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2話3幕

 帰りの電車を待つ駅のホーム。悲劇の始まりは、そこで起こった。

 携帯のバイブがなる。何かと見れば母親から着信だ。

「北斗ごめ~ん。南、今日には着いちゃうわ~」

「はっ?」

 出るやいなや、またもや意味のわからないセリフが飛んできた。

「到着はそっちの時間で20時くらいよ。荷物とか先届くと思うから、よろしくね~」

「いや待て」

「あ、学校関係の手続きは全部終わってるから安心してね」

「あの」

「じゃあね~よろしく~」

「だかr」

 プツッ。

(切りやがった...)

 取り付く島もない。

 え?今日?一昨日に「来週」って言ったんだから、5日も前倒しということになる。そんなの誰が予期できようか。

「まじかよ...なんも受け入れる準備してねぇって...」

 主に心の準備だが。家も、俺ひとりが支障なく住める程度には片付けているが、俺の持ち物や金銭関係の書類、学校関係の書類などなど、そこそこ散らかっている。

「もういいやめんどくさい...」

 もう諦めてやる。俺はため息を漏らしつつ、家へと向かった。

 家に着くと、タイミングを見計らったかのように配達が来ていた。この急な事態に対応させられる俺の身にもなってほしいところだ。


「こちら衣類になりますね~」

「はいはい」

 俺と配達員さんの2人で南のものと思われる荷物を、空き部屋に運ぶ。

「そちらは割れ物あるのでお気をつけください」

「あ、はいはい」

(いろんなもん送ってきたなぁ...ていうかどんだけあるんだよ)

 ここで、俺はあることに気づく。

 この荷物、全て国際郵便で送られてきているのだ。国際郵便だと、手続きや検査、運ぶ距離でかかる時間などを考えると、急遽明日にしたなんてことは考えにくい。つまり、一昨日の時点で送る手続きをしていたはず。ということは、最初から明日来る予定だったのだ。

(あいつら...)

 家族にするとは思えないほどのいじめのような仕打ちに、俺は胸中で頭を抱える。

「なんであいつらはことあるごとに俺を困らせるんだ...」

 わけがわからないよ。こんなの絶対、おかしいよ。

 そんなこんなで、荷物を空き部屋に置き終えた。そのあと俺は昼食を食べつつ、録画しておいた今期新たに始まった深夜アニメに目を通したり、家の片付けをしたりして、時間を潰した。


 日も落ちてきた頃、俺は出かける準備を始めた。妹ということは、少なくとも中学生以下のはずだ。それに、日本には不慣れのはず。迎えに行ったほうがいいだろう。

(あんな人でなしの家族にここまでする俺って、仏と同列に扱われて(しか)るべきなんじゃなかろうか)

 なんてくだらないことを考えていたら、もう18時になりそうになっている。空港へはここから電車を使って2時間前後、連絡によれば到着は20時頃だ。そろそろ空港に向かうべきだろう。

 俺は2人分の傘を持って家を出た。


 空港についたところで、ちょうど電話が鳴った。知らない番号だ。

「もしもし」

「あ、もしもーし。南だよ~」

 南さんからでした。

「空港ついたから迎えに来て!」

「俺も今ついたから待っとけ。待ち合わせは...1階のコンビニでいいか?」

「おっけー。ピンクのキャリーケース持ってるいかにも中学生な女の子がいたら高確率であたしね!」

「りょーかい。傘二つ持ってて黒のジャージ着てたら多分俺だ」

「ほいほーい」

 互いの特徴を伝え合って、電話を切る。

 妹というのは初耳であるし、仮にそうでなくても、記憶に残らないほど前のことだろう。だから、どんな子なのかやっぱり気になる。男である以上、女の子の見た目やらは気になってしまうのだ。

 若干そわそわしながら待っていると、ある女の子が見えた。

 身長は低めで、少し(おさな)げだが整った可愛らしい顔立ち。髪はセミロングより長めかという程度だろうか。今は後ろでポニーテールのようにまとめているが、この感じではそうめちゃくちゃ長いということもなさそうだ。うむ、いかにも中学生...というか子どもだ。持ち物は、財布とその他がある程度入りそうなくらいのポーチと、手には淡いピンクのキャリーケースを引いている。高確率で、と言っていたが、そもそも平日のこの時間にそんな見た目でこの持ち物の人はそうそういない。確実にあの子だろう。

 向こうもこちらに気づいたようだ。少し駆け足でこちらに向かってくる。そして普通に話す距離まできて、少しおずおずとしながら、こちらに話しかけてくる。

「藤方北斗さんでいーですか?」

「あぁ。そっちは、藤方南さんでいいかな?」

 この状況で俺に本人確認をしてくるのはほぼ間違いなく彼女だけだろうが、念のためこちらも問う。

「うん!」

 明るく(うなず)く。どうやら藤方南本人のようだ。元気があってよろしい。

「そりゃっ」

 と、不意に南が抱きついてくる。

(ん...?これ...)

 ふとしたことに気づいたが、気づかなかったふりをする。

「な、なに?」

 年下で家族とはいえ、初対面だし年頃の女の子だし自分もそういう年頃なわけで、やっぱりドキドキしてしまう。多分ビックリしたのもあるだろうが、そういう意味合いが強い気がする。我ながら男であることを痛感する。

「あ、こっちでは普通ハグはしないんだっけ」

「あぁ、挨拶だったねそういえば」

 海外では、挨拶と同時にハグだったり頬へのキスだったりをすることが多い。それこそ、感覚的には挨拶と同じみたいなもののようで、向こうではわりと自然なことのようだ。

「とりあえず遅くなっちゃうし、家に向かおうか」

 そう言って、空港に繋がっている駅に向かい、電車に乗る。その道中から電車内、俺達は世間話を繰り広げようとしていた。

「あたしのことは呼び捨てでいいからねー」

「ん、わかった。俺は呼び方はなんでもいいよ」

「じゃあクソ兄貴」

「なんか傷つくから却下」

 別にクソだと言われるようなことはしてないつもりだし、言われる筋合いもない。それにクソはなんかちょっと嫌なので却下する。すると、南は意外だという顔をしてきた。

「萌えない?」

「萌えない」

「じゃあご主人様」

「鞭打ってやろうか?」

「あぁんありがとうございますぅ」

 南はくねらせながらそれっぽい声を上げる。妙に色っぽいのはなんでだ。ていうかやめなさい。

「...」

(めんどくさいから突っ込まなくていいや)

「んー、じゃあ下僕」

「俺がお前の言いなりになるとでも?」

「ならざるを得ないと思うな~」

「えっ?」

 そう言って南が見せたスマートフォンの画面にはなぜか、俺が以前友人の勧めで買った(半分無理やり買わされた)、ちょっとハードな描写があるエロゲの写真があった。

「なぜそれを...」

「んふふー♪お兄ちゃんこういうのが好きなんだね~」

(あとで家中引っかき回して隠しカメラとかないか探すか...)

「まだ他にもあるよー?」

 とりあえず、今のところ弁解の余地はなさそうなので適当に返す。

「勘弁してください」

「仕方ないなぁ。じゃあ普通にお兄ちゃんで」

「仕方ないってなんだよ...最初からそうしろよ...」

 なぜ呼び方の話だけでこんなに疲れるんだろうか。

 “お兄ちゃん”は、電話の時も呼ばれていた。実際家族関係としては間違っていない(らしい)のだが、どうにもこそばゆい。

 若干照れていると、南が少し不思議な様子で訊いてくる。

「そういえば、最初に電話したときみたいに堅くないね。」

「あぁ、まぁ家族だし――――」

「――――あー、朝じゃないと自然にはたたないんだっけ?」

 電車内の空気が固まる。本当にそう疑問に思っているような表情だ。

「てことは今だと...興奮しなきゃいけないんだね...。流石にこんなところで興奮はできないか...。」

 とても残念そうにしている。なぜ残念そうなんだ。

「だから女の子がそういうこと言わないの!ていうか言わないで!」

 電車内に乗り合わせた人たち見てるし!

 居住いを直して、改めて言う。

「家族なんだから、堅い振る舞いもどうかとは思うしさ。それに...」

「それに?」

「電話してて、親と同じタイプの人間ってわかったから、同じ扱いでいいかなーって」

「あー、なるほど」

「なるほどじゃねーよ。自覚あるなら直せ」

 うん、親と同じ扱いでいいや。

 そのあとも、それぞれの近況とかそういう話をしながら、電車に揺られていた。


 雨の中、サラリーマンが歩いていた。

 残業で遅くなってしまった彼は、家へ向かう途中だった。早く帰って休みたい、近道をしよう。その気持ちが、彼を人気のない、薄暗い裏路地へ引き寄せる。

 そこに、噂の中心がいると知らずに。


 家の最寄り駅に着き、そういえばと俺は1番気になっていたことを訊く。

「俺、南の存在すら知らずにいたんだけど、どういうことなんだ?」

 すると南は、少し悩むような、困ったような顔をした。

「あー、えーっと、それは...」

 どうやらあまり話したくないことのようだ。

「まぁ言いたくないことなら無理には聞かないよ」

 南は、少しほっとしたような、しかしまだなんだか困ったような表情をする。やはり、自分から言いたくなるまでは、聞くのは良くないだろう。

「うん...ごめんね、家族なのに知らないことがあるって、嫌だよね」

「いやいや、家族だからって隠し事しないってのも変だろう。家族である前に1人の人なんだから、プライベートなことってのはあって当然だよ」

 すると、さっきより安心の色が強くなった表情で、南は言う。

「そうだね。別に隠し事があっても、おかしくないよね」

 その言葉に、俺は頷く。そう、なんだっていいのだ。その人がその人なら、南が南なら、それでいいのだ。

「お兄ちゃんも、お父さんやお母さんにオカズの趣味秘密にしてるんだよね!」

「ブッ」

 吹いてしまった。そして駅内の空気が固まっている。

「だからなんでそういう方向に持ってくんだ!」

「でも間違ってないでしょ?」

「内容は間違ってないけど方向が間違っとるわ!」

 周りの人たちに注目されてるしさぁ...。あ、これは俺がうるさいせいかな?

「え~。お兄ちゃんの言うことは難しいなぁ」

「俺にはお前の思考のほうが難しいよ...」

 これから先が初っ端から不安である。


 そうして大方(おおかた)話題が尽きた俺たちは、喋らずに歩いていた。

 雨の音が大きく聞こえる。スマートフォンで確認すると、時間はもう22時を過ぎていた。

「そういえば」

 ふと思い出したことを、俺は口にする。

「ん?」

「最近この辺で、雨の日の夜に通り魔が出てるらしいんだ」

「えぇこわー...しかも今バッチリなタイミングじゃん」

 そう、今まさに事件が起きやすい状況そのものだ。

 南は不安げにあたりを見回している。自分も被害に会いたくないし、南を巻き込みたくもない。家まではもう数分もかからない。早く帰れば遭遇しないだろう。

「うん、だから早く...」

 帰ろう。そう言いかけたところで――――

「うわあああああああああ!!」

――――悲鳴が聞こえた。

うわああああああああああ!!!!!!

どうも、通り魔被害者のゆきです。

通り魔と言っていいのか不安ですが、まぁ無差別っぽいので通り魔で良さそうですね。

今回はちょっと不穏な展開に入ってきました。どうなるんでしょうねー。

続きはWebで!あぁもうここWebでしたすいません。

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