がった。
「なんなのかなー?さっきから見てれば随分いい雰囲気でさー」
「わ、びっくりした。えっと…アリスさん、でしたっけ?いたんですね」
「そいつはどこにでもいるしどこにでもいないんだよ」
「へー」
「反応薄いなー…もうちょっと驚いてくれてもいいんじゃないかなー?」
「先生の周りには不思議な人が集まるみたいですから。ところで…アリスさんってそんな話し方でしたっけ?」
「あ…」
「なんかいつもはもっと明るくハツラツとしてるイメージがあるんだけど」
「い、いやいや!ちょっと2人が緩やかーな雰囲気だったからなんか調子狂っちゃったの!アリスちゃんは今日も元気いっぱいです!」
アリスは学園にいるときは周りに正体がバレないように普段とは違ったキャラクターを演じている。明るいアイドル的な感じだ。
「…ぷっ」
「あきぼ…クロノ先生?何笑ってるんですか?」
「いや、なんでもない…」
たまらず吹き出してしまったアキヒトだが、アリスの目が笑っていなかったためすぐに真顔に戻った。
「アリスさんはどうしてここにいるんですか?」
「え、えーっと…ほ、ほら、リリっちとカエデっちとは同じクラスだし結構仲良いから遊びに来たんだ!」
「私と一緒だったんですね。あ、ごめんなさいアリスさん、私名乗ってませんでしたね。レベッカ・オルコットと言います。リリィの幼なじみなんですよ」
「あ、あーそうなんだ。ところで、なんで私のこと知ってるの?」
「アリスさんは有名人ですからね。その、見た目的な問題で?」
「やっぱり可愛すぎるのは罪だねー」
「ええ、本当に可愛らしいですよね、アリスさん」
「らしいってつけるとなんか子供扱いされてるらみたいに感じるなー…」
しかし、レベッカは全く悪意なく言ってるのがわかるので怒れなかった。
「ふぅ、ごちそうさまでした」
「そして先生は普通に食事続けてたんですねー…」
「まだ食べますか?」
「いや、もういいや。それより昼寝再開するわ」
そう言ってレベッカがいるためアリスが暴走することもなさそうなのでアキヒトは穏やかな気分で昼寝を再開した。
「そうですか、では失礼して…」
レベッカは寝転がったアキヒトの頭を自分の膝に乗せた。
「ちょ、いや、何してるのかなー?」
「?何がですか?」
「何がって…なんでー、オルコットさんがー、膝枕をー、しているのかなー?」
あまりにも自然にそうしたのでアリスはキレ気味だった。
「直接だと髪の毛に草とかついちゃうじゃないですか」
「…うん?」
「だから草がつかないようにしてるんです」
「…あ、はい」
しかし下心のない100%善意で行なっているレベッカに戦意と殺意とその他色々なものを喪失した。
「で、でも、普通は膝枕って男の人にするのは嫌じゃない?」
「そうですか?先生以外にしたことないんでわかんないですけど、特に嫌じゃないですよ」
ナデナデ
「な、なんで頭撫でてるのかなー?」
「寝てる先生って可愛くないですか?犬みたいで」
「い、犬かー…そっかー…やりにくいわーこの子…」
「あれ、どこ行くんですかアリスさん?」
「ちょっと本来の自分取り戻して来る…」
そう言ってどこかに行ってしまったアリス。行き先はリリィと楓のいる竜の郷であった(前話参照)。
「…すげぇ、アリスが戸惑ってた」
「あれ、起きてたんですか?ていうか、なんか言いましたか?」
「いや、なんでもない…とりあえず、平穏をありがとう」
「はぁ、どういたしまして?」
その後、なぜか鬼気迫る感じでリリィが帰って来るまでこの穏やかな時間は続いた。
この日からレベッカ・オルコット最強説がアキヒトたちの中で唱えられることとなった。