表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
黒き剣と白き花  作者: ベンツ
忍と竜
22/32

黒幕

時はその日の朝まで遡る。

特にカエデの力制御の具体案が思いつかなかったため普通に過ごそうとなり、学園に3人で登校してきた時である。


「…なぁ、あれは本気でやってんのか?」

「…恥ずかしながら…」

「へー…」


アキヒトとリリィはマジで?みたいな驚いた顔をしており、カエデは恥ずかしそうに頭を抱えていた。


「忍って言ってんのに全然忍べてねぇじゃん」

「ですね…気配だだ漏れどころか、ちらちら姿見えてますし…」


その理由は少し離れたところの木の陰にいた。


「なぜ、自分で偵察に来ようと思ったのか…」

「本気で認めてないんですよ、自分の才能のなさを…あのダメ長…」


木の陰にいたのは、コノハだった。どうやらこっそりとアキヒトたちを監視しているつもり、らしい。


「おやおや、師弟そろって登校なんて仲良いですね。それとも、カエデさんも奥さんになったんですか?」

「あ、ベッキーおはよう。今はまだ妻は私だけよ」

「おはようリリィ。ほうほう、まだ、とつきますか…」

「昨日から怪しいのよ…」

「朝っぱらから頭痛のする話はやめろ2人とも。楓も困ってるだろうが」

「あ、いえ、私は別に…」


別に、と言っている割には顔が赤かった。


「ところで、あっちの人も知り合いですか?」


レベッカがコノハのいる木の方を指差す。すると、慌てて身を隠すコノハが見えた。うん、見えた。


「指をさすな。一応、こっちをこっそり監視してるらしい」

「はぁ、こっそり、ですか?自分で言うのもなんですけど、私武術関連はからっきしですよ?あの人、本当は見つけてほしんじゃないんですか?」

「やめてくださいオルコットさん…傷口に塩を塗りこまれてる気分です…本当にお恥ずかしい…」


治癒魔法以外はほぼ一般人のレベッカにまでそう言われ、カエデは頭を抱えてしゃがみのんでしまった。


「え、あの、なんかごめんなさい…?」

「謝んなくていいよ…ていうか、さすがに指差したら気づかれたと思うと思ったんだが…」

「…oh」


リリィが変な驚き方をしていることからわかると思うが、コノハはなお同じ木の陰からこちらを見ていた。


「なんかもはや面白くなってきました」

「マジで東国の世襲制ってのは困りものだな。あれが跡継ぎとかさ」

「お爺様は木葉が風魔を背負うことになったら少しは成長すると思われていたみたいなのですが…見ての通りなんです」

「だからって、なぁ?」

「あとは、忍の仕事も少なくなってますからもはや必要とされなくなってもいいやとも言ってました」

「そっちが本音だろ!?かなり投げやりだな!」

「そもそも、私たちが表社会に出てきたのも別に普通に戦っても使えることを見せつけることじゃないんですよね、本当は。忍として以外の生き方を探すためなんですよね。パン屋でもなんでもいいからと」

「意外に平和主義なんですね、フウマの一族って」

「なんか源十郎とは気があう気がしてきた」

「そ、それならば今度先生のことをお爺様に紹介いたしますよ?一線を退いて暇だともおっしゃってましたから」

「暇だって…なんか思ってたイメージとゲンジュウロウさんとの性格が違うんですけど…あと、紹介はしなくていいです。私が許しません。家族に紹介とか、見え見えすぎて危険です」

「べ、別に深い意味はないですからね?」


リリィの警戒心はほぼマックスだった。


「なんか大変なんですね、カエデさんのお家も。あ、私教室あっちなんで、それじゃまたお昼に」

「ん、じゃあなレベッカ」

「じゃあねベッキー…やっぱちょっと待て」


ガシッとレベッカの肩を掴むリリィ。


「え?なに?ってか痛いんだけど?あんたまた力強くなった?」

「レベッカってなに?ねぇ?この前まで旦那様オルコットさんって言ってたわよね?喋り方もフランクになってるし?ん?どうした?言ってみ?」

「え?この前もっと先生と仲良くしたいから頼んだんだけど?」


リリィの本気の威圧を全く気にせずに普通に答えるレベッカ。一般的な人なら絶対に正直には答えられません。


「くぁぁ…なんてこと…旦那様の魅力にいけない虫がたかり始めたわ…」

「リリィさん、いけない虫とは私たちのことですか…?」

「友人を虫扱いって酷くない?あ、もう本当にいかないと遅れちゃうから、じゃあね」


1人悶絶するリリィ。こう見えて悩みが多いみたいです。


「そうだ、楓。どうせ後でお前にコノハが接触してくると思うんだが…せっかくだから利用してやろう」

「利用、ですか?」

「ああ、それはな…」


〜〜〜〜〜〜〜〜


「ってなわけで、利用させてもらいました。いや、ここまで思い通りにいくと演技した甲斐があるわ」

「本当に、あっさり引っかかってくれましたね、このダメ長は…やはり、あなたに当主の座は荷が重すぎる」

「くそが…どこまでも俺を馬鹿にしやがって…」


口では悪態をついているが、首筋に刃を当てられているため、身動きは取れずただただアキヒトを睨みつけるコノハ。


「てなわけで竜の力は諦めろ。今ので完全にお前に従うやつはいなくなっただろ…っ!?楓、避けろ!!」

「え…あぐっ…!?」


飛んできたクナイがカエデの腕に刺さった。コノハに集中しており、なおかつもう終わりだと油断していたため、避けることが出来なかったのだ。


「ちっ…リリィ!アリスから離れんなよ!」


呆然としているコノハを押しのけ、カエデを抱えて後ろに飛び去る。リリィも慌ててアリスの後ろに隠れる。幼女の後ろに隠れる姿は割となさけなかったが、アリスも真剣な目をしていてちゃかすとこはない。


「なんなのかなー君達はー。こんな情けない当主を見てまだ見方するわけー?」


カエデにクナイを投げたのは先ほどリリィとアキヒトにやられた忍の集団の中の忍だった。しかし、先ほどまでのやる気のない雰囲気とは違っていたため、アキヒトたちは警戒していた。


「は、はは、いいぞお前ら、それでこそ風魔のしのび…げふっ!?」


しかし、四つん這いになりながらすがるように部下の元に行ったコノハを、その忍は蹴り飛ばした。


「なに…?」

「全く逆だよ、お嬢ちゃん。完全にこいつを見放したから行動に移したまでだ」


ゴミを見るかのようにコノハを見下している。


「見放したから…?何を言ってるんですかあなたたちは?だったら早く降参してくれればいいのに」

「なに、こいつが本当にどうしようもなくなったら動けという命令に従ったまでだよ」

「命令…?」

「あぐぅぅ…」

「おい、楓!」


リリィが忍と話している間、カエデは苦しそうに呻いていた。


「やれやれ、即効性の毒を塗っていたんだけどな…竜ってのは化け物だね」

「ち、やっぱり毒か…おい楓、ちょっと待ってろよ。すぐ終わらせてきてやる。毒くらいじゃ死なねぇはずだ。竜でよかったな」

「先生…すみません…」


謝るカエデを床に寝かせて、刀を構える。


「さて、で、誰なんだ?お前らに命令してる奴らってのは。どうやらお前ら全員がそいつに命令されてたわけじゃないみたいだが」


よく見ると、なにが起こっているかわからないという顔をしている忍もいた。


「私の信頼できる者たちだけに命じていたものでね。まぁ、他の者たちも今から味方につくと信じているがね」

「あ…お、お父様…?」


コノハが目を見開いて驚いている。現れたのは、魔物との戦いで忍として生きれなくなったというコノハの父親だった。


「木葉よ、ご苦労だったな。お前が愚かであったおかげで計画がスムーズに進んだよ…」

「な、なんでお父様が…」

「なんで?やはりお前は愚かだな。貴様ごときに風魔を預けた親父殿は本当にぼけてしまったのかね。もちろん、風魔を復活させるためさ。私が取りまとめてみせるさ」

「風魔の復活…お、俺だって風魔のために、よくわからない奴らを利用して竜の力を手に入れかけてたんだ…!」

「よくわからない奴ら、ね。やはりお前は詳しく調べようとはしなかったか…あのかたがたは、本当は私と共闘関係にあるのだよ」

「え…」

「少し探ればわかることなのだがね…そうしたら、お前もこちらに加えてやろうと思っていたのだがな。さて、お待たせしたね黒の剣。楓をこちらに渡してもらおうか?」

「いきなり出てきて何をふざけたこと言ってんだ?悪いけど、竜を道具としか思ってないお前らにはムカついてんだ…それ以上に、楓まで道具としか考えてないことにムカついてるがな」

「何を言っている?私は竜には敬意を払っているよ。もちろん、丁重に扱わせていただくよ」

「楓を犠牲にして、か?」

「それこそ愚問だよ。忍は、もともと道具だ。我々は自分の主に仕える道具だよ。今は仕える者もいなくなってしまったがね。だから楓を道具として扱うのはむしろ最大限に評価してるが故だよ。ま、楓じゃなくとも竜を宿してくれたら誰でもよかったのだがね」

「こっちこそ知ったことじゃねぇよそんなの。楓は楓だ。俺の弟子だ。俺は道具を弟子に取るほど物好きじゃねぇ。楓は、1人の人間だ」

「ふん、東国の人間のくせに馬鹿なことを言う奴だ。なんでもいいが、早く楓をこちらに渡さないと、死ぬぞ?」

「毒くらいで死ぬか。竜舐めんじゃねぇぞ?」

「まったく、先ほどから話を聞かないやつだな。私は竜に敬意を払っていると言っているだろう?当然、普通の毒では死なないことくらい知ってるさ。普通の毒では、ね」

「アキ坊、あいつは竜を捕まえた主犯格の1人だよー。竜を殺す毒だって、持ってないとは言えないねー」

「ちっ…その口ぶりだと、解毒剤は持ってるみたいだな?」

「ああ、本当に死なれたらまた計画を1から練らなくてはならなくなるからな」

「それを聞いて安心したぜ。ようは、お前をぶっ倒して解毒剤を手に入れればいいだけだからな」

「そうだな、当然そう来るだろうさ。しかし、楓ももって後10分…いや、5分だな。それまでに、これだけの数の忍を相手して、私のもとに辿り着けるかな?」


忍たちが武器を構える。その数は先ほどよりは減っていたが、まだ多い。しかし、アキヒトは焦ることはなかった。


「…楓、もって5分と言われてるが、どうだ?」


床に寝ているカエデに声をかける。その顔は不敵に笑っている様だった。それにカエデも不敵に笑って答える。


「そうですね…あと、3分、ですかね」

「なんだよ、もうちょっと頑張れよ…でも、それだけあれば十分だ」


アキヒトの顔にはなお不安の色はなかった。アリスも同様に笑っている。リリィだけえ?え?と、焦っている。


「アキ坊、ファイトー」

「手伝ってくれてもいいだろうが…ま、いらないけどな」


そういうと、アキヒトの刀、黒櫻くろざくらの刀身が黒く染まった。そして、


「ふっ…」


アキヒトの体が一瞬ぶれた、と思った時には、既に終わっていた。


「な…ん、だと…!?」


50人ほどいた忍が、全て血を流して倒れていた。


「はぁ…はぁ…さ、さすがに、つかれるな、これだけ速く動くと…」


アキヒトが一瞬で全て斬り伏せたのだ。カエデや他の忍でも足元に及ばないくらい速く。


「おーアキ坊。また速くなったんじゃないかー?」

はやぶさの移動方法を参考にさせてもらってな。これスゲー疲れる…」

「お疲れさーん。こっちも終わったぞー」

「何を…」


言っている、と言おうとして気が付いた。リリィが、カエデに何かを飲ませている。


「それは…!?いつの間に?!」

「はっはっはー!空間魔法でアリスちゃんの右に出るものはいないのだよー?」


アキヒトが一瞬で忍を倒して、コノハの父(後で知ったことだが才蔵都いうらしい)がひるんだ時に、空間移動して近付き、懐から解毒剤を抜き取っていたのだ。それを今リリィがカエデに飲ませている。


「楓、大丈夫か?」

「んぐ…げほっ、げほっ…大丈夫じゃないです。これ、恐ろしく苦いです」

「お前が冗談言うなんて、本当に大丈夫じゃないのかと心配しちまうからやめろよな」

「たまにはいいじゃないですか…ちょうど3分。お見事です、先生」


カエデの呼吸は整い、もう心配はなさそうだった。


「ぐっ、青竜の女か…!貴様だけが今回の計画には予想されてなかった異分子だったが…やはり邪魔してくるか」

「アリスちゃん気まぐれだからねー。最初から計画に組み込まれてたら手伝わなかったかもー?」


プルプルと震え、怒りをあらわにしているコノハの父。


「それにしても旦那様、どの口が一対多が苦手とか言ってたんですが?全然余裕じゃないですか」

「一対一に比べると苦手なんだよ。めっちゃ疲れてるし」

「相変わらず次元の違う話ですね…」


あきれたような、見直したような、どうしたらいいのかわからないといった感じでリリィは苦笑していた。アキヒトはそんなリリィの頭をポンポンと撫で、チャキッと刀をコノハの父に向け、宣言した。


「さて、後はお前だけだな。楽に終わると思うなよ?お前は俺を、俺たちを怒らせた…竜の逆鱗に触れちまったんだからな」

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ