2話4幕
「うわあああああああああ!!」
男の悲鳴が聞こえた。
「!?」
「え、な、なにっ?」
南はビクッとして、怯えた様子で問う。
「もしかしてさ...」
「あぁ...かもしれないな」
まったくもって、なぜこう見計らったようにこういう面倒ごとに出くわすのか。
「くそ...!」
俺は声のした方へ行こうとする。
しかし、南がそれを止める。
「やめようよ、自分から巻き込まれに行くことないよ!」
南は俺の身を案じてくれているようだ。
「でも、流石にほっとけないよ」
頭に、ある事件のことがよぎる。
俺は走り出した。
「あっ、お兄ちゃん!」
「お前は先帰ってろ!」
南は、その様子を見送ることしかできなかった。
「もう...家の場所わかんないって...」
仕方なく、南は周りに気をつけながら、スマートフォンを起動し、操作し始めた。
「はぁ...はぁ...」
息を切らしてついた先は、明かりがほとんどない裏路地だった。
薄暗い中に、影が2つ見える。
(倒れているのは...男っぽいな、被害者か。じゃあ立っているのは...)
目を凝らすと、体のラインからして女だと思われる。
女が動いたように見えた。
「待て!」
俺は声を上げる。すると、女はこちらを向いたような気がした。
「...」
女は何もしゃべらない。俺はじっと、女の動きを見つめる。
そこで、女が何かを持っているのが見えた。
(あれは...?)
薄暗くてよくわからないが、そう大きいものではないように見える。しかし、その形状と、女が両手で持っていることから察すると...
(まさか...コンクリか...?)
女は再び倒れている男に向き直り、手に持っているものを振り上げた。
「やめろ!」
俺は女の動きを封じようとするが、避けられてしまった。
だが、ここで逃すわけにもいかない。獲物を持って倒れている人間に攻撃しようとしたのだ。そんな危険人物を野放しにはしたくない。
俺はせめて手だけでも捕らえようと、何度も距離を縮めようとするが、上手く距離を取ってくる。
「そんな捕まりたくないのか...」
(俺の身近で人が大怪我したり死んだりするのはもう嫌なんだけどなぁ...)
七年前のある事件。その時俺は、目の前で人が殺されるのを見た。
(あんな思いはするのもさせるのも嫌だからな...仕方ない)
俺は、昔やっていた格闘技の技術を使うことにした。何年もやっていないが、結構練習していたし多少は動けるはずだ。本当は、相手が格闘技を心得ていない以上、よほど練習していなければ相手に大怪我を負わせることになる。だからここまで使えなかった。しかし、今はそれどころではない。
少し姿勢を低くして、そして一気に駆け出す。そのまま女に肉薄し懐に入り込んで、背負い投げをしにかかる。
突然の動きの変化に動揺したのか、女は反応できずに背負い投げを受ける。
――――はずだった。
女は、背負い投げの最中に体を捻り、足で着地したのだ。
「なっ...」
そしてそのまま俺の腕と懐を掴み、今度は逆に俺に背負い投げをする。
「がっ...」
(なんてやつだ...っ)
俺はなんとか受身をとったものの、アスファルトに背中を打ち付けてしまう。しかし、相手が背負い投げの型通り腕を離さなかったため、後頭部は打たずに済んだ。
体勢をもう一度立て直す。
そこでふと、疑問が生じる。
(腕を離さなかった...なんでだ?)
本気で相手を怪我させたり、それこそ殺す気なら、手を離して頭を打たせた方がダメージは当然大きい。柔道などで背負い投げをした際、腕を持ったままにするのは、後頭部を打たせないようにするためだ。今の対応と動きの滑らかさからして、そういった格闘術の経験者かつ、体にその形が染み付いている可能性があるのではないか。もしくは、人を襲いはするが、本気で大怪我をさせたりする気がないのではないか。
そう考えると、思考が混乱してくる。この女は一体どういうつもりで男を襲撃しているのだろうか。
と、そこまで考えたところで、突然光が差す。
「おい、何してるんだ!」
「お兄ちゃん!」
「まぶっ」
結構眩しい。懐中電灯の光だろうか。
声のした方を見ると、二つの薄いシルエット。片方は少女に見える。声からして南だろう。もう一つは...
「お巡りさん...?」
お巡りさんはこちらへ寄ってくる。すると、さっきまで俺と闘っていた女は、すぐさま逃げてしまった。
だが、俺はそのとき、懐中電灯に当てられた服を見逃さなかった。
(うちの学校の制服...?)
「いっつつ...」
背中の痛みを思い出して、ついうめく。
「君、大丈夫か」
「お兄ちゃん大丈夫!?」
2人が俺に寄る。
「あぁ、ちょっと痛いけど...まぁ平気かな」
(意外と動けるもんなんだなぁ)
あんなことを繰り広げていたわりに、俺は別段あの謎の女に、恐怖だとかは抱いていなかった。なぜなら、襲われたとか闘ったというよりも、どちらかと言えば格闘技の組手をした感覚に近かったからだ。
それに、どこか懐かしさも感じていた。
「とりあえず、交番まで来て話を聞かせてくれないかな」
「あぁ、はい」
その後、救急車を呼んで、被害者の男を搬送してもらい、俺はよくわからない感覚を抱いたまま、交番に行って状況を説明した。
(どうしてこう、面倒ごとが寄ってくるかなぁ...)
厄介ごとは来ても、俺に平凡は来ないのだった。
〇〇は××のコンセプトをもう早くから忘れかけていました。ゆきです。
今回はちょっと変な方向へ走りすぎて、結構大きく文章を変えたので、違和感を感じる部分があるかもしれません
念のため、この作品はシリアスな展開やコメディとしてのそういう描写はあっても、スポーツものとかバトルものとか格闘ものとかその手の展開にはならない(予定)なので!あしからず!
自分の拙い文章でも需要があればそういうのは別で書こうと思います
まぁほかのいろいろな人が書いていらっしゃるのでそれはないと思いますが...
次回は3話になる予定です。それでは、またその時に