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黒き剣と白き花  作者: ベンツ
忍と竜
13/32

2章目スタート。

アキヒトの新たな弟子は…

今日は珍しくアキヒトの働く日、つまりは実戦演習の日である。リリィの面倒と所構わず挑んでくる生徒の相手以外の唯一の仕事である。と言っても、普段は演習になってもめんどくさがってほとんどなにもせずに終わることが多かったのだが、


「よーし何人でもいいから一度にかかってこい。その代わり俺は普通に刀抜くぞ」


珍しくやる気だった。生徒たちも何事かと目を丸くしている。


「なんだ?どうしちまったんだ先生?」

「なんか悪いものでも食べたのか?それとも何か先生を変えるようなことが…あ」


一斉にリリィに視線が集まった。


「え?なに?あー私のおかげで旦那様が変わったって?そりゃ毎日旦那様と愛を育んでるから?なにかあったかもしれないけど〜」

「オルブライト…お前なに食わせたんだよ」

「あれか、その辺の草の鍋とか」

「あ、そっち疑われてたのね…てかなんなの、その辺の草の鍋流行ってるの?なんでもいいけど変なものなんか食べさせてないわよ。昼間はベッキーが餌付けしてるし」

「そうか、オルコットさんがその辺の面倒見てるならそれはありえないか」

「だよなぁ」

「お前ら一回しばいたろか…?」


リリィとレベッカの評価の差は相変わらずだった。


「まぁでも刀を抜いた先生とやりあえることなんて滅多にないし…」

「そうだな。よし、やろうぜみんな!」

「なら俺からだヒャッハー!」


ガスッゴスッズバッズサァー


どこからともなく現れたいつぞやのヒャッハー君が一瞬のうちにボロ雑巾のようになっていた。


「だから誰なんだよあいつ…」

「先生も容赦ないな…」

「お前ら、1人で挑むとああなるぞ。全員でかかれ!」


ヒャッハー君の犠牲を無駄にせず、複数名で同時攻撃をかける生徒たち。前後上下左右様々な方向から攻撃を浴びぜる。


「いいぞ、だが甘い」


それをアキヒトは避けたり刀をつかい逸らしたり弾いたり、全部的確に処理してみせた。


「どうなってんだよ…一発もあたんねぇ」

「ほらどうした、もっと速く鋭く正確に打ち込め。でなきゃりゃもっと数を打ち込め」

「さすがに余裕ですね…ベルヘルト君たちも手伝ってよ〜」


傍観していた金髪の生徒とその隣にいたメイド姿の女生徒が声をかけられ、ニヤッとした。


「そうだね、複数名でってのはちょっとずるいかもしれないけど、黒の剣を負かすってのは面白そうだ。なにより、どうやら先生は峰打みたいだし、死ぬこともなさそうだし。やろうか、アンネ」

「ベルヘルト様が行くのなら、私もお供させていただきます」


そして2人ともそれぞれの獲物を構える。金髪の生徒は近距離からの攻撃を得意とするカッツバルゲルと呼ばれるS字型もしくは8の字型の鍔と魚の尾ビレの形をした柄頭が特徴の剣。メイド姿の女生徒は刺突攻撃特化のレイピアであった。


「い、いやちょっと待てよ、ここで『はやぶさ』と『啄木鳥きつつき』を投入するのはさすがにキツイって…」

「先生なら大丈夫ですよ…行きますよ!」


そう言うと、ふっと金髪の生徒、『隼』ベルヘルト・ハーゼンバインの姿が消えた。消えた、と見えるくらい速く移動したのだ。


「ちっ…そこか!」


キィン、と背後からの一撃を受け止めるアキヒト。


「さすがに一撃とはいきませんか」


ベルヘルト・ハーゼンバインは入学して早々、学内序列9位の生徒を決闘で見事負かし、『隼』の2つ名を手にした生徒である。その名に恥じることのない速さで相手に急接近してからの近接戦闘を得意としている。


「私も、参ります…はぁ!」


今度はメイド姿の女生徒、『啄木鳥』アンネ・テニエスが、手にしたレイピアで猛烈な突きを放つ。


「うぉぉお!?は、速いっての…!」


それをアキヒトは全力でいなす。アキヒトであってもいなすだけで精一杯なほど、速く鋭く正確な突きを放っているアンネ・テニエスは、ベルヘルトの付き人件護衛役でもある生徒だ。ベルヘルトが9位なら私もというだけの理由であっさり10位の生徒を倒し、こちらも『啄木鳥』の2つ名を手にしている。


「よっしゃ、俺たちも攻めるぞ!」

「黒の剣を負かしてやろうぜ!」


その2人の猛攻を見て、他の生徒もアキヒトに挑みかかろうとする。


「この2人相手にしながらはさすがに…リリィ!お前も手伝え!」

「はぇ?私、ですか?」


ベルヘルトたちと同じように傍観していたリリィに手伝いを求めるアキヒト。突然のことでリリィもポカンとしている。


「お前らの中でのこいつらの評価は知らんけど、本当に厄介なんだよこの主従は!お前他の生徒の足止めしとけ!」

「…にへ、にへへ、旦那様が戦闘において私に助けを求めるとは…お任せください!『白き花』、リリィ・オルブライト、愛する旦那様に加勢します!」


ちなみに、リリィもなんと2つ名を手にしていた。8位の教師に決闘を挑み、勝ったのだ。と言っても、実のところ竜の力を使い、チートレベルの腕力で強引にねじ伏せたのだ。教師の方もその圧倒的な腕力に戸惑い、隙ができてしまったという反則勝ちのようなもの。そして、そんな勝ち方をしてしまったリリィについた2つ名は本人が自称した『白き花』などではなく…


「くっ、『白巨人ホワイトタイラント』のおでましか…」

「あの筋肉自慢の先生をねじ伏せた腕力に俺たちで敵うのか…!」

「その2つ名やめて!可愛くないし嬉しくない!私巨人っていうほどでかくないし!」


白巨人ホワイトタイラント』という女性にとってなんとも不名誉な2つ名だった。ちなみに異論を唱えているのは本人だけである。


「あなたたちくらい竜の力…ごほん、腕力なしで勝ってみせるわよ!」


しかし、リリィはただ竜の力のみで強くなったわけでもなかった。アキヒトの見込み通り、刀はリリィにあっていたらしく、みるみるその腕は上達していった。今ではアキヒトの訓練相手になるくらいに上達しているほどだ。


「なんでもいいけどそっちは任せたぞ。さて、2人が相手なら俺も真面目にやりますか」


レイピアの猛攻をしのぎ、2人から距離をとり刀を構え直す。しかし、気がついた時には既にベルヘルトに肉薄されていた。


「この程度の距離、あってないようなものですよ」

「そうみたいだな…はぁ!」


今度はアキヒトからしかける。ベルヘルトすかさずその速さをいかし、また距離をとる。


「くっ、さすがに反応が速い…アンネ、同時に行くよ」

「了解です…はっ!」


今度はアンネが突きを放つと同時に、ベルヘルトが姿を消す。


「この突きをしのぎながらあの速さに対応するのはやばいって…!」


またもや目にも留まらぬ速さの突きを刀でいなし続ける。しかし、ベルヘルトに背後に回られてしまった。


「後ろがガラ空きですよ!」

「ぬぉあ!?」


真後ろからの攻撃をギリギリで避け、地面を転がるようにレイピアの攻撃もさける。さすが主従、コンビネーションも抜群であった。


「一人一人でも厄介なのに2人同時はマジできつい…しかたない、少し本気を出そう…」


キンッと鞘に刀を戻し、目をつむり居合の構えをとるアキヒト。


「長引くとさらに厄介…一撃で終わらせてもらう」

「2人いるのに一撃とは…なめないでください。行きますよ!」


ふっとベルヘルトがまた姿を消すと同時に、レイピアの鋭い突きが放たれる。今度はレイピアの突きがアキヒトに届きそうな瞬間、またもアキヒトの背後に現れたベルヘルトの一撃も放たれる。前後からの同時攻撃。防ぐことは不可能に思われた。


「もらった…!」


アンネを防げばベルヘルトから。ベルヘルトを防げばアンネから。高速で放たれる2つの剣に、主従のどちらもが勝ちを確信したが…


「なっ…!?」

「い、いない…?」


2人の攻撃はどちらも空を切っていた。


「残念、少し遅かったな…はぁ!」


2人の横から、アキヒトの声がした。そしてその時には2人とも剣を弾かれていた。


「は、速い…」

「あー完敗ですよ、先生…」


アキヒトは隼よりも速く移動し、啄木鳥よりも速い一撃で2人の剣を弾き飛ばしていた。竜の力を使い、どちらも上回ってみせたのだ。


「いや、俺もまだまだだと思い知らされたよ…よくもまぁそこまで速い動きができるものだ」

「僕の家は速さを鍛えることに特化してる剣術なので、昔からそれだけを求めて訓練してましたからね。しかし、黒の剣の速さにはまだ及ばなかったようで」

「お見事です、先生」

「俺のこれは反則みたいなものだからなぁ…素の自分のままで超えたかったものだ」

「その反則がなんなのかは知りませんが、1人ずつであればその反則を使わせることもできなかったのでは?」

「まぁな。それが自覚できてるなら、もっと励めよ」


ありがとうございました、と、序列持ちと特別枠のハイレベルな戦闘は終わった。


「っと、そういやリリィの方は…」

「どっっせぇい!」

「「「ギャー!」」」


アキヒトがリリィの方を向いた時、ちょうどリリィが男子生徒三人を同時に吹き飛ばしているところだった。やっぱり結局腕力で解決していた。


「はぁ、多人数相手はさすがに無理でした…」

「いや、まぁそうなんだが…どっせいって掛け声は女としてどうなんだ…?」


白巨人ホワイトタイラント』の2つ名は伊達ではなかった。


〜〜〜〜〜〜〜


「今日の演習は珍しかったですね、クロノ先生が生徒の相手をまともにしてるなんて」


演習が終わった昼休み。いつものようにレベッカがアキヒトに餌付け、もとい昼食を用意していた。ちなみに最近ではリリィもともにいただいていたりする。


「オルコットさんも見てたのか」

「ええ、他の生徒が騒いでいたから何事かなって」

「そうよね、旦那様がああいうことするのは珍しいです。どうしたんですか?」

「まぁなんだ、最近ここに来て、というかリリィを見てて自分の弱点に気づいたからさ」

「弱点、ですか?」

「そうだ。どうも俺の剣術は一対多を苦手とするなぁって」

「そうですか?先生問題なく対応されてましたけど」

「まぁ普通の生徒相手なら問題ないってのはわかったけど、その後のあの2人相手だと力を使わないと負けてたと思うし」

「そうなんですね…まぁ確かに、私も結局複数人相手だとやばかったので力使いましたしね」

「だからちょっと改善できないものかと思って、まぁようは指導というより自分のためだな」

「そういうことだったんですね…ところで、2人の言う力ってなんのことですか?」

「あー、まぁなんだ、秘中の秘、ってやつなんで気にしないでくれ」

「そうよ、私と旦那様だけの!秘密なんだから」


得意げにだけを強調するリリィ。


「へーそういうものですか」


レベッカは全く気にしていなかったが。


「俺もまだまだ精進しないとなぁ。全盛期の鉄人やら剣聖には及ばん」

「クロノ先生って、案外剣のこととなると熱心なんですね。普段はニートみたいなのに」

「ニートは余計だが、まぁ俺にはこれしかないからな」

「そんなことありません!旦那様にはまだまだ色々あります!」

「はいはい、ありがとな」


ぽんぽんっとリリィの頭を撫でる。それだけでリリィは至福の顔をしていた。夫婦関係は良好なようでなにより。


「あ、ごめんなさい、ちょっと先生に呼ばれてるんでした。先に戻りますね」

「了解。ごちそうさまでした」


そう言って、レベッカは先に戻っていった。なので、ここからは夫婦水入らず、甘い時間が、


「…やることないし俺たちも戻るか」

「そうですね〜」


始まることはなかった。最近ではリリィも少しは落ち着いて来て、なおかつアキヒトには毒されてきていて2人とも普段はボケーっと過ごすことも多かった。が、今日はそうも言ってられないようだった。


「…ん…?」

「どうしたんですか…きゃっ!?」


キィンキィンキィン


「いきなり物騒だな」

「な、なんですか、これ…?」


アキヒトが刀で弾いたものは、クナイであった。


「クナイっていって、俺の国でも一部の人間しか使わない特殊な武器だよ」

「そうなんですか…って旦那様、刀を…」

「抜くしかなかったんだよ…それ、多分毒塗られてるし」

「ど、毒ですか?」

「しかも俺を狙ってきてたなら避けれたが、わざわざリリィを狙いやがって…おい、出て来いよ」


アキヒトがそう言うとどこから現れたのか、いつの間にか女生徒が膝をついてアキヒトに頭を垂れていた。


「うわ!びっくりした…」

「忍、か…久しぶりに見たな…いや、一応前に会っているか」


女生徒は頭を下げたまま、名乗った。


「はい、私は剣術科Aクラス…風魔楓…カエデ・フウマと申します」



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