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黒き剣と白き花  作者: ベンツ
第1章 白き花
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プロローグ〜出会い〜

黒き剣と白き花の出会いは…全く美しいものではなかった。

王立イーストウェル学園。

近年この世界、ネーロビアンコに急増した「魔物」に対抗するために剣と魔法に優れた者が集められ、一流の戦士として育てられるために作られた学園である。完全に実力主義の学園で、強い者が偉い。ただ剣の腕や魔法の強さの問題ではなく、戦いに勝つことこそが強いとされている。教師陣も選りすぐりの猛者が集められているが、生徒の一部は教師を上回る者もおり、特別な権限が与えられていたりする。

そんな学園に今日から通うことになった少女が1人。名をリリィ・オルブライトという。背には体格に見合わぬ大剣を背負っている。


「さてと、始めますか」


人気のない空き地で、彼女は背の大剣を抜く。


「強くなる…私は強くならなきゃ…」


彼女は毎朝、1人で剣の鍛錬をこの場所で続けている。獲物の大きさから、十分に振りまわせてかつ人気のない場所というのはなかなかないものだ。剣の鍛錬を始めた時から使用しているこの場所で、彼女が鍛錬を始めようとした。が、その時視界に入ったのは人の姿だった。空き地の岩の上に、人が座っていた。


(え…うそ、気配を感じなかったのに…というか…)


姿を目にしているにも関わらず、未だその気配はほとんど感じ取れなかった。


(なんなのあいつ…見慣れない格好…確か、東国のキモノ、というやつだったかしら?)


しかし妙な話である。彼女はここをもう10年以上使っているが、今まで一度も東国の格好をした人など見たことがなかった。


(何者なの…それに、気配の消し方がどう考えても一般の人のそれじゃない…怪しいやつ…とりあえず、斬る)


彼女はその名の通り見た目は花のように美しい容姿をしているが、剣士になることを決めて以来ほぼほぼ剣一筋に生きてきたためか、のうき…考える前にまず行動してみる性格であった。しかもかなり極端な行動に出ることが多い。


(獲物は…刀、ね。いかにも東国の人間らしいわ)


あぐらを掻いて座っている人、どうやら男のようだが、その男は腰に刀を1つ、そしてもう1つは手につかんで岩に突き立てるように持っていた。刀の柄は握っていない。


(相当な使い手っぽいけど、最初から思いっきり重い攻撃叩き込んでやれば、仮に刀での防御に間に合っても吹っ飛ばしてやるわ。むしろその刀へし折ってやるわ)


一応は相手を観察し、どう出るか考えはするが、完全パワー型の彼女の解決方法は当然パワーでのゴリ押しである。


(それにしても、完全に無視されてるのかしら…全然こちらを気にしてる様子がないわね。なんかムカつくけど…これならいける!)


彼女はジリジリと距離を縮め、自身の射程距離に入った瞬間、およそその可憐で華奢な見た目から想像もつかないくらいのスピードで大剣を振るった。


「はぁぁぁぁあ!」


もらった、と彼女が確信しかけたその時、


ガキィィン


と、金属と金属のぶつかり合う音が聞こえた。


「…えっ!?」


防御されたと気がつくのに1秒ほどかかった。男は親指で手につかんでいた刀の鍔を弾き、数センチだけ刀の刃を出し、そこだけで正確に大剣を防いでいた。しかも、その圧倒的なパワーにも関わらず、1ミリも吹き飛ぶようなこともなく。


「おぉ…なかなかびっくりした。まさかいきなり斬りかかってくるとは」


男は少々驚いているようだったか、涼しげな顔でそう言った。


「う、嘘でしょ!?そんな簡単に防がれるなんて…」

「うむ、自信持っていいぞ。なかなかのパワーとスピードだ。斬りかかってきたら避けようと思っていたが思わず刀で防いでしまった。てか本気で斬りかかってくるとはあんまり思ってなかった。正気かい君?」


驚いたというようなことを言っている男よりも明らかにリリィの顔の方が驚愕に満ちていた。彼女はそれなりに剣に自信を持っていたが、こうも簡単に防がれるとは思っていなかった。自信を持てと言われても、無理だった。


「しかし、そろそろ限界、かな?」

「え、な、何が…?」

「いや、なんでもないよ。おっと、そろそろ行かなきゃならないかな。めんどくさいなぁ…でもご飯食べられなくなるしなぁ…」


何事もなかったかのように刀で大剣を押し返し、キンッ、と刀を鞘に戻し、腰に刺さっているもう1つの刀と同じように腰に戻し、男はその場を立ち去っていこうとした。


「ま、待ちなさいよ!あなた何者なの?限界ってなんの話よ!」


リリィはようやくショックから戻ってきた。


「んー?まぁ、なんつうか…めんどくさいからまたどこかで出会えたら教えてやるよ。じゃ、そういうことで」


それだけ言い残し、本当に男は立ち去っていった。


「な、なんなのよ…入学式典当日だっていうのに、朝から自信なくすわ…」


彼女はそう言って嘆くことしかできなかった。



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