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黒き剣と白き花  作者: ベンツ
間章 2
25/32

ある休日

ほのぼのとした休日のお話。


(辻褄合わせ回とも言う)

竜の郷のマザードラゴンのいる広場。この日は天気も良く、心地よい日であった。


「竜の郷の空気っておいしいわよねぇ」

「そうですね、癒されます…」


リリィと楓はマザードラゴンに寄りかかり、気持ちよさそうに昼寝していた。


「…いや娘たちよ、そう言ってくれるのは嬉しいんだけど、休みの日の昼間っから若いもんが何やってるんだい?」


思わずマザーが突っ込むほど2人は縁側で日向ぼっこを楽しむおばあちゃんみたいな雰囲気だった。


「だって、落ち着ける場所が今はここしかないんだもん…」

「ええ、マザーがいればあの人も暴れることはきっとたぶんおそらくないでしょうし…」


2人はどこか遠い目をしていた。


「どうしたんだい本当に…落ち着いてるカエデはともかく、元気が取り柄のリリィまでそんなになるなんて」

「誰が元気だけが取り柄なのよ!」

「誰もだけなんて言ってないだろう…情緒不安定になってるじゃないか…」


ぼーっとしていたかと思えばいきなり勘違いで怒りだしたりと、確かに情緒不安定だった。いつものような気もしないではないが。


「それで、何があったんだい?」

「はぁ…アリスさんが帰ってきたの…」

「そうなんです…」


そして今度はずーんと暗くなる2人。マザーもああ…とげんなりしている。


「なんだい、あいつはもう帰ってきたのか。やることがあるとか言ってどこかに消えてたんじゃないのかい?」

「私もそう聞いていたのですが…どうなってるんですかリリィ」

「私も知らないわよ…なんか用事があった人が忙しかったらしくてまた今度ってことになったらしいわよ」

「そうかい…で、2人はそれでここに逃げてきたってわけかい」

「だって旦那様って呼ぶだけで剣が目の前に飛んでくるんですよ…最近では師匠としか呼んでないです…」

「というか主様の近くに控えているだけでも無言の圧力が半端ないんです…気配を消していても気づかれますし…忍としての自信もなくしそうです…」


2人はどんどん暗くなっていった。


「まったくあの親バカは…アキヒトもちゃんと自分の嫁くらい守ってみせなさいな」

「ダメですよ…あれ以上私たちをかばったら旦那様が死んじゃいます…」

「ええ…主様は相当頑張ってくださってます…」

「そ、そうなのかい…」


2人が暗すぎてマザーまで気が滅入ってきた。


「ほ、ほら、今日にでも私が言っといてやるから、元気出しなさいな」

「本当に?」

「ああ、あいつだって竜なんだから一応私には逆らえないのさ…あんまり従いもしないけど…2人に手を出させないくらいはなんとかしてみせるさ」

「お願いします、マザー!」

「さすがマザー!大好き!」


2人してひしっとマザーの大きな体に抱きつく。若干幼児退行しているみたいであった。


「そういえばマザー、アリスさんって100歳超えてるって本当…?」

「ん、どうだったか…確かに古くからの知り合いだからねぇ。超えててもおかしくはないね」

「なぜそんなにも生きている人が知り合って10年しか経っていない主様にあんなに入れ込んでいるのか…」

「ああ、それはね、あいつとアキヒトの間に竜になった人間はいなかったからさ。最初はただ同じ境遇の人間がいて嬉しかっただけだったと思うけど、そのうち必要以上の愛情を抱くようになったんだろうねぇ…アキヒトもアリスには懐いていたしね」

「アリスママだもんねぇ…」

「主様の子供時代…少し話は聞きましたがほとんど想像できませんね」

「ねぇマザー、旦那様がここに来たのって確か旦那様の村で突然暴れ出した黒竜さんを倒すために1番強かった旦那様が戦って倒した時に血を飲んだからって言ってたよね?」

「ああ、何も知らずに竜になったみたいだね」

「10歳って言ってたし、やっぱり泣いてたりしたの?」

「いいや、泣きはしなかったね。少なくとも私の前ではね。アキヒトは私には懐いてなかったからねぇ」

「え、そうなんですか?」

「ああ、10歳ながらにして立派な剣士だったからね。自分の村を襲ったのと同じ竜を警戒してたんだろう。だから、同じ竜になったアリスにはなにか感じてたんだろうね…」

「そうなんですね…主様のお師匠様がいたら主様は竜にならずに済んだのでしょうか…」

「え、旦那様の師匠?なにその話?」

「村には旦那様のお師匠様が普段はいたそうなんですが、ちょうど仕事で外に出ていたときに竜が暴れ出したからしかたなく旦那様が討伐、というより時間稼ぎに向かったそうですよ」

「へー…でも旦那様は圧倒的に強かった、ってことなのね。10歳でって本当何者なのよ…」

「いえ、それも違いますよ?」

「違うって、何が?」

「主様も私と同じで殺してくれって頼まれたって言ってましたけど…」

「…マザー?なんか聞いてた話と違うんだけど?」

「いや、実は私もあんまり懐かれてなかったから詳しいことは聞いてなくてね…半分以上推測で話してたのさ」

「本当に懐かれてなかったんですね…っていうか、なんでカエデにはそんな簡単に話してんの?なんなの?さっそく私いらない子?」

「い、いや、きっと同じ境遇だったから話してくださっただけでしょう…なのでリリィもそんなにやけにならないでください刀しまってください!」


リリィはいつぞやのアキヒトのように刀で自害しようとしているのを楓に止められていた。10分ほどかけてなんとかリリィら落ち着き、もとの話に戻ってきた。


「でもさ、旦那様結局そのあと人間が竜の長なんて認められるかーって言ってきた竜さんたちを返り討ちにしちゃったんですよね?ならやっぱり強かったんじゃ?」

「そうなのですか?本当に10歳で竜を倒せるだけの力を持っていたんですね…」

「それもちょっと違うんだなー」

「また違うの…旦那様の過去謎すぎ…」

「主様普段はあんまりご自分のことお話にならないですからね…」

「しかーし、私は全部知ってるんだなー」

「え、そうなんですか?教えてくださいよ、アリ…ス…さんンンンン!?」

「な、えっ?!い、いつの間に!?」


いつの間にかアリスがリリィと楓の間で2人と同じようにしてマザーにもたれかかって寝転がっていた。


「その空間転移で突然現れるのやめてくれないかい?気配を消すとかでなく気配が全くないところからいきなりだと割と心臓に悪いんだよ」

「どーせそんなことじゃ死なないし大丈夫だってー。で、アキ坊が竜の長に認められたときの話だっけ?」

「え、あ、はい、だん…師匠が文句を言ってた竜を倒したって聞いてたんですが」

「10年前のアキ坊じゃきついかなー」

「では、実際は何が…?」

「うん、私が全部返り討ちにしたのさー」

「「ああ…」」


アリスママが割と早い段階で完成してたんだなーということ以外は一瞬で納得した。


「あの頃も可愛かったなー。周りは竜しかいないからずっと私の後ろついて来てたんだよー」

「そ、そうなんですね…想像できない…」

「マザー、一応聞くけど本当なの?」

「ああ、本当だよ。アリスママアリスママってうるさかったからね」

「それは…こうなってもおかしくないのかなぁ…?」

「度が行き過ぎてるとはいえ…仕方ない部分もあるかもしれませんね…」

「それが…今では…うう…」


アリスが泣き出しそうになっていた。見た目幼女なので中身を知っているリリィと楓ですら焦った。


「ど、どうしたんですか?ほら、私たちを追い払う時みたいにめちゃくちゃなことしないんですかー?」

「そ、そうですよ、あの目の笑っていない笑顔はどうしたんですか?」


ちょっと恨みが入って本音が出ちゃってるが慌てて慰め始めた。


「うう…あのレベッカとかいう女…なんなのさー…」

「…え、ベッキーですか?ま、まさか、殺っちゃった…?」

「オルコットさんは戦闘力はほぼ皆無ですよ…アリスさんに目を付けられたら…」

「殺ってないよ…生徒で私の正体知ってんのはリリっちとカエデっちくらいだもん…ああ、2人が癒しに見えるよー」

(おお…?まさかの親攻略フラグ?)

(これは、何があったか知りませんがオルコットさんに感謝しませんと…!)

「2人なら私の正体知ってるから何も気にせずに全力で殺りにいけるから気が楽だよー…」

「今すぐベッキーをなんとかしてみせますのでご勘弁を!」

「私の忍としての人生をかけてどんな手を使ってでも解決してみせます!」


2人は少し前よりもたくましくなっていた。


「おおー、友達を切り捨ててまでも点数稼ぎに来るとは本気だねー2人ともー」

「あ、いえそれは…というか、さすがにバレてますよねー、旦那様とのこと…」

「2人ともアキ坊のお嫁さんなんだってねー?リリっちは前からみたいだけど、カエデっちはついこの間からだよねー?」

「う…は、はい、主様に拾っていただき、今はカエデ・クロノと名乗らせてもらってます…」

「そっかー名字も変えちゃったかー。それは私より怒る人がいそうだけど…あ、やばい事実確認したら殺意が湧き上がってきたよー」

((あ、死んだわ))


最近ちょくちょく命の終わりを覚悟する2人。しかし今回は協力な味方が付いていた。


「アリス、お前もいい加減息子離れしないか。いいだろ、アキヒトが自分で選んだ2人なんだ」

「でもさー…やっぱりアキ坊には私くらい強くて可愛い子じゃないと似合わないってー」

「可愛いは作れる…けど、ちょっとアリスさんにかなうくらいになるまで強くなるのは時間がかかるか…一生無理な気もせんでもないような…」

「…なら、アリスさん、ここで一戦交えさせてもらえませんか?」

「え、カエデ…?死ぬの…?」

「おー?この前手も足も出なかったのにー?」

「今の私なら、力を借りればあなたに擦り傷くらいなら入れてみせます」


そういって自分の胸に手をやる楓。あの日以来楓の中の黒竜とはいい関係を築けているらしい。


「ほー、言ったねー?」

「主様とともにいることを認めてもらうためなら、かけるものが命でも惜しくありません」

「…エストランドの人間ってのはこの前会ったばかりの奴でも命がけで愛せるってのはなかなか頭逝ってるね…」

「マザー、何か言った?」

「いや、なんでもないよ。で、アリスはどうするんだい?本当にやるのかい?」

「んー…よし、ごーかーく」

「…え?」

「カエデっちの目は嘘ついてる目じゃないしねー。明確な強い意志を感じたよー。まーそこまで言えるならそばにいるくらいは許してあげるよー」

「ほ、本当ですか!?」

「やったよカエデ!これで命の危険なく旦那様のそばにいれるよ!」

「うんうん、いい顔だねー。ただしリリっち、てめーはダメだー」

「…ですよねー…」

「一生無理とか言ってたしさー?そんな軟弱者、アキ坊には相応しくないねー」

「うぐ…た、確かに軟弱者かもしれませんが…」

「今やっぱり殺っちゃおうかなー…」

「考え方極端すぎますって!?べ、ベッキーなんとかして点数稼がしてください!!」

「自分で点数稼ぎって言うのかい…」

「リリィ…なんか小物臭がしますよ…」

「やかましい!認められたからって調子に乗るなよ!」


そう言って門を開いて帰っていくリリィ。


「やる気だねー。どーなるか見てこよー」


アリスも空間転移で消えてしまった。


「まったく、騒がしい娘たちだね」

「元気が良くて羨ましいです……あ」

「うん?どうしたんだい?」

「……私、門を開くことも空間転移もできないんですけど…マザー、開けます、よね?」

「……誰かが気づくのを待ってなさい」

「…えー…」


アリスのことも結局何もしてないし、実はあまり役に立たないマザードラゴンであった。

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